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月刊児童文学翻訳

─99年3月号(No.8)─

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:[email protected]
1999年3月15日発行 配信数400


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎プロに訊く
第5回 鳥山淳子さん(マザーグース研究家)

◎特集
シノプシスの書き方 徹底研究

◎展示会情報
「絵本の100年展−母と子どもたちへの贈り物−」など全3種

◎セミナー・講演会情報
松居直氏公開講座「ことばの消える時代に」など全2種

◎注目の本(邦訳編)
ヴィクター・マルティネス作『オーブンの中のオウム』

◎注目の本(未訳編)
シャロン・クリーチ作『ブルーマビリティ』(仮題)

◎西洋のホリデイ
第1回 イースター(Easter)

◎世界の児童文学賞
第4回 ガーディアン賞



プロに訊く 第5回

―― 鳥山淳子さん(マザーグース研究家) ――

 

 児童文学を読む上で、マザーグースの知識は欠かせませんね。今回は、そのマザーグースの研究家、鳥山淳子さんにメールインタビューさせていただきました。鳥山さん、ありがとうございました。

 

『映画の中のマザーグース』表紙

【鳥山淳子(とりやまじゅんこ)さん】

 大阪外国語学部イスパニア語科卒業。メキシコのユカタン大学に国費留学。帰国後、スペイン語通訳ガイドの免許を取得。現在、大阪の府立高校英語教諭。著書に、『映画の中のマザーグース』(スクリーンプレイ出版)、共著書に、『たのしくわかる英語I 100時間 上巻』(あゆみ出版)などがある。また、エッセイ「引用の母、マザーグース」が『父と母の昔話 96年版ベスト・エッセイ集』(文藝春秋)に収録されている(今夏文庫化予定)。月刊誌『英語教育』(大修館書店)に、「マザーグースの散歩道」というコラムを連載中。

『映画の中のマザーグース』
スクリーンプレイ出版
価格:1300円(税別)

 

※鳥山淳子さんのホームページ 「大好き! マザーグース」
鳥山淳子さん作品リスト

 

★マザーグースに興味をもたれたきっかけ、研究の進め方などについてお聞かせください。

 きっかけは……イギリスの『子供の常識テスト』のマザーグースの項目がサッパリできなかったというコトです。

 マザーグースは、研究というよりも、趣味に近いです。映画が好きなので、ビデオを見ては、マザーグースを書き留めています。


★『映画の中のマザーグース』出版のきっかけ、まとめられた際のご苦労などについてお教えください。

 本屋さんで『映画で学ぶ英語ことわざ慣用表現辞典』という本を偶然見つけて、「あ、こんな感じでマザーグースについて書けそう!」と思い、スクリーンプレイ出版にハガキを出したんです。そしたら、「書いてください」と返事が来て、あわてました(笑)。セリフを書き取るのが大変でしたが、良い勉強になりました。


★現在のご研究内容、今後の展望はいかがでしょうか。

 現在、『英語教育』で、映画・児童文学・ミステリーなどのマザーグースの用例を連載しています。連載予定の詳細は、ホームページに載せています。連載があと2〜3年続いてくれたら、本になるのですが(笑)。

 あと、昨年の夏、ある出版社から、「『ポーの一族』の特集本を出すから、ポーの中のマザーグースについて書いてくれ」と頼まれ、まとめたのですが、出版社の都合で、本になるのは、いつになるやら。


★鳥山さんにとってマザーグースの魅力は、どんなところにあるのでしょうか。

 マザーグースって英語の隠し味ですよね。知らなくても、なんとか英語を理解できるとは思うのですが、知っていたら、もっと楽しいし、理解も深まる。


★マザーグースのいろいろな場面での用例を、いくつかご紹介いただけますか。

 やっぱり、『月刊児童文学翻訳』だから、児童文学の用例がいいですよね。たとえば、『秘密の花園』は、Mary, Mary, quite contrary というマザーグースをもとに作られています。だから、主人公の名前は必然的にメアリーとなり、その性格も contrary となるわけです。作中でも、何回か歌われていますよね。

 あと、児童文学でよく出てくるフレーズに、Over the hills and far away というのがあるのですが、これも、マザーグースからの引用です。『トム・ソーヤーの冒険』でも、さらりと出てきていましたが、マザーグースを知らなければ、これが引用だとは気づかないかもしれませんね。

 そうそう、3月20日にNHK衛星第2で放映されるジャック・ニコルソン主演の『カッコーの巣の上で』というタイトルも、マザーグースからの引用なんですよ。マザーグースを知らなかったら「なんでこんなタイトルがついたのかしら」と思いますよね。映画の中のマザーグースについては、話し始めたら長くなりそうなので、興味のある方は、ぜひ、本を見てください(笑)。


★児童文学翻訳を志す、マザーグース初学者へのアドバイスをいただけますか。(基本的におさえておきたいことなど)

 児童文学には、マザーグースがたくさん出てくるのですが、

  1. ほんの一節だけを引用しているもの・単なる歌としての引用
    (『ドリトル先生』や『大草原の小さな家』シリーズ)

  2. マザーグースを詰め込んでファンタジーの世界を形成しているもの
    (『アリス』や『メアリー・ポピンズ』シリーズ)

  3. マザーグースが物語の筋自体を支配決定するもの
    (『秘密の花園』やポターの『こぶたのピグリン・ブランドのおはなし』)

などがあります(詳しくは、拙ホームページをご覧ください)。児童文学翻訳を志しておられる方には、ぜひマザーグース好きになっていただきたいですね。その一番の近道は、テープやCDなどで、耳からマザーグースを入れることだと思います。


★児童文学翻訳を志す、マザーグース初学者へのアドバイスをいただけますか。(おすすめの絵本や参考書など)

 児童文学には、先ほど申し上げたように、マザーグースがたくさん出てくるのですが、引用されていることに気づくには、まず、マザーグースを知らなくてはいけませんよね。お勧めとしては、

 あ、もし、映画がお好きなら、拙本もお勧めかと思いますが……(笑)。

 絵本では、Raymond Briggs の The Mother Goose Treasury が収録数も多いしお勧めかな。絵は、Nicola Bayley や Tomie de Paola がお気に入りです。マザーグース絵本も、もう100冊を超えてしまって、しまう場所がなくなってきたので、できるだけ、買わないようにがまんしてます(笑)。

 そうそう、テープやCDも是非、手に入れてください。北星堂書店の『マザーグース童謡集』(980円)付属のテープ(2580円)がベストです。ほんとに、すごく表情豊かな朗読と歌なんですよ。このテキストも詳しいので、是非、お手もとに。


★鳥山さんは、研究者、教員、家庭人を並立させていらっしゃいます。大変なことと思われますが、乗り切る秘訣、ご家族の支援など、ございましたら。

 多大な家族の支援がございます(笑)。実は、この夏、ダンナがアキレス腱を切って、自宅療養の暇つぶしに「大好き! マザーグース」のホームページを立ち上げてくれたんです。本を書くときにも、応援してくれました。仕事上の愚痴も聞いてもらってますし、感謝、感謝です(笑)。

 でも、1歳になったばかりの三男が年末から保育園へ行き始めたのですが、初日から、熱ばっかりで、やっぱり両立は大変です。高校では、2年生を教えてるんですが、保育園からの電話がいつかかってくるかと、ビクビクの毎日です。

 年末に、仕事に復帰したのですが、家はぐちゃぐちゃ状態、子供も少し不安定になってきたので、また、上の子たちに、寝る前の絵本の読み聞かせを復活させようかな、と思っているところです。

 なにはともあれ、小5、小1、1歳の「だんご3兄弟」をかかえ、母は今日もゆく! という感じです。同じ状況のお母さん方、しなやかに、しぶとく、しつこく、育児に家事にお仕事に頑張りましょうね!

(インタビュアー:菊池由美)

 

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特集

―― シノプシスの書き方 徹底研究 ――

 

◇シノプシスは売り込みの手段!?

 翻訳の学習を始めてしばらくすると、『シノプシス』(あるいは『レジュメ』)という言葉を耳にするようになる。翻訳業界でシノプシスといえば、未訳書のあらすじと感想・評価をまとめたものを指す。翻訳家志望の新人は、まず最初にシノプシスを書く仕事(『リーディング』という)を任されることが多い。これが出版社で編集会議にかけられ、翻訳出版するかどうかの判断基準のひとつとして使われるのである。

 自分で発掘した未訳書を出版社に持ち込む場合も、このシノプシスが重要な役割を果たす。仕事は待っていてもやってこない。新人にとっても、プロにとっても、シノプシスは重要な売り込みの手段なのである。そこで今回は、シノプシスの書き方について具体例を挙げて説明することにした。


◇本の内容がわかりやすく伝わるように

 シノプシスの書き方に特に決まりはないが、通常は、書名(仮題)、著者名、出版社名、出版年、ページ数、著者紹介、登場人物表、あらすじ、作品の感想・評価等を書く。例えば、Karen Cushmanの"Catherine, Called Birdy"(未訳)の場合は、

書 名 Catherine, Called Birdy(仮題:「中世の娘キャサリン」)
著 者 Karen Cushman(カレン・クシュマン)
出版社 HarperCollins Publishers Inc.
出版年 1994年
頁 数 本文205ページ 著者あとがき6ページ
著者紹介 1942年、イリノイ州シカゴ生まれ。行動科学と博物館学の修士号を持つ。ジョン・F・ケネディ大学の博物館学科で10年間教壇に立ち、学部長補佐も務めた。『アリスの見習い物語』(あすなろ書房)で1996年にニューベリー賞を受賞。デビュー作の本書もニューベリー・オナー・ブックに選ばれている。
あらすじ (別項参照)
感想・評価 (別項参照)

のようになる。作品によっては、登場人物表が不要になったり、挿し絵画家の紹介や概要(リード)、試訳が必要になったりするので、ケースバイケースで考えるとよい。大事なのは、編集者が知りたい情報を簡潔にわかりやすく書くことである。


2005年3月改訂

◇『あらすじ』と『感想・評価』について

 あらすじは、あくまでも客観的に簡潔に書くのが望ましい。独りよがりで感情が先走っているものはシノプシスとして読みにくいし、そのまま訳出してあるような緩慢なものでは、読む方も疲れてしまう。作品に対して愛情をもちながら、冷静に書くという態度で臨むといいだろう。

 感想・評価では、「どこが」おもしろいかということを書く必要がある。「おもしろい」だけで終わってしまっては、読書感想文と同じになってしまう。あくまでも書評のつもりで、おもしろい点はどこなのか、具体的に書くことが望ましい。もちろん、作品のマイナス面がある場合は、その点も書いておくべきである。

 なお、児童書の場合は、何歳を対象とするかで出版の形態が大きく違ってくるので、どのくらいの年齢の子どもが読む作品かを示しておくことも必要である。

 分量は、「あらすじ」対「感想・評価」が6対4ぐらいの割合で、合わせて400字詰原稿用紙6〜8枚くらいを目安にするといいようだ。ただし、出版社の要望や作品の中身によっては、10枚、20枚になることもある。また、絵本のリーディングの場合は全訳が必要になることも多いので注意が必要だ。


◇大いに読んで、大いに書こう

 シノプシスでは、原文読解力はもちろんのこと、日本語の表現力も試される。また、本を評価する以上、書き手の「読み方」が如実に顕れることにもなる。つまり、それまでに培われた文章表現力や、日頃の読書経験がものをいうのである。シノプシスの出来次第では、そのまま翻訳の仕事がまわってくることもあると聞く。普段から明快で魅力的な文章を書く訓練をしておくこと、また、感想・評価でさらりと話題書や類書を比較できるくらい本を読んでおくことも重要だろう。

 シノプシス作成の仕事を得るには、プロの翻訳家や翻訳学校から紹介してもらう、翻訳関連雑誌に投稿する、あるいは出版社に直接売り込む、といった方法が考えられる。決して高い報酬を得られる仕事ではないが、特に新人にとっては何よりの勉強になる。いずれにしても、チャンスをうまくつかめるよう、日頃から実力を蓄えておきたい。


◇よりよいシノプシスを書くために

 シノプシスについて簡単ではあるが、一通り説明してきた。しかし、これだけ読んでも、実際に書いてみないとわからないことも多いだろう。ぜひ、自分で積極的に書いてみることをお勧めする。

 なお、やまねこ翻訳クラブでは、98年5月〜6月に "The View from Saturday" (E.L.Konigsburg) 、98年8月〜10月に "Chatherine, Called Birdy"のシノプシス勉強会を行なった。そのときの参加者のシノプシスを、同クラブのホームページで公開しているので、具体例のひとつとして、参考にしていただきたい。

 ただし、今回の例も、ホームページの例も、あくまでも参考であって、実際の仕事のときにそのまま当てはめて使えるとは限らない。仕事では、出版社の求めているものを充分理解した上で書かなければならないということを忘れないでほしい。

 

参考文献: 『あなたも出版翻訳家になれる!』イカロス出版
  『翻訳データブック'98』バベル・プレス
  『Amelia 98年7月号』フェロー・アカデミー
(田中亜希子/宮坂宏美)

 

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展示会/セミナー・講演会情報

―― 展示会情報 ――

 

◎ちひろ美術館「ちひろ銀色の線」「大正の絵雑誌『コドモノクニ』展」
所在地: 東京都練馬区下石神井4-7-2
電 話: 03-3995-0820
会 期: 平成11年4月18日まで
休館日: 月曜
入場料: 大人500円 中学・高校生200円 小学生100円
内 容: いわさきちひろの鉛筆画の展示会および近代日本の童画世界に影響を与えた雑誌「コドモノクニ」に関する展示会。
 
◎大丸ミュージアムKOBE「絵本の100年展−母と子どもたちへの贈り物−」
所在地: JR神戸線元町駅海側へ徒歩3分
電 話: 078-331-8121
会 期: 平成11年3月18日から3月30日まで
休館日: 期間中は無休
入場料: 大人当日700円(前売500円)大・高校生500円(同300円)小学生以下無料
内 容: 1900年代から今日までの主要な絵本作家たちに焦点をあて、絵本の歴史をたどる。貴重な初版本や原画など、約300点を展示。
 
◎つくば市立図書館「堀川理万子 絵本原画展」
所在地: 茨城県つくば市吾妻2-8
電 話: 0298-56-4311
会 期: 平成11年3月30日まで
休館日: 月曜・祝祭日
入場料: 無料
内 容: 堀川理万子さんの描いた『リリィおばあさん なげキッス!』の原画展。

(瀬尾友子/菊池由美)

 

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―― セミナー・講演会情報 ――

 

◎児童文学国際講演会「イギリス絵本の世界−描かれた風景をよみとく−」
講 師: トニー・ワトキンズ(英国レディング大学教授)
通 訳: 石川晴子
場 所: 大阪府立国際児童文学館 講堂
日 時: 平成11年3月27日(土)14:00-16:00
参加費: 1,000円
内 容: 児童文化に関わる国際研究センターの所長であり、児童文学関連の著作も多いワトキンズ氏が、研究成果をもとにイギリスの絵本について講演する。
申 込: 電話、またはカウンターで直接申し込み(TEL 06-6876-8800)
 
☆子どもと子どもの本の講座 特別公開講座「ことばの消える時代に」
講 師: 松居直(福音館書店相談役)
場 所: 大阪YWCA専門学校(大阪市北区神山町11-12)3Fホール
日 時: 平成11年4月21日(水)14:00-16:00
参加費: 2,000円
内 容: 5月より同校で開講の「子どもと子どもの本の講座」に先駆けて開かれる公開講座。講師の松居直氏は、戦後の日本児童文学界の第一人者。
申 込: 電話、またはFAXで(TEL 06-6361-2955 FAX 06-6361-2997)

(中野伊都子)

 

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注目の本(邦訳編)

―― 差別を直視し成長していく少年と、家族の絆を描く ――

 

『オーブンの中のオウム』
ヴィクター・マルティネス作 さくま ゆみこ訳
1998.11発行 講談社 YOUTH SELECTION \1500
原作:"Parrot in the Oven:Mi Vida", Harper Collins, 1996
『オーブンの中のオウム』表紙

 

 メキシコ系アメリカ人(チカーノ)の少年マニー。4人きょうだいの3番目。人種という壁に立ちふさがれ、期待は常に裏切られる。14歳の主人公は、あきらめることが生きる術という状況を、ただ黙って受け入れざるをえない。

 父親は無職で酒びたり。母親は夫に失望を感じながらも、家族としての絆をたち切れず、家中、塵一つない状態に磨き上げることで、精神のバランスを保っている。

 前半は、両親の葛藤、仕事が長続きしない兄の姿、周囲との関わりなどを通し、チカーノの身にふりかかる貧困、差別、暴力が語られる。マニー達は、不法労働者ではなく、あくまでも国策にのっとった、合法的な移民である。もちろん、ぎりぎりの暮らしにはちがいないが、最低とは言い難い。父親は、生きることを完全に投げ出してはいないし、斜に構えたような兄にしても、心の動揺が見え隠れする。そのあたり、一見まるで異なった環境に育つ、日本のヤングアダルト達との共通項が輪郭をあらわす。そして後半、姉の身に起きた悲痛な出来事から、マニーや家族は少しずつ変わっていく。

 いくつものエピソードが織りこまれており、それぞれに重い問題をかかえているが、著者は登場人物をあまり深く追いかけようとしない。その突き放し加減は、読者との距離を保ち、なかなか縮めさせない。

 作者のヴィクター・マルティネス自身も、チカーノと呼ばれるメキシコ系アメリカ人。詩人で小説は1作目。マルティネス自身の経験が各章に映し出されている。全体に詩のようなリズムが流れており、最後まで読み手を引きつける。依然、人種問題を解決できないアメリカにあって、着実に力を持ちつつあるチカーノの存在を深く印象づける作品。1996年、全米図書賞に新しく設けられた「若者の文学」部門、第1回受賞作。

 自分を信じること、自分に誇りを持つこと。差別の中で、否定され、見失ってしまったものを見つけ出そうとする、家族の物語である。

(大原慈省)

 

【作者】Victor Martinez(ヴィクター・マルティネス)

 カリフォルニア州フレズノに、12人きょうだいの4番目として生まれ育つ。メキシコ系アメリカ人。カリフォルニア州立大学を卒業後、スタンフォード大学で創作を学ぶ。農作業員、溶接工、トラック運転手、消防士、教師など、様々な職歴を持つ。著作に、"Iowa Review" "Caring for a House"などがあるが、日本では未訳。本書が初の邦訳作品である。サンフランシスコ在住。


【訳者】さくま ゆみこ

 1947年、東京生まれ。出版社勤務を経て、現在はフリーの翻訳家並びに玉川大学英米文学科講師。アフリカ文学研究者でもある。訳書に、ソールズベリー『その時ぼくはパールハーバーにいた』(徳間書店)、リーライト『子どもを喰う世界』(晶文社)、ウッドソン『レーナ』(理論社)、シュルヴィッツ『ゆき』、ブラウン『ぺちゃんこスタンレー』(いずれも、あすなろ書房)など多数。

 

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注目の本(未訳編)

―― 新しい環境で自分を見つめ、花開いていく少女の物語 ――

 

『ブルーマビリティ』(仮題)
シャロン・クリーチ作

Sharon Creech "Bloomability" 273pp.
Harpercollins, 1998 ISBN 0060269936

 

 待ちに待ったシャロン・クリーチの新刊(1998年9月出版)は、スイスの明るく透明な空気が全体に広がる、魅力的な作品だ。

 主人公のディニーは生まれてからずっと、可能性を求めてアメリカ各地を転々とする父親に従い、家族とともに暮らしてきた。ところが13歳のとき、兄が警察に捕まり、姉が16歳で子どもを産むという状況のなか、ディニーは愛する家族から引き離されて、母方の叔母夫婦と共にスイスに行くことになる。自分を点のような小さな存在に感じ、自分のまわりに膜をはり、シャボン玉の中に閉じ込もってしまうディニー。そんな彼女をスイスで待っていたのは、叔父が校長に就任したアメリカンスクールと、世界各国から集まってきた個性的な友達だった。アメリカの家族への思いと、自分はなぜスイスに来なければならなかったのかという疑問を抱えながら、自分を見つめ直し大きく成長していくディニーの、スイスでの1年間が描かれている。

 前作の『めぐりめぐる月』や『赤い鳥を追って』の主人公たちと同じく、不器用ながら一生懸命な少女の成長と「家族のつながり」が描かれており、クリーチらしい作品といえるだろう。だが、家族が直接描かれているのは最初の部分だけで、スイスに来てからはディニーを通してつづられるのみ。父母からの便りも少ない。主人公が家族の愛情を身近に受けてきた今までの作品とは異なる。だが、こうして新しい環境に飛び込んだからこそ、自分のことも家族のことも、今までとは違った角度から見ることができるのだろう。

 外国という新しい環境におかれた時、その機会をどう受け止め、そこでどう自分を表現していくかというテーマは、日本の子どもたちも興味をもって受け入れるのではないか。ちなみに題名の"Bloomability"というのは親友の一人である日本人のケイスケの造語で、「花開く可能性」といった意味のようだ。だれでもみんな"Bloomability"に満ちているんだよというメッセージが伝わってくる。

 ディニーのもとには、アメリカの伯母から折にふれて絵葉書が届くが、それは前作でも舞台となったバイバンクスから送られてくるもの。この作品も、バイバンクスとつながっており、クリーチファンにはたまらなく嬉しい。

(植村わらび)

 

Sharon Creech(シャロン・クリーチ)

 1945年アメリカ・オハイオ州生まれ。英国のアメリカン・スクールに英語教師として勤め始めてから本格的な執筆活動に入る。1995年に"Walk Two Moons"(1994)(『めぐりめぐる月』もきかずこ訳 講談社)でニューベリー賞を受賞。その他の作品には、"Chasing Redbird"(1997)(『赤い鳥を追って』もきかずこ訳 講談社)、"Absolutely Normal Chaos"(1990)、"Ghost of Uncle Arvie"(1996)(米題は"Pleasing the Ghost")などがある。ヨーロッパで18年間過ごした後、現在はアメリカに帰国。

 

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西洋のホリディ 第1回

―― イースター(Easter) ――

 

【祝日】

 春分後の満月のあとにくる最初の日曜日。今年は4月4日。


【由来】

 キリスト教によれば、イースターとはイエス・キリストの再生を祝う復活祭である。キリストは金曜日(Good Friday)に処刑され、その夜、弟子たちによって洞窟の中に納められたが、3日目の日曜日の朝(Easter Sunday)によみがえり、弟子たちに最後の言葉を残して天に昇った。

 しかし、本来は「春分」、すなわち春の到来や大地の再生・復活・豊穰を祝う祭りであった。サクソンの春の女神 Eostre(Ostara)の名前に由来し、原始宗教でいう太女神の三身一体「乙女、母、老婆」の中でも特に「乙女」の姿を象徴する女神の祭りとされている。

 イースターのシンボルは兎、卵、月、春、樹の5つ。中でも兎は女神Eostreの化身とも、マスコットとも言われており、「多産」「春」「犠牲者」などのイメージを持つ。また、卵には「可能性」「誕生」などのイメージがあり、真っ暗な混沌の中で女神によって産み出されたWorld Egg(世界卵)から世界ができあがったとする創造神話もある。イースター・エッグも本来は玉葱の皮で染められ、生命の誕生に伴って流される「血」の色、「母」の色、赤褐色が通常であった。

 ちなみに、兎とイースターに関する伝説には、以下のようなものがある。

  1. 冬のある日、春の女神Eostreは、翼が凍ってしまった鳥を見つけ、哀れんでその姿を兎に変えてやった(だから欧米の子どもたちは、今でもイースター・バニーが卵を産むと信じている)。

  2. 良い子にはイースター前夜に兎が卵を産んでくれる。(ドイツ伝説)

  3. 兎が愛する女神Eostreへの贈り物として春色に塗り分けた卵をプレゼントしたところ、女神は大変喜ばれて、皆にも配るよう命じた。


【祝い方】

 イースター前になるとエッグ作りが始まる。ゆで卵、または中身を出した卵を美しく染め、絵や模様を施す。一部は木の枝に結び付け、その枝を花瓶に生けたり、壁から吊るしたりして家の飾りにする(主に欧州)。また、イースター当日に家の中や庭に隠した卵を探す「エッグ・ハント」という習慣もある。子どもたちは籠を片手に、イースター・バニーが置いていってくれた卵やお菓子を探す(米国)。家庭によってはお菓子、エッグ、ぬいぐるみなどを盛り付けた一つのイースター・バスケット(これを「兎の巣」と呼ぶ地方もある)にまとめてプレゼントしたり、子供に探させたりする。


【参考】

(池上小湖)

 

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世界の児童文学賞 第4回

―― ガーディアン賞 ――
Guardian Award for Children's Fiction

〜最も優れたフィクションに贈られる、イギリス二大児童文学賞のひとつ〜

 

■概要
 名 称 : ガーディアン賞(児童書部門)
 対 象 : イギリス国籍及び英連邦諸国籍の作家によるフィクション作品
 創 設 : 1967年
 選 考 : ガーディアン(新聞社)
 発 表 : 毎年3月
関連サイト: ガーディアン紙オンライン版

 

 イギリスではカーネギー賞と並ぶ代表的な児童文学賞で、一般書部門もある。カーネギー賞ではフィクション、ノンフィクションを問わずに受賞対象となるのに対し、ガーディアン賞は絵本を除くフィクションのみが対象となる。審査員は、日刊紙である"The Guardian"の文芸部長及びレギュラーの文芸批評家計5人で構成される。作家の国籍がイギリスまたは英連邦諸国で、イギリス国内で最初に出版された作品であることが条件だが、一度受賞した作家の作品は対象外となる。

 

■1999年の候補作(99年2月27日発表)
タイトル 作 家 出版社
The Sterkarm Handshake Susan Price Scholastic
Law of the Wolf Tower Tanith Lee Hodder
Harry Potter and the Chamber of Secrets J. K. Rowling Bloomsbury
Skellig David Almond Hodder
Bumface Morris Gleitzman Penguin

※受賞作の発表は99年3月27日に行われる。

 

■過去の主な受賞作家

 過去の受賞作品については、やまねこ翻訳クラブ作成の邦訳・未訳受賞作品リストが、ホームページで参照できる。


◎レスリー・ハワース Lesley Howarth

 1995年、デビュー2作目の"MapHead"で受賞。独創的なファンタジー世界にややメッセージ色の濃いテーマを盛り込むユニークな作風が評価されている。他に"The Pits"、"Weather Eye"、"Fort Biscuit"、"MapHead 2"などの作品があるが、いずれも未訳。


◎ピーター・ディッキンソン(ディキンスン) Peter Dickinson

 1977年、"The Blue Hawk"(『青い鷹』小野章訳 偕成社)で受賞。独特の世界観を幅広い作風で描いた作品を数多く発表し、カーネギー賞も2度受賞している。"Eva"(『エヴァが目ざめるとき』唐沢則幸訳 徳間書店)、"Time and the Clockmice"(『時計ネズミの謎』木村桂子訳 評論社)、"Tulku"(未訳)他、作品多数。一般向けのSF、ミステリー作家としての評価も高い。

(森久里子)

 

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やまねこ翻訳クラブ(会員数129名)

 やまねこ翻訳クラブは、海外の子どもの本に関する情報交換、翻訳・シノプシス自主勉強会などを行っている児童書専門サークルです。翻訳と子どもの本に興味のある方でしたらどなたでも入会できますので、ぜひお気軽にご参加ください。

―― 99年3〜4月の主な活動 ――

◆海外児童文学賞受賞作読破マラソン
◆未訳作品の全訳勉強会(Sharon Creech "Pleasing the Ghost")
◆遊学館絵本セミナー報告勉強会


●編集後記●

 編集部では、メルマガに対する皆様のご意見・ご感想・ご要望を心からお待ちしています。 [email protected] まで、お気軽にどうぞ!(み)


発 行: NIFTY SERVE 文芸翻訳フォーラム・やまねこ翻訳クラブ
発行人: 小野仙内(文芸翻訳フォーラム・マネージャー)
編集人: 宮坂宏美(やまねこ翻訳クラブ・スタッフ)
企 画: 河まこ キャトル くるり Chicoco BUN ベス YUU りり ワラビ
協 力: ながさわくにお きら じゅんこ つー SUGO わんちゅく HAROU みーこ


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