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※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:[email protected]
1999年7月15日発行 配信数1049
【雄松堂ミニ展示会「欧米の絵本・児童書即売会」7月14日〜7月27日】
英語による古書・新古書を500点程集めた展示会です。オリジナル原画から精巧な木版・石版の素晴らしい絵本、多色刷りの美しい絵本まで、滅多にご覧になれないものも多数あります。是非会場まで足をお運び下さい。ご興味のある方はまず雄松堂HPへ
M E N U
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カーネギー賞 |
カーネギー/グリーナウェイ賞の選考にあたる英国図書館協会(LA)は、11〜15歳の児童による書評を集めて受賞作を予想する「シャドウイング」という企画をウェブサイトで行っている。昨年の子どもたちの意見では、大ベストセラーの"Harry Potter" の1作目が圧倒的に1位を占めた(実際受賞したのは"River Boy"であった)。
LAはキャラクターやプロットの批評の観点などを指導しており、書評にもその成果がみられる。大半は子どもらしく幼い感想だが、中には、驚くほど内容の濃い、文章の優れたものもある。今年の候補作に対する子どもたちの声をまとめてみた。
約250通の書評(7月8日現在)のうち、"Skellig" が66(18)通、"Fly, Cherokee,Fly"57(15)通、"Heroes"43(18)通、"The Kin"41(28)通、"The Sterkarm Handshake" 32(14)通の投稿を得ている。[かっこ内はその本を特に高く評価する書評数]
SkelligとCherokeeはやや低学年向けであるのに対し、HeroesやSterkarmはYA向けで、各々の層に人気が高いようだ。The Kinの筋や文章は難しくないが、扱っているテーマが深いため、位置付けが少々難しいようだ。具体的な声を少し紹介しよう。
讃 評 | 批 判 | |
"Skellig" |
「想像力をかきたてる」 「サスペンスがある」 「神秘的」 「真実味がある」 「(物語に)入り込めた」 「表紙がよかった」 |
「アクションがない」 「説明的」 「繰り返しが多い」 「何か欠ける」 |
"Cherokee" |
「いじめ問題を扱っている」 「登場人物がいい」 「真実味がある」 「わかりやすい」 |
「ステレオタイプ」 「独創性に欠ける」 「鳩の話じゃつまらない」 「理想主義的」 「読書レベルが低すぎる」 |
"The Kin" |
「4人の視点から物事がみられる」 「子どもたちの成長がずっと追える」 「20万年前の世界に入り込める」 「長くても(632pp!)読める」 |
「話がワンパターン化している」 「低学年向けの割に長すぎる」 「各章の間に入っている神話がうっとうしい」 「登場人物が一面的」 |
"Heroes" |
「フラッシュバックがいい」 「先を読みたくさせるうまい構成」 「心を動かされる/に残る」 「戦争・英雄について考えさせられる」 |
「描写が気持ち悪い」 「アクションが少ない」 「男子向け」 「好みでない」 「構成が複雑でついて行きにくい」 |
"Sterkarm" |
「独創性と真実味がある」 「心に残る」 「話に吸い込まれる面白さ」 |
「複雑すぎる」 「登場人物に魅力がない」 「長すぎる」 「YA向けで難しすぎる」 |
最終結果ではないが、全ての作品を読んだ子どもたちはThe Kinを1位に上げていることが多い。さて、子どもたちの予想がどの程度当たるか、7月14日の結果発表が楽しみだ。
直接書評を読みたい方は http://www.carnegiegreenaway.org.uk/shadow/shad/shadow.asp へ。
(池上 小湖)
カーネギー賞 子どもが選ぶなら 『友情をこめて、ハンナより』 『天使と話す子』 "Skellig" "The Lion and the Unicorn" Chicocoの洋書奮闘記 アーサー・ランサム MENU |
注目の本(邦訳読み物) |
ミンディ・ウォーショウ・スコルスキー作『友情をこめて、ハンナより』 Mindy Warshaw Skolsky "Love from Your |
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1937年アメリカ――ペンフレンドが欲しいハンナはクラスの「文通希望者箱」の中から一枚のカードをひく。そこに書かれていた名前はエドワード。女の子のペンフレンドが欲しかったハンナだが、とにかく彼に手紙を書いてみた。ところが返事は無愛想な2行のみ。がっかりしたハンナは親友のアギーに愚痴の手紙を書く。しかし、このアギー、親友といいながら転校したきりまったく返事をくれないのだ。筆まめなペンフレンドが欲しいハンナは、ルーズベルト大統領に手紙を書きペンフレンドを捜してもらうことを思いつく。
ハンナのように手紙好きだと、この物語は一段と楽しめる。なぜなら、ハンナと同じように、筆まめなペンフレンドを捜す苦労を知っているからだ。ペンフレンドがほしいハンナは手紙を書き続ける。おばあちゃんに、叔母さんに、大統領に、返事をくれないアギーに、エドワードに……。
おばあちゃんからの返事は早い。そしていつもあたたかい。大人たちの返事はどれもハンナへの愛情に満ちている。少しだけ人生を先に歩んでいる者がそれをふりかざすことなく、率直に手紙という形でハンナに語りかける。
アギーの手紙を待ち続けるハンナに、こう言ってくれる人がいた。「わたしだったら、手紙は書き続けますが、何通出したかは気にしないことにします。」もうハンナはアギーに「これは、何通目の手紙よ」とは書かない。返事がこなくてもアギーは大事な友達にかわりないこと、そしていつのまにか自分に真の友ができていることに気づくのだ。
この物語はペンフレンドとハンナの友情物語。文通というのは、書く、読む、そしてまた書くというシンプルな行為である。友情が深まるのは、文章の中にその人を想う気持ちがぎっしり入るからなのだろう。そのことに私自身も気づかされる。たくさんの楽しい手紙を読ませてくれてありがとう、ハンナ。
(林 さかな)
【作者】Mindy Warshaw Skolsky(ミンディ・ウォーショウ・スコルスキー) 【訳者】唐沢則幸(からさわ のりゆき) |
カーネギー賞 子どもが選ぶなら 『友情をこめて、ハンナより』 『天使と話す子』 "Skellig" "The Lion and the Unicorn" Chicocoの洋書奮闘記 アーサー・ランサム MENU |
注目の本(邦訳絵本) |
エスター・ワトスン作『天使と話す子』 Esther Watson "Talking to Angels" |
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昨年、デパートのワゴンセールでこの本の原書に出会った。子どもが描いたような、不思議で力強い絵にひかれて何気なくページをめくるうち、ふいに涙が出てきて困ってしまった。
著者、エスター・ワトスンのデビュー作である本書は、愛する妹への贈り物として描かれた作品だ。妹のクリスタは、姉がいうことをまねするのがだいすき。自分のいうことを姉にまねしてもらうのもだいすき。なんでもちゃんときこえているけれど、心の中で答えるだけで、声に出さない……。
読んでいるうちに、クリスタが自閉症であることはわかってくるが、わたしが胸を打たれたのはそのせいではない。ときに大胆な、ときにほんのりとやさしい色使いで描かれた絵の一枚一枚から、作者の妹への愛情がひしひしと伝わってくるから、そしてそれが愛情というものの本質を表しているように思えるからなのだ。
頭の中にあることを言葉に出してくれないクリスタ。でも彼女が子猫にほっぺたをすりつけるさまは、なんていとおしいのだろう。思えばすべて人と人との間には、大なり小なり何らかの溝が横たわっているのではないだろうか。そしてわたしたちは、もっと相手を理解できればとため息をつきながらも、相手の笑顔や寝顔になごまされ、また一緒に歩いていこうと心に誓うのだ。
ついついテーマ主義的にとらえられがちな本だけれど、できれば先入観をとりはらい、まっさらな気持ちで手に取ってみてほしい。この姉妹にごく自然な共感を抱くとき、天使と話ができるクリスタのことを、もっと知りたいという気持ちがわいてくる。
(内藤文子)
【作者】Esther Watson(エスター・ワトスン) 【訳者】山中康裕(やまなかやすひろ) |
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注目の本(未訳読み物) |
デイヴィッド・アーモンド作 『スケリグ』(仮題) David Almond "Skellig" 170pp. |
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マイケルは、越してきたばかりの家の壊れかけた物置で、やせこけ、埃にまみれ、力なくすわりこんでいる不思議な生き物を見つけた。話しかけるとなげやりなことばを返し、テイクアウトの中華料理やビールを喜び、背中には羽のような不思議なものを生やしている。人なのか、鳥なのか、それとも天使なのか。あるいは、マイケルだけに見える幻想なのか。両親は、未熟児で病気がちな妹のことで心を痛めているので、これ以上おかしなことをいって、よけいな心配をかけるわけにはいかない。悩んだマイケルは、詩や鳥を愛し、学校を嫌う隣家の娘ミナに、この不思議な生き物のことを打ち明ける。そしてその生き物は、ふたりに「スケリグ」と名乗った……。
本年度のホイットブレッド賞受賞作、ガーディアン、カーネギー両賞候補作の本書は、瑞々しい文体で少年の幻想的な体験を描いた詩情あふれる作品だ。物語は、マイケルの漠然とした不安感をうかがわせる抑えたトーンの一人称で語られるため、薄いベールごしに登場人物たちを見ているかのような、不思議な距離感を保ちながらすすんでいく。その中で、ひとりスケリグだけは、くっきりとした輪郭を持つ強烈なキャラクターだ。この個性が全体のカラーといい意味での不調和をみせ、作品をいっそう魅力的なものにしている。
孤独死したというこの家の前住人、病気がちの妹、そして次第に衰弱しながら生きようという意志をまったくみせない謎の生物スケリグ。マイケルは、さまざまな「死」と隣り合わせの生活を送りながら、「生」の希望を必死に模索する。マイケルの目の前に、かたちをとってあらわれた「死」の恐怖、スケリグは、マイケル自身とミナ、そして自然の助けによって、徐々に変化を見せ、マイケルを解放していく。それは子どもが、本来ならば自分ともっとも遠い位置にあるはずの「死」に感じた不安を経て、自ら獲得するものとしての「生」に目覚めていく過程である。
読みながら、自分も子どものころ、突然「死」に恐怖を覚えて眠れなくなったことを思い出した。静かに、しかし強く、心の奥底を揺さぶられる一冊だった。
(森 久里子)
David Almond(ディヴィッド・アーモンド) |
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注目の本(未訳絵本) |
シャーリー・ヒューズ作 『ライオンとユニコーン』(仮題) Shirley Hughes "The Lion and the Unicorn" 58pp. |
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第二次世界大戦中のイギリス。ロンドンへの空襲が日増しに激しくなる中、レニーは田舎に疎開することになった。戦地にいる父からもらった宝物のメダルをポケットにしのばせ、小さなスーツケースを片手に、汽車で疎開先へ向かう。見知らぬ女の子3人といっしょに彼が預けられたのは女主人のいる大きな屋敷だった。屋敷での生活にも学校にもなじめず心細い毎日を送るレニーは、ある日、広い庭園の一角に塀で囲まれた小さな庭があるのを発見する。白いユニコーンの像があるその庭は、不思議と心が落ち着く場所だった。レニーはそこで、片足のない男性ミックに出会い、「いろいろな種類の勇気がある」というミックの言葉によって、耐えることもまた勇気であるということを知る。
この作品では、ライオンが「戦場で戦うときなどに必要な勇気」を、ユニコーンが「日々の暮らしの中で困難に耐える勇気」を象徴している。レニーのメダルには、このライオンとユニコーンが彫られている。ポケットの中のメダルを手で触るたび、レニーは「勇敢であれ」という父の言葉を思い出す。しかし、やはりまだ年端のいかない子どもだ。戦争中という不安定な時期に親元を離れ、どれほど心細かったことだろう。さらに、食生活や習慣の違うユダヤ人であるという理由から、屋敷内や学校でも孤立してしまう。その寂しさにじっと耐えながら、何とか勇気を持ちたいと考えるレニーの姿はいじらしい。ミックと知り合ったことや最後に「不思議な体験」をしたことで耐える勇気を自分のものにしたレニー。さまざまな不安や寂しさに直面している現代の子どもたちは、きっと彼に共感を覚えることだろう。
登場人物は独特のやわらかな線で表情豊かに描かれている。また、空襲で燃えるロンドンの街の迫力や、庭の美しさなども印象的だ。枠で囲まれた文字部分には白黒の挿絵が添えられ、読み応えのある物語の世界がさらに広がっている。今年のケイト・グリーナウェイ賞候補作。
(生方頼子)
Shirley Hughes(シャーリー・ヒューズ) |
カーネギー賞 子どもが選ぶなら 『友情をこめて、ハンナより』 『天使と話す子』 "Skellig" "The Lion and the Unicorn" Chicocoの洋書奮闘記 アーサー・ランサム MENU |
Chicocoの洋書奮闘記 第7回 | よしいちよこ |
近所の図書館をなめていた。古い洋書しか置いていないと思っていたのだ。ところが、洋書奮闘記第3回(1998年12月号)で紹介した"Sarah, Plain and Tall"があるではないか。ただし、講談社ワールドブックス版である。講談社ワールドブックスは、洋書ビギナーのためのシリーズ。そこで、"Dear Mr. Henshaw"(Beverly Cleary/1983年/講談社ワールドブックス)を借りてきた。118ページ。ニューベリー賞受賞作である。 リー少年が、作家ヘンショーさんに書いた手紙と日記だけで構成されるお話。リーの書く文章を読むだけで、成長していくのがわかり、おもしろい。両親の離婚のことや、離れて暮らす父を思う気持ち、作家になりたいという将来の夢、学校生活のことなど、ストーリーを追う楽しみもあって、退屈しない。 |
【8/12】 | 翻訳家を志望する卵だが、卵には卵なりの締めきりがある。課題をたくさんかかえているため、読書の時間がなかなかとれない。8pだけ読んで寝る。 |
【8/13】 | 18p。 |
【8/14】 | イギリス絵本原画展を見に、大阪梅田に出かける。電車の中で14p。途中で居眠り。妊娠中は眠くなるって本当らしい。 |
【8/15】 | 頭痛がする。つわりはないけど、ばて気味。6p。妊娠13週目。 |
【8/16】 | 8p。 |
【8/17】 | 16p。 |
【8/18】 | おもしろい本なのに、読みはじめたら、眠るというくり返しだった。きょうは、気合いをいれて、27p。 |
【8/19】 | 14p。 |
【8/20】 | 7p。読了。 |
この講談社ワールドブックスは難易度によって読解レベルがつけられており、この本は堂々のレベル1。解説や語注もついているので、初心者でも楽に読める。また、訳書『ヘンショーさんへの手紙』(あかね書房)の翻訳者、谷口由美子さんが16ページもの解説を書いている。至れり尽せりで、ちょっと親切すぎるかなと思ったのは、6冊目にして、少し成長した証拠だろうか。
※ この作品は、ただいま絶版となっています。
カーネギー賞 子どもが選ぶなら 『友情をこめて、ハンナより』 『天使と話す子』 "Skellig" "The Lion and the Unicorn" Chicocoの洋書奮闘記 アーサー・ランサム MENU |
特別企画 |
アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』シリーズ12巻がこの6月に復刊された。あちこちの書店にあのヨットの絵の分厚い本が並び、中には全巻平積みになっているところもあるらしいと聞くと、見に行きたいと思うほどうれしい。岩波書店では、品切れになってからの年数、読者からの要望、社としての意向などを考慮して復刊を決めるそうだ。絶版と決まっている本は少なく、品切れが長年続いている本でも状況次第では復刊することがありうるという。ランサム全集はこのところ4、5年ごと(前回は1995年)に復刊されている。私が購入しようと思ったのは前回の復刊が品切れになりかかった頃だったので、多くの書店に問い合わせたり、古本を探したりと苦労して買い揃えた。でもそれでは出版社には何も伝わらない。「品切れだからしかたがない」「待っていればそのうち出るかもしれない」とあきらめてしまう前に、注文や問い合わせをする等、出版社に買いたいという要望を伝えていくことが大切だと思う。
実は今回の復刊に先だって、昨年12月に生活クラブ生協で『ツバメ号とアマゾン号』(第1巻)の共同購入があった。このように生協等で注文を結集することにより、復刊することも可能だという。この共同購入に喜んで私が手紙を書いたところ、生協の機関紙に掲載され、出版社の方にも見てもらえたらしい。また、私は生協でしか買えないとは知らずに、ニフティサーブのランサムや児童文学関係の電子会議室等でお知らせしたので、それを見て書店に注文した人もいた。それらが直接復刊に結びついたわけではないが、読者からの要望を伝えることが重要だと実感した次第だ。
さて、その『ツバメ号とアマゾン号』シリーズの物語とは――休暇中に湖の無人島に子どもたちだけでキャンプし、ヨットに乗り、探検をする冒険物語だ。巻によっては金鉱探しをしたり、冬にはスケートやそりをしたりもする。そのわくわくするストーリー展開もさることながら、人物やキャンプ生活の様子が詳細に描かれ、自分が実際に体験しているように感じられるのが特徴だ。
以前は遠い海のかなたでだけ起こるものだった冒険を、子どもたちの日常生活の中で実現させたのがこの作品だ。また、それまで冒険物語といえば男の子が主人公だったが、この作品では女の子が従の立場でなく対等に活躍している。読者の女の子がそこに共感する一方、男の子たちも違和感なく、男女を問わず楽しんで読んでいる。また登場人物の性格がはっきりと書き分けられており、主人公を一人に特定することができないほど、各人が個性的に活躍している。そのため登場人物で誰が好きかと聞くとかなり意見はわかれ、また巻により活躍する人物が違ったり冒険の内容も違うため、好きな巻も人により様々だ。
70年前に作品が書かれた時には、これはおそらく「手を伸ばせば届きそうな」現実の物語だったのだろう。子どもがこの物語のようなことを実際にできるのかとずっと考えてきたが、数年前カナダで生活する機会があった時に「この環境なら充分実現できる」と結論を出した。おそらくイギリスでも同じだろう。では現在の日本では「まったくの夢物語」だろうか?
東京のど真ん中で育った私は子どもの頃この作品を読んで、「どうして湖や川の近くで生まれなかったのだろう」と思った。そして自分のその時の状況では実現できなかったから、「いつか物語の舞台へ行こう」「いつかヨットに乗ろう」と思い、10年、20年たってそれを実現させた。ランサムファンには物語から得た楽しみをいろいろな形で実現させている人が多い。本だけを頼りに舞台となった場所へ行った人、キャンプや登山をする人、鳥に興味を持った人、ヨットや船に乗る人……。
作品の世界が自分の現実とまったく違うものであるからといって、意味のない、役にたたない絵空事だとはいえないと思う。まったく違うからこそ、あこがれ続けることもある。ランサムの場合「まったく違う環境だが実現可能な物語」であるがゆえに、「いつか実現させる」ことを私は夢に見続けて来られたのだと思う。その夢を一人で抱き続けてきたところ、同じ思いを持ち続けてきた人が大勢いることを、パソコン通信がきっかけで数年前に知り、驚くと同時に感動した。今ではランサムについて思う存分語り、夢を共有できる仲間ができてうれしい限りだ。
現在の子どもたちにこの本がどういうふうに見えるのかは非常に気になるが、小学5年の息子に聞くと実に単純な答えが返ってきた。「話が面白ければ、ありそうなことかどうかは関係ない。」時を経ても残っていく古典とは、状況が変わっても面白さが変わらない作品なのだろう。子どもたちの心を豊かにする栄養的な作品として、いつまでも読み継がれていってほしいものだ。
(この文を書くにあたり、ファンクラブであるアーサー・ランサム・クラブ、およびニフティサーブの電子会議室FSHIP「てぃーるーむ・アーサー・ランサム」の仲間たちの意見を参考にしました。)
(田辺規子)
カーネギー賞 子どもが選ぶなら 『友情をこめて、ハンナより』 『天使と話す子』 "Skellig" "The Lion and the Unicorn" Chicocoの洋書奮闘記 アーサー・ランサム MENU |
※8月は定期休刊月です。次回は9月号になります。どうぞお楽しみに!
●編集後記●
ちょうどこの号がお手元に届くころ、カーネギー/グリーナウェイ賞の発表が行われます。さて、どの作品が栄冠を獲得するのでしょう。(き)
発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 田中亜希子(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 菊池 由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | 河まこ キャトル くるり Chicoco |
協 力: |
どんぐり BUN ベス YUU りり ワラビ
NIFTY SERVE 文芸翻訳フォーラム・マネジャー 小野仙内 ながさわくにお MOMO 小湖 さかな Blue Jay |
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