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月刊児童文学翻訳
─2006年9月号(No. 82)─
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版+書店街>
http://www.yamaneko.org/
編集部:mgzn@yamaneko.org
2006年9月15日発行 配信数 2390
◎新人応援!:第5回 相良倫子さん・陶浪亜希さん
◎新人応援!連動レビュー:「いたずら魔女のノシーとマーム」シリーズ全6巻
ケイト・ソーンダズ作/相良倫子・陶浪亜希訳
◎世界の本棚(イタリア語):"P come prima (media) - G come Giorgina (Pozzi)"
アンジェラ・ナネッティ作
◎賞速報
◎イベント速報
◎読者の広場:海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!
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●新人応援!●第5回 相良倫子さん・陶浪亜希さん
新人応援の第5回は、共訳本でデビューされたおふたり、相良倫子さんと陶浪亜希さんです。今年7月にシリーズ「いたずら魔女のノシーとマーム」(ケイト・ソーンダズ作/トニー・ロス絵/小峰書店)の最終巻、6巻めを出版されました。共訳することになったいきさつ、共訳のすすめかたや、おふたりの勉強方法などをうかがいました。
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【相良倫子(さがら みちこ)さん】
1973年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。幼少期をイギリスで、小学校から高校卒業までフィリピンで過ごす。大学卒業後は、大手英会話学校講師、国際機関勤務を経て、ワールド・カップの通訳を契機にフリーランスで通訳、翻訳の仕事を始める。
HP:http://www.geocities.jp/sagaluck/
【陶浪亜希(すなみ あき)さん】
1969年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。幼少期をアメリカで、中学、高校をドイツで過ごす。大学卒業後は、翻訳会社にて自動翻訳ソフトの開発作業に携わる。その後、ビジネス翻訳を学び、フリーランスの翻訳家となり、現在はビジネス翻訳と文芸翻訳両方の仕事をしている。
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Q★いたずら好きの魔女、ノシーとマームを主人公にしたシリーズでデビューされたおふたりですが、どのようなきっかけで児童書を共訳することになったのでしょう。
A☆相良:知人が小峰書店で絵本を出しているのですが、その方からリーディングの仕事を紹介していただいたんです。もともと本を読むのが好きだったので、リーディングの仕事は自分にとてもあっていました。2年ほどしたころ、編集者の方から「そろそろ、本を翻訳してみませんか」と声をかけていただきました。
A☆陶浪:相良さんとは、職場で知り合い、友人づきあいがはじまりました。「いつか子どもの本を訳したい」と話していたことを、相良さんが覚えていてくださり、わたしのことも出版社の方に紹介してくださったんです。
Q★リーディングがきっかけだったのですね。シノプシスの書き方など、どこかで学ばれたのですか。
A☆相良:いえ、まったくの独学です。編集者の方からサンプルをいただいて、それにのっとって毎回仕上げていきました。長所と短所をきちんと書くことについては、何度もアドバイスを受けました。
A☆陶浪:わたしもそれまでシノプシスの書き方を勉強したわけではないので、サンプルを参考に、あらすじは全体の3分の2、感想を3分の1と心がけて書きました。この感想の部分を書くのが、毎回とても楽しいです。
Q★ところで、デビュー作の共訳はおふたりの希望だったのですか。
A☆相良:編集者の方からの提案でした。おそらく、新人の翻訳者ひとりにシリーズをまかせるより、共訳という形の方が安心できるものだったのではないでしょうか。わたしも陶浪さんと共訳できるのであればと二つ返事でお受けしました。
Qなるほど。どのような形で翻訳作業をされたのでしょう。
A☆相良:まずは原作を読んで、本のトーンや登場人物の性格、口調などを話し合います。次に自分たちの締め切り日を決め、それまでに何章までを訳すということを決めます。共訳といっても、章を分担するのではなく、ふたりとも全てを訳す形になります。そして、締め切り日までにお互いの訳をメールで交換。ミーティングする日を決め、当日までに、お互いの訳を読み、いい部分をあらかじめマークしておきます。ミーティング時に、いいと思った部分を中心に、訳文のすり合わせをしていくわけです。何度もすり合わせを行い、ふたりの訳をひとつの訳文に仕上げました。
A☆陶浪:共訳のやり方は、いろいろあると思いますが、わたしたちは、かなりうまくいっている方だと思います。お互い、得意なところが違うので補完しあっているし、いいと思うところ、直したい箇所が、大体ぴったり合っているからです。これは、きっとまれなことなのでしょうね。
Q★おふたりの息のあった作業によって、ノシーとマームが生き生きと訳されたのですね! 特にセリフはどれも工夫があり読みやすいです。苦労された点などはありますか。
A☆陶浪:セリフの訳を考えるのは楽しいです。文芸翻訳の醍醐味ですよね。ノシーとマームは、「ボケ」と「ツッコミ」でキャラが立っているので、割合すんなりと、日本語のセリフが出てきた気がします。ただ、原文の英語的なおもしろさを訳文に活かすのは、すごく難しいところで、違和感がないよう、かなり意訳せざるをえない所もありました。
A☆相良:数か月前、神戸万知先生の講座を受けたのですが、「いかに説明口調にならずに、子どもにもわかるように訳すかが難しい」とおっしゃっていました。セリフに限りませんが、自分も翻訳をしてみて、その難しさに苦労しました。
Q★おふたりは、文芸翻訳だけでなくビジネス翻訳もされていますね。両方されることのメリットを感じますか。
A☆陶浪:ビジネス翻訳は、さまざまな分野の最先端の情報を知ることができるのが、大きな魅力です。一方、文芸翻訳は、こちらの日本語力とセンスがものすごく試されるので、とてもやりがいがあります。わたしは、どちらかだけでなく、両方をやっていくことが、自分の中で、それぞれのモチベーションを高めているような気がします。
A☆相良:フリーランスになりたての時期は、好奇心も手伝って、児童書のリーディングに加え、映像翻訳、製薬会社の社内翻訳、ファッション誌の記事の翻訳など、いただけるお仕事は、こなす余裕があれば受けてきました。映像翻訳の経験は、児童書のセリフを訳すのにとても役だっています。これからは、勇気をもって分野を絞っていかないと、その道の上は目指せないのではという気持ちもあります。
Q★おふたりとも、児童書以外の分野から翻訳をはじめられたのですが、現在、意識して勉強されていることはありますか。
A☆相良:ノシーとマームのシリーズを訳す機会に恵まれたことで、あらためて児童書の豊かな世界に目を向けるようになりました。いまは、勉強、勉強の毎日ですね。たくさん本を読むことはもちろんのこと、原作と訳書の比較、日本語の表現力をつけるために、陶浪さんと一緒に童話創作のクラスも受講しています。それ以外にも、金原瑞人先生のファンタジー講座、上橋菜穂子さんや清水真砂子さんの講演、メルヴィル「白鯨」の講座など、興味を持った講座には積極的に参加するようにしています。
A☆陶浪:自分が本に囲まれた幼少時代を過ごしたので、いまの子どもたちにも、本をたくさん読んでほしいという思いをもっていました。子どもたちに紹介できる本を、訳すことができるようになったいまは、もっと児童書のことを知りたいと思っています。相良さんと通っている童話創作クラスでは課題本について意見を出し合ったり、生徒の創作童話を批評したりして、とても勉強になります。
Q★辞書はどのようなものを揃えていますか。
A☆相良:リーダーズ、ランダムハウス、広辞苑など基本的なものは、Jamming(多機能電子辞書ブラウザ)にいれて使っています。それ以外では、『究極版 逆引き頭引き日本語辞典』(講談社+α文庫)、『からだことば辞典』(東京堂出版)、『感情表現辞典』(東京堂出版)、『現代擬音語擬態語用法辞典』(東京堂出版)、『例解慣用句辞典』(創拓社)です。
A☆陶浪:わたしも Jamming を使っています。一度に複数の辞書がひけるのでとても便利です。相良さんがあげたもののほかに、英和辞典の訳がしっくりこないときは "Oxford Advanced Learner's Dictionary" も欠かせません。『知って役立つキリス
ト教大研究』(八木谷涼子著/新潮OH!文庫)は、英米文学において、日常的にキリスト教用語が出てくるので便利なリファレンス本です。
Q★今後のお仕事の予定、抱負などお聞かせください。
A☆相良:来年に初の単独翻訳本が出版される予定で、内容は人魚の可愛らしいお話です。ほかに、現在、陶浪さんと共訳で決まっているシリーズが2つあります。1つは、バイキングの少年とできそこないのドラゴンの話。これは、つい先日1巻を訳し終えました。いまのところ、3巻まであり、来年秋以降、順次出版される予定です。もう1つは、一生懸命悪い子になろうとする子ども狼の話。ドラゴンシリーズと共に来年秋以降、順次出版を予定しています。
A☆陶浪:わたしも2匹の犬の話を単独で訳す予定があります。犬は大好きなので訳すのを楽しみにしているところです。あと、いつか相良さんとイギリスに出かけて、本の発掘旅行をしたいねと話をしています。ノシーとマームの原作者もイギリス在住なので、お会いしてみたいんです。自分の気に入った本を出版社に持ち込むこともぜひやってみたいですね。そして、いつの日か、自分でも作品を書いてみたい。それまでは、本や映画や旅行などを通じて、良質な体験をたくさん積み重ねたいと思っています。
魔女の物語は類書が多いなか、おふたりの訳されたノシーとマームのシリーズは魔女の性格やセリフが楽しく、一度読むと忘れられない個性のある作品です(本誌今月号「連動レビュー」参照)。勉強することを常に怠らず、謙虚な姿勢をもっているのがお話からよく伝わってくるおふたり。現在、やまねこ翻訳クラブの会員でもあり、ファンタジー作品をたくさん読む企画の読書マラソンにも積極的に参加されています。
(取材・構成:林さかな)
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●世界の本棚(イタリア語)●
―― 格闘の日々のあとにくるものは? ――
『1は中学1年生の1 Gはジョルジーナ・ポッツィ先生のG』(仮題) アンジェラ・ナネッティ作
"P come prima (media) - G come Giorgina (Pozzi)" by Angela Nanetti
Edizioni EL, 2004 ISBN 8879264710(Italy)
※1994年に "Rosaroserose" として、2000年に "La banda dei chiodi" として出版された作品の改版
110pp.
1950年代半ばの秋。ベアトリーチェは親友クリスティーナと自転車に2人乗りして、どきどきしながら中学校へ向かった。今日から中学生になるのだ。1年生の教室では、男子は農家の子とそれ以外の子の2つのグループに分かれて座っていた。授業中、弁護士の息子ウベルトに「牛くさい」と言われたアントーニオが、仕返しに変な顔をしてからかい、それに怒ったウベルトはアントーニオめがけてインク瓶を投げる。しかし、インクを浴びたのはベアトリーチェとクリスティーナ。ウベルトとアントーニオはその後も何かとけんかを始め、授業にならないので、ジョルジーナ・ポッツィ先生が1年生を受け持つことになった。
ポッツィ先生はまだ若いが、しゃれっ気も愛想もない。授業はひたすら厳しく、毎日ラテン語のテストを行う。ただでさえ難しい上に、ひとりずつ口頭で行われるため、優等生のウベルト以外はまともな点が取れない。ベアトリーチェやアントーニオたちは「打倒! ポッツィ先生」を目標に、対策を練った。試験の最中、先生に見えないように手話で答えを教えたり、先生の自転車がパンクして学校に来られなくなることを願って、通り道にくぎをまいたり……。一方、ウベルトとアントーニオは相変わらず対立していたが、あるできごとをきっかけに、けんかをやめた。そして、春になり、無愛想だったポッツィ先生の顔に、なぜか微笑みが浮かぶようになったころ、ベアトリーチェたちにも変化が訪れる。
半世紀前のイタリアの中学1年生(年齢的には日本の小学5年生)の日常生活が、ユーモアを交えながら描かれる。犬猿の仲の2人の間に友情が生まれたり、主人公ベアトリーチェがあこがれる3年生は学級代表だったり……という展開は、古きよき時代の少女漫画のようで、懐かしさを感じる。ラテン語のテストを阻止するために、ばかばかしい対策をみんなで真剣に試みるさまは、滑稽ながらもほほえましい。最初に出版されてから10年以上を経て、その間、2度タイトルを変えながら読まれ続けているところをみると、現代のイタリアの子どもたちも、ベアトリーチェたちに共感しているのかもしれない。
(赤塚きょう子)
【作】Angela Nanetti(アンジェラ・ナネッティ)
1942年、イタリア、ボローニャ近郊のブドリオ村に生まれる。ボローニャ大学で中世史を学んだのち、南イタリアのペスカーラで中学と高校の教壇に立つ傍ら、執筆活動を開始。2003年にイタリア・アンデルセン賞最優秀作家賞を受賞。邦訳作品に『おじいちゃんの桜の木』(長野徹訳/小峰書店)がある。現在は執筆活動に専念。ペスカーラ在住。
【参考】
▼アンジェラ・ナネッティの公式ウェブサイト(イタリア語・英語)
http://www.angelananetti.it/
▼イタリア・アンデルセン賞公式ウェブサイト(イタリア語)
http://www.andersen.it/premio.php
【イタリア・アンデルセン賞について】
1982年に創設され、イタリアの児童文学賞の中で、もっとも権威があるとされる賞。すぐれた子どもの本や、作者・画家・編集者などに与えられる。審査員は、児童文学専門誌「アンデルセン」編集部と、ミラノの児童書専門店リブレリア・デイ・ラガッツィのスタッフ。前年にイタリアで出版された児童書が対象となる。翻訳作品も可。0歳〜6歳対象、6歳〜9歳対象、9歳〜12歳対象、12歳以上対象にした各部門のほか、最優秀作家賞、最優秀画家賞などさまざまな賞がある。
2006年の受賞作品は5月に発表された。25周年となる今回は、特別に全部門の受賞作の中から年間最優秀賞が選ばれ、フランス語からの翻訳である Thierry Lenain の "Bisognera"(原題:"Il faudra")が受賞した。
過去の受賞作品には、2004年の9歳〜12歳対象部門に選ばれた "L'ultimo elfo"(『ひとりぼっちのエルフ』シルヴァーナ・デ・マーリ作/荒瀬ゆみこ訳/早川書房)、2003年の12歳以上対象部門に選ばれた "Corri ragazzo, corri"(『走れ、走って逃げろ』ウーリー・オルレブ作/母袋夏生訳/岩波書店)などがある。
2007年6月一部修正
【特殊文字】
「Bisognera」:「a」の上にアクセント記号(`)がつく。
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★2006年オーストラリア児童図書賞発表
★2006年ミソピーイク賞発表
★2006年ブックトラスト・ティーンエイジ賞候補作発表
★2006年エルサ・ベスコフ賞&ニルス・ホルゲッソン賞発表
★2006年ガーディアン賞ショートリスト発表
海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」をご覧ください。
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●イベント速報●
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★展示会情報
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安曇野ちひろ美術館「韓国の絵本展」 |
平塚市美術館「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」など |
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★セミナー・講演会情報
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子どもの本のみせ ナルニア国「金原瑞人氏講演会」
出版文化産業振興財団「ヤングアダルト文学講座」など |
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詳細やその他の展示会・セミナー・講演会情報は、 「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、空席状況については各自ご確認願います。
(井原美穂/笹山裕子)
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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! |
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●編集後記●
今月号をもちまして、編集長を交代します。約2年間、応援してくださった読者のみなさまに感謝いたします。ありがとうございました。ここで学んだことをいかせるよう、これからもがんばります。今後とも「月刊児童文学翻訳」のご愛読をよろしくお願いします。最後に、支えてくれたスタッフにも感謝します!(た)
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