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月刊児童文学翻訳

─2001年7月号(No. 32 情報編)─

※こちらは「情報編」です。「書評編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/index.htm
編集部:[email protected]
2001年07月15日発行 配信数 2,270


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎プロに訊く
第18回 平野卿子さん(翻訳家)

◎展示会情報
「スヌーピーとチャーリー・ブラウンの世界」ほか

◎セミナー・講演会情報
「コルデコット賞受賞作家マクダーモットとともに」ほか

◎世界の児童文学賞
第16回 ニルス・ホルゲッソン賞/エルサ・ベスコフ賞

◎読者の広場
海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!




プロに訊く 第18回

―― 平野卿子さん(翻訳家) ――


 今月は、児童書を中心に、幅広い分野のドイツ語作品を数多く翻訳・紹介されている平野卿子さんにお話をうかがいました。お忙しい中、快く取材に応じてくださった平野さんに心より感謝いたします。


【平野卿子(ひらのきょうこ)さん】
 横浜生まれ。お茶の水女子大学卒業後、ドイツのテュービンゲン大学に留学。帰国後は都立大学大学院でドイツ文学を専攻。翻訳作品には「金ぱつフランツ」シリーズ(クリスティーネ・ネストリンガー作/偕成社)や『クレイジー』(ベンンヤミン・レーベルト著/文藝春秋)といったドイツの児童書や一般書のほかに「アボンリーへの道」シリーズ(金の星社)などの英米の本もある。

【平野卿子さん作品リスト】
【平野卿子さんインタビュー ロングバージョン】



Q★ドイツ語の勉強はいつから始められたのですか?

A☆本格的に始めたのは、ドイツに留学してからです。もともとイタリア語を勉強していたのですが、ドイツに住んでいる友人の話を聞いてあこがれを抱くようになり、2年間ドイツに留学しました。


Q★翻訳の道に進まれたきっかけは何ですか?

A☆1985年に再びドイツを訪れたとき、たちよった本屋さんで、その年のドイツ児童文学賞を受賞した "Sonntagskind"(日曜日の子ども) という作品を店員さんに勧められました。帰りの飛行機の中で読んだのですが、とても素晴らしい内容で、本当にびっくりしました。そのとき初めて、こんな作品を翻訳してみたい、と思ったんです。残念ながら、その本はすでに翻訳がきまっていて、私が手掛けることはできなかったのですが(※)、その後、偶然ある方から児童書の翻訳をしませんかとのお誘いがあり、それがきっかけで『もじゃもじゃあたまのかいぞくたち』(マルグレート・レティッヒ作/はまだようこ絵)という訳書が金の星社から出ました。
※編集部注:"Sonntagskind" は1995年に『日曜日だけのママ』(グードルン・メブス作/ベルナー絵/講談社)という平野さんの訳でも出版されました。詳しい経緯はロングバージョン参照。


Q★ドイツの児童書には、どんな特徴があると思われますか?

A☆まず、長いものが多いですね(笑)。ドイツの子どもは長いものが好きなようです。最近は海外の市場を考えて、短くなりつつあるようですが。

 それと、内容がシリアスで、哲学的なものが多いです。内面を深く掘り下げる、現実を直視する、という傾向があります。だから、どうしても重くなりがちですが、子どもにおもねることなく、読み応えのある作品が多いですね。


Q★ノンフィクションや児童書など、幅広い分野でご活躍されていますが、作品はご自分で見つけられているのでしょうか。

A☆出版社から本を渡される場合と、自分で出版社に持ち込む場合と、割合は半々です。英語の本では、訳者はリーディングが済んでいる本を渡されて、翻訳作業からスタートする場合が多々あるようですが、ドイツ語の本では、それはほとんどありません。編集者でドイツ語を読める人が少ないので、たいていはリーディングから任されます。そんなわけで、私の傍らには常にリーディング待ちの本が積んである状態です(笑)。また逆に、出版社側から「いい本はありませんか」きかれることも多いですね。ドイツ語の本の情報は、英語の本と比べるとずっと少ないですから。それで、こちらからも持ち込んだり、情報を提供したりしています。

 紹介する本は、ほとんど書評かインターネットでみつけます。ジャンルはとくに決めていません。本を選ぶときの決め手はひとつ。「それが訳すに値するかどうか」。日本人には書けない作品、日本では生まれない作品というのが、わたしにとって選書の重要なポイントです。


Q★『光の子がおりてきた』(ポーラ・フォックス作/葉祥明絵/金の星社)が2001年5月5日に発表になったサンケイ児童出版文化賞推薦に選ばれたそうですね。この本は英語の本ですが、どのような経緯で訳されることになったのですか?

A☆金の星社からお話がありました。この本は、ダウン症の弟ジェイコブを「受け入れられない」兄ポールの成長を描いた物語です。読んでまっさきに感じたのは「厳しさ」でした。親だから、きょうだいだからといって、障害者の家族を、無条件にすんなり受け入れられるとはかぎりません。この本は、障害者の弟を受け入れられない兄という、厳しいひとつの現実を描いているんですよね。また、障害者の立場だけでなく、ポールの孤独や疎外感にもスポットをあて、受け入れられないという現実に対して、作者はある程度の肯定を示しています。障害者の家族に対するある種のエールといえるのかもしれません。障害者を描く本としては、これまでにない描き方なのではないでしょうか。重いテーマですが、それだけに作者の力量を感じさせます。最後には希望の兆しもみえ、とてもリアリティーのある感動的な作品だと思いました。


Q★今後のご予定をお聞かせください。

A☆児童書はこれから2冊出ます。2001年8月に『耳をすませば(仮題)』(エルケ・ハイデンライヒ文・ベルント・プファー絵/講談社)、10月に『王女さまは4時におみえになる』(ヴォルフディートリヒ・シュヌレ文/ロートラウト・ズザンネ・ベルナー絵/偕成社)が、それぞれ刊行予定です。『耳をすませば』は『見えない道のむこうへ』(クヴィント・ブーフホルツ作/講談社)のように、子どもから大人まで楽しめる作品です。何度読み返しても胸がいっぱいになる、そんなお話です。『王女さま〜』のほうはとにかく個性的な作品で、強烈な魅力を感じました。作者はドイツ文学界で最高の名誉とされるビューヒナー賞を受賞した大作家で、絵を描いているベルナーさんは2000年の国際アンデルセン賞にノミネートされるなど、現在注目の画家です。この本は今年のドイツ児童文学賞にノミネートされています。


Q★最後に、文芸翻訳家を目指している読者のみなさんに、ひとことお願いします。

A☆翻訳をするうえで語学力は前提条件で、一番大事なのは日本語の表現力だ、とよくいわれますよね。わたしもそう思った時期がありました。でも、翻訳を続けてきた結果、わたしはまさに逆だと思うようになりました。日本語の表現力は最低条件かつ前提条件であって、決め手はやはり語学力ではないかと。いいかえれば、外国語はそれほどむずかしいということです。原文を深くきちんと理解できれば、自然な日本語が出てくるものではないでしょうか。これから文芸翻訳家をめざすみなさんは、ご自分の専門とされる語学の勉強にまず力を入れられるといいと思います。

(取材・文 田中亜希子)


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展示会/セミナー・講演会情報

―― 展示会情報 ――


◎新津市美術館「スヌーピーとチャーリー・ブラウンの世界」
所在地: 新潟県新津市大字蒲ヶ沢109-1 花と遺跡のふるさと公園内
電 話: 0250-25-1301
会 期: 平成13年8月5日まで
休館日: 月曜日
入場料: 一般800円 大学生・高校生500円 中学生・小学生300円
内 容: 1950年代から90年代にかけて発表された『ピーナッツ』の原画、約160点のほか、セル画を含む資料約120点を展示する。
 
◎絵本美術館&コテージ“森のおうち”「幼年童話絵本原画展」
所在地: 長野県南安曇郡穂高町大字有明2215-9
電 話: 0250-25-1301
会 期: 平成13年7月27日から9月25日まで
休館日: 木曜日
入場料: 一般700円 小学生500円 小学生未満から3歳まで250円
内 容: 『ぐりとぐらの1ねんかん』『わたしのワンピース』など、幼年向け絵本の原画展。
 
◎板橋区立美術館/西宮市大谷記念美術館「2001イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」
所在地: 東京 板橋区赤塚5-24-37
兵庫 西宮市中浜町4-38
電 話: 東京 03-3979-3251
兵庫 0798-33-0164
会 期: 東京 平成13年7月14日から8月19日まで
兵庫 平成13年8月25日から9月24日まで
休館日: 東京 月曜日
兵庫 水曜日
入場料: 東京 一般500円 大学生・高校生300円 中学生・小学生100円
兵庫 一般800円 大学生・高校生600円 中学生・小学生400円
内 容: イタリア・ボローニャ国際イラストレーションコンクール入選作品による毎年恒例の展覧会。26か国から集まった450点もの絵本の原画を展示。
 
◎八ケ岳小さな絵本美術館「山脇百合子絵本原画展」
所在地: 諏訪郡原村原山172-7-3235
電 話: 0266-75-3450
会 期: 平成13年7月20日から9月17日まで
休館日: 火曜日(祝日の場合は翌日/8月無休)
入場料: 大人700円 高校生・中学生400円 小学生300円
内 容: 「ぐりとぐら」シリーズなどで有名な絵本作家、山脇百合子の原画展。
 
◎恵比寿ガーデンプレイス「遊ぼう! 絵本・えほんカーニバル2001・TOKYO」
所在地: 東京都目黒区三田 恵比寿ガーデンプレイス ザ・ガーデン・ホール
電 話: 絵本カーニバル事務局 03-5485-6426
会 期: 平成13年8月13日から25日まで
休館日: 無休
入場料: 一般800円 中学生・小学生500円 3歳まで300円
内 容: 約2000点の絵本をテーマ別に展示。絵本作りコーナーなどもある。
 
◎大阪ドーム「夏休みキッズカーニバル2001」
所在地: 大阪市西区千代崎3-2-1/9階スカイホール
電 話: キッズカーニバル事務局 06-6357-6800
会 期: 平成13年8月10日から31日まで
休館日: 無休
入場料: 大人(18歳以上)1000円 子ども(小学生以上、18歳未満)400円 幼児(3歳以上、小学生未満)100円 3歳未満無料
内 容: 約2000点の絵本を展示する「絵本の森」や、応募された「私の大好きなBEST100」コーナーなど、たくさんの絵本と出会える絵本カーニバル

(瀬尾友子/宮坂宏美)


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―― セミナー・講演会情報 ――


◎メルヘンハウス 特別企画「コルデコット賞受賞作家マクダーモットとともに」
講 師: ジェラルド・マクダーモット(絵本作家、画家)
場 所: 愛知県理容会館(名古屋市千種区今池2-1-13)大ホール
日 時: 平成13年7月22日(日)13:00〜
参加費: 2,000円
内 容: マクダーモット氏による講演、作品ビデオ "Arrow to the Sun" の上映、ワークショップ(全員スケッチブックと色鉛筆を持参)、サイン会。
申込み: 子どもの本専門店「メルヘンハウス」まで。(TEL 052-733-6481)
 
◎クレヨンハウス 子どもの本の学校「新しい子どもたち」
講 師: 池澤夏樹(作家)
場 所: クレヨンハウス(東京 港区北青山3-8-15 大阪 吹田市江の木町5-3)
日 時: 東京 平成13年8月4日(土) 大阪 平成13年8月18日(土)
16:00〜17:30(15:30開場)
参加費: 非会員 2,500円 会員は無料(年会費に含まれる)
定 員: 150名
内 容: ここ数十年の子どもたち像の変遷とこれからの子どもたちについて考える。
問合せ: クレヨンハウス(東京 03-3406-6492 大阪 06-6330-8071)
その他: 非会員は、当日の朝11時から子どもの本売場にて販売される当日券を購入。会員のみで定員に達した場合は立ち見になることもあり。
 
◎宮城子どもの本を楽しむ会 第6回子どもの本・秋・連続講座
講 師: (1)平成13年9月23日(日)13:30〜15:30
  富安陽子(児童文学作家)「不思議への入口」
(2)平成13年10月14日(日)13:30〜16:30
  斎藤惇夫(児童文学作家、編集者)
「戦後児童文学の夜明け――瀬田貞二先生について――」
(3)平成13年11月11日(日)13:30〜15:30
  北山葉子(絵本作家)「私の絵本の世界」
(4)平成13年12月2日(日)13:30〜15:30
  こだまともこ(翻訳家、児童文学作家)「訳者の目から見た児童文学」
場 所: (1)シルバーセンター(仙台市青葉区花京院1-3-2)7階第1研修室
(2)〜(4)141ビル(仙台市青葉区一番町4-11-1)5階セミナーホール
参加費: 4回通し券 4,500円
1回券 大人1,500円(当日券1,600円)、中・高校生700円
定 員: 180名(小さいお子さんはできるだけご遠慮ください)
申 込: 郵便振替で参加費を振り込むと、折り返しチケットが送られてくる。1回券希望者は講師名を明記すること。
口座番号 02290-8-41871 口座名称 宮城子どもの本を楽しむ会
問合せ: 絵本の専門店「こどものほんポラン」内・増田(TEL/FAX 022-265-1936)
松尾(TEL/FAX 022-231-2712)
その他: (2)〜(4)は講演会の前日または当日夜に「講師を囲む会」が開かれる。参加希望者は講演会の1週間前までに松尾氏まで申し込むこと。

(中野伊都子)


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世界の児童文学賞 第16回

―― ニルス・ホルゲッソン賞/エルサ・ベスコフ賞 ――
〜スウェーデンの優れた児童書をたたえる二大賞〜

 

■概要
名 称 : ニルス・ホルゲッソン賞(Nils Holgersson-plaketten)/
エルサ・ベスコフ賞(Elsa Beskow-plaketten)
対 象 : 前年までにスウェーデンで刊行された児童書の最も優れた作家/画家・写真家
創 設 : 1950年/1958年
選 考 : スウェーデン図書館協会(SAB: Sveriges allmanna biblioteksforening)
関連サイト: http://www.biblioteksforeningen.org/(スウェーデン語)

 

 ニルス・ホルゲッソン賞は、スウェーデン児童文学の古典『ニルスの不思議な旅』(セルマ・ラーゲルレーフ作)の主人公の名をとって、1950年に創設された。前年までにスウェーデンで刊行された児童書の作家が対象となる。一方、エルサ・ベスコフ賞は、絵本作家エルサ・ベスコフの名にちなで1958年に創設。前年までに同国内で刊行された絵本および読み物(ヤングアダルト含む)のイラストレーション・写真を対象に、画家・写真家に対して贈られる。両賞ともに、対象作品の発表年を前年1年に限定しない点、ひとつの作品だけでなく全業績に授賞される場合がある点が特徴。

 審査を行うのは、スウェーデン図書館協会(SAB)会員の、公立図書館、学校図書館司書各2名に、委員長である児童書専門図書館の司書1名からなる審査委員会。毎年、同協会の年次定例会において受賞作が発表される。

 

■主な受賞作家

<ニルス・ホルゲッソン賞>

●Thomas Tidholm(トーマス・ティードホルム)

 1994年、"Forr i tiden i skogen"(『むかし、森のなかで』/アンナ=クララ・ティードホルム絵/ひしきあきらこ訳/ほるぷ出版)で受賞。邦訳に("Ture kokar soppa"/アンナ=クララ・ティードホルム絵/ひしきあきらこ訳/ほるぷ出版)他多数。


●Mats Wahl(マッツ・ヴォール)

 1989年、"Maj Darlin"(未訳)で受賞。教師をしていた1980年に作家としてデビュー。欧州では「歴史物と現代の若者を描かせたら右に出る者はいない」とまでいわれる実力派。邦訳に『冬の入江』("Vinterviken"/菱木晃子訳/徳間書店)がある。

<エルサ・ベスコフ賞>

○Anna Hoglund(アンナ・ヘグルンド)

 1988年、"Jaguaren"(『ぼくはジャガーだ』/ウルフ・スタルク作/石井登志子訳/佑学社)で受賞。スタルクとのコンビで、『おじいちゃんの口笛』("Kan du vissla Johanna"/菱木晃子訳/ほるぷ出版)など邦訳も多く、日本での人気も高い。


○Eva Lindstrom(エーヴァ・リンドストロム)

 1995年、"Gunnnar i Granskogen"(『もみの木森のグンナル』/オスターグレン晴子訳/ほるぷ出版)で受賞。美術学校卒業後、雑誌などのイラストの仕事を経て絵本作家になる。作品は他に "Jag Gillar Stig" などがあるが、いずれも未訳。

※編集部注:作家名および作品名のうち、スウェーデン文字が含まれるものについては、記事構成の都合上、通常のアルファベット表記にしています。

 

◇過去の受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ作成)
ニルス・ホルゲッソン賞
エルサ・ベスコフ賞

(森久里子)

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●編集後記●

いよいよ夏本番! 展示会や講演会のイベントも目白押しです。児童書の好きな仲間やご家族と一緒に出かけてみませんか? 思わぬ発見があるかも(み)


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発行人: 蒲池由佳(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 宮坂宏美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
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