やまねこ翻訳クラブ 注目の未訳書16 David Almond

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David Almond , Skellig

Hodder Children's Books 1998, ISBN 0-340-71600-2

〜デイヴィッド・アーモンド作 『スケリグ』(仮題)〜
Review by 森 久里子

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 マイケルは、越してきたばかりの家の壊れかけた物置で、やせこけ、埃にまみれ、力なくすわりこんでいる不思議な生き物を見つけた。話しかけるとなげやりなことばを返し、テイクアウトの中華料理やビールを喜び、背中には羽のような不思議なものを生やしている。人なのか、鳥なのか、それとも天使なのか。あるいは、マイケルだけに見える幻想なのか。両親は、未熟児で病気がちな妹のことで心を痛めているので、これ以上おかしなことをいって、よけいな心配をかけるわけにはいかない。悩んだマイケルは、詩や鳥を愛し、学校を嫌う隣家の娘ミナに、この不思議な生き物のことを打ち明ける。そしてその生き物は、ふたりに「スケリグ」と名乗った……。

 本年度のホイットブレッド賞、カーネギー賞受賞作、ガーディアン賞候補作の本書は、瑞々しい文体で少年の幻想的な体験を描いた詩情あふれる作品だ。物語は、マイケルの漠然とした不安感をうかがわせる抑えたトーンの一人称で語られるため、薄いベールごしに登場人物たちを見ているかのような、不思議な距離感を保ちながらすすんでいく。その中で、ひとりスケリグだけは、くっきりとした輪郭を持つ強烈なキャラクターだ。この個性が全体のカラーといい意味での不調和をみせ、作品をいっそう魅力的なものにしている。

 孤独死したというこの家の前住人、病気がちの妹、そして次第に衰弱しながら生きようという意志をまったくみせない謎の生物スケリグ。マイケルは、さまざまな「死」と隣り合わせの生活を送りながら、「生」の希望を必死に模索する。マイケルの目の前に、かたちをとってあらわれた「死」の恐怖、スケリグは、マイケル自身とミナ、そして自然の助けによって、徐々に変化を見せ、マイケルを解放していく。それは子どもが、本来ならば自分ともっとも遠い位置にあるはずの「死」に感じた不安を経て、自ら獲得するものとしての「生」に目覚めていく過程である。

 読みながら、自分も子どものころ、突然「死」に恐怖を覚えて眠れなくなったことを思い出した。静かに、しかし強く、心の奥底を揺さぶられる一冊だった。(森 久里子)

 

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David Almond(ディヴィッド・アーモンド):1951年、英国ニューカスルアポンタイン生まれ。大学卒業後、文芸誌の編集者、教師などの職業を経て、作家デビューした。1980年代前半にはコミューンで生活していた経験もある。これまでに数冊一般向け小説を発表しているが、児童書は本作が初。今年に入って出版された2作目"Kit's Wilderness"も好評で、年末には"Heaven Eyes"を出版予定。

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1999年7月作成

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