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月刊児童文学翻訳

─2000年4月号(No.19 書評編)─

※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
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編集部:[email protected]
2000年4月15日発行 配信数1,575


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎特集
2000年ガーディアン賞発表
2000年ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞発表

◎注目の本(邦訳絵本)
U・オルレブ文 J・グライヒ絵 『かようびはシャンプー』

◎注目の本(未訳絵本)
モリー・バング作 "When Sophie Gets Angry -- Really, Really Angry..."

◎Chicocoの洋書奮闘記
第14回「出産直後に洋書を読む」(よしいちよこ)

◎追悼
バーバラ・クーニー



特集

―― 2000年 ガーディアン賞発表 ――

 

 3月23日、イギリスの代表的な児童文学賞、ガーディアン賞の発表が行われた。受賞作、および最終候補作(shortlist)は以下の通り。

 

《The Guardian Children's Fiction Prize 2000》

★The winner
"The Illustrated Mum"
by Jacqueline Wilson (Transworld)
illustrated by Nick Sharratt

☆The shortlist
"Kit's Wilderness" by David Almond (Hodder Children's)
"Little Soldier" by Bernard Ashley (Orchard)
"King of Shadows" by Susan Cooper (Bodley Head)
"The Eclipse of the Century" by Jan Mark (Scholastic)
"Harry Potter and the Prisoner of Azkaban" by J.K.Rowling (Bloomsbury)

 

 ガーディアン賞を受賞したジャクリーン・ウィルソンは、1945年生まれ、サリー州在住。子どもの頃から作家を志し、出版社勤めなどの後、執筆生活に入る。1995年、"Double Act"でスマーティ賞を受賞。現代の子どもを取り囲む問題を軽妙に描いた作品で、英国の子どもたちの強い支持を受けている。子どもたちが審査員になって選ぶチルドレンズ・ブック賞(Children's Book Award)を2度受賞した。邦訳作品には、『みそっかすなんていわせない』("The Left-Outs"小竹由美子訳/偕成社/1995)『バイバイわたしのおうち』("The Suitcase Kid"小竹由美子訳/偕成社/2000)がある。受賞作品は、風変わりな母親と暮らす姉妹の生活を、妹の一人称で語ったもの。以前の作品よりもやや暗めの内容であるが、お子様向けの甘いお話や説教話を嫌うというこの作家らしく、ありのままの現実に前向きに取り組む姿を示している。この作品は、今年度のチルドレンズ・ブック賞の候補にもあがっている。

 今年のガーディアン賞候補作のうち、ジャン・マークの作品は、昨年のブッカー賞にもエントリーした作品。受賞は逃したが、児童書作家から初のブッカーか、と話題になった。おなじみローリングのハリー・ポッター第3作は、今年のスマーティ賞を受賞している。ガーディアン紙によれば、候補作には、"Outsider"を扱ったものが多く、家族のありかたが従来の形を逸脱し、複雑になってきている状況を反映しているということである。

 これらの作品については、順次、本誌書評編で取り上げていく予定。

(菊池由美)

 


 

2000年ガーディアン賞   2000年アンデルセン賞   『かようびはシャンプー』   "When Sophie Gets Angry -- Really, Really Angry..."   Chicocoの洋書奮闘記   バーバラ・クーニー   MENU

 

―― 2000年 ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞発表 ――

 

 3月末、ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞の受賞者が決定した。この賞は、児童文学に貢献してきた作家/画家の全業績を称え、国際児童図書評議会が2年に1度、西暦偶数年に発表するものである。各国(今回は30か国)から推薦された、27人の作家と27人の画家のうちから選ばれた受賞者、および最終候補者(finalists)は以下の通り。

 

《Hans Christian Andersen Award 2000》

★Author award: Ana Maria Machado (Brazil)
☆finalists: Peter Dickinson (United Kingdom)
Lois Lowry (United States)
Ulf Stark (Sweden)

★Illustrator award: Anthony Browne (UK)
☆finalists: Rotraut Susanne Berner (Germany)
Boris Diodorov (Russia)
Marija Lucija Stupica (Slovenia)

 

 作家賞を受賞した、アンナ・マリア・マチャード(ポルトガル語読みではアナ・マリア・マシャード)は、ブラジル、ベネズエラなどの南米諸国で活躍する作家だが、作品は英語圏でも多数出版されている。9人兄弟の長女として、1941年リオ・デ・ジャネイロに生まれた。アメリカ、フランス、イタリアで教育を受け、大学教諭、ジャーナリスト、ブラジルのラジオ局の報道局長などを勤めたのち、1980年からは作家業に専念している。ユーモアと詩情にあふれ、あざやかなイメージに満ちた文章が特徴。作品には民話と現代のテクノロジー、おとぎ話と最新のメディアなど、相反する要素がみごとに溶け合っている。1996年の"Nina Bonita"(スペイン語の正確な表記では"Nina"のnにティルダ(~)がつく)(英語版:Kane/Miller Book 1996)では、黒人少女の肌色を羨む白うさぎを題材に扱い、白人優位主義に一石を投じるものとして話題を呼んだ。邦訳では、再話を担当した民話『ジャガーにはなぜもようがあるの? 』(ジアン・カルビ絵/ふくいしげき訳/ほるぷ出版/1983)が出ている。

 画家賞受賞のアンソニー・ブラウンは、グリーナウェイ賞を2度受賞するなど、定評のある画家。『ボールのまじゅつしウィリー』(久山太市訳/評論社)ほかの、ユニークな画風で知られ、作品は日本でもおなじみである。イギリス人がこの賞を受賞したのは、1956年のエリナー・ファージョン(作家賞)以来のこと。

(菊池由美/内藤文子)

 


 

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注目の本(邦訳)

―― シャンプーが苦手な子どもたちと、お父さんお母さんたちへ ――

 

『かようびはシャンプー』表紙

『かようびはシャンプー』
ウーリー・オルレブ文 ジャッキー・グライヒ絵
もたいなつう訳 2000.2 講談社 本体1,650円

"Der haarige Dienstag" Beltz Verlag 1998
text by Uri Orlev, illustrated by Jacky Gleich

Original Hebrew Language(Text)
Keter Publishing House 1986

 

 3歳の男の子イタマルは、シャンプーが大の苦手。毎週火曜日はお母さんがイタマルの髪を洗ってくれる日で、夕方になるとイタマルの泣き叫ぶ声がうちじゅうにひびきわたる。こりゃたまらんと、お父さんはどこかに出かけてしまい、お姉ちゃんのダニエラは指を耳につっこんでひたすら我慢するだけ。ある晩、ダニエラはいいことを思いついた。イタマルの頭を丸ぼうずにしてしまえば、もう髪を洗わなくてもすむじゃない! ダニエラはイタマルを連れて床屋にでかけていくが……。


 一進一退しながら成長していく子どもの姿を、急がずせかさず、やさしい目で見つめる作者の思いがよく伝わってくる絵本。シャンプーができるようになりました、とはいかずに、やっぱり最後に泣いてしまうイタマルの姿は現実の子どもそのもの。その上で、半年後のエピソードを最後の最後に付け加えたところがなんとも心憎い。同じ年頃の子どもを持つお父さんやお母さんにも、是非読んでほしい1冊だ。

 オルレブといえば、『壁のむこうの街』など自らのホロコーストの経験を元にした作品で知られるイスラエル在住の作家。この絵本では、遠いイスラエルの国でも、日本と同じように暖かい家庭が営まれていることを自然に感じさせてくれる。泣いたり、笑ったり、怒ったり、だれかを大切に思ったり……どこの国でも一緒である。

 また、グライヒのデフォルメされた絵も、お話にしっくり合っている。単純だけれど人の表情がとても豊か。どの人物も個性的で生き生きとしている。絵もお話も、小さな子どもの心にすっと入りこんでいきそうだ。

(植村わらび)

 

【作者】Uri Orlev(ウーリー・オルレブ)

 1931年、ポーランド・ワルシャワ生まれ。ユダヤ人であったため、第2次世界大戦中はゲットーやポーランド人地区で隠れて暮し、その後強制収容所に送られた。1945年にイスラエルに渡り、エルサレム・ヘブライ大学で学ぶ。『壁のむこうの街』(偕成社)、『壁のむこうから来た男』(岩波書店)などホロコーストを題材とした作品をはじめ、ファンタジーや絵本などを幅広く発表している。1996年国際アンデルセン賞作家賞を受賞した。


【画家】Jacky Gleich(ジャッキー・グライヒ)

 1964年、ドイツ・ダルムシュタット生まれ。1995年より絵本を描き始めた。日本で紹介された『どこにいるの、おじいちゃん』(偕成社)で、ドイツ児童文学賞・ドイツの最も美しい本賞を受賞した。


【訳者】母袋夏生(もたい なつう)

 長野県生まれ。東京学芸大学卒業後、留学生としてイスラエルに渡り、ヘブライ大学文学部修士課程実用言語コースを修了した。ヘブライ語の文学やドキュメント作品を数多く翻訳している。

 

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注目の本(未訳絵本)

―― かんしゃく玉への対処法 ――

 

『ソフィは怒った ほんとにほんとに怒った』(仮題)
モリー・バング作

"When Sophie Gets Angry -- Really, Really Angry..."
by Molly Bang 40pp.
The Blue Sky Press 1999, ISBN 0-590-18979-4

☆2000年コールデコット賞オナー受賞作品☆

 

 ソフィは一人で楽しくおもちゃで遊んでいた。ところが、妹にそれを横取りされてしまう。お母さんも「順番にね」と言う。でも、ソフィはまだ遊びたい! めらめらとソフィの怒りが燃え上がる……。


 長いタイトルとソフィの怒った顔の表紙に惹かれ購入した絵本である。いったい、なにをそんなに怒っているのだろう。怒り顔は物語の中でも見開きで大きく読み手にせまってくる。「順番」という言葉は、4歳、1歳の子どもをもつ私自身もよく使う。全部のおもちゃが2人ぶんそろっているわけではない。4歳の息子は「順番」の必要はわかるけれど、まだ遊びたいという気持を抑えるのがむずかしい、そういう時の方が多い。かんしゃく玉を破裂させる様子はまさにこの絵本のソフィに似ている。


 4歳の息子に即興の翻訳をしながら読んだところ、ソフィの怒りに共感したのか、次から「ソフィは怒った! ふんとにふんとに天まで怒った!」と自分の言葉で読み始めるようになった。

 大人になると、ここまで怒りを発散させない。めらめらと燃え上がる怒りをよしよしと心の中でなだめ、外に出さない努力をするようになる(ストレスを溜めながらも)。子どもの怒りをテーマにした絵本は子どもの共感を得るばかりでなく、もしかしたら、一緒に(もしくは一人で)読む大人に怒り発散の疑似体験をさせてくれるのかもしれない。

 作者は最後に、こう問いかけている。
「いろいろな人がいろいろな方法で怒りと向き合っています。あなたなら、どうしますか?」

 さて私ならと頭をひねってみるのも一興だ。

(林 さかな)

 

【作者】Molly Bang(モリー・バング)

 1943年生まれ。1965年〜67年、同志社大学で18か月間英語の教鞭を取る。その後朝日新聞ニューヨーク支社での通訳業、ユニセフなどの仕事を経験。現在まで20冊以上の作品を描いているが全て未訳。
 1981年にコールデコット賞オナーを受賞した作品"Grey Lady and the Strawberry Snatcher"は不思議な雰囲気の文字なし絵本である。1984年のオナー作品"Ten, Nine, Eight"はおやすみ絵本。どの絵本もそれぞれタッチが違いおもしろい。

 

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Chicocoの洋書奮闘記 第14回 よしいちよこ

―― 「出産直後に洋書を読む」 ――

 

 1999年3月1日に男の子を出産した。洋書読みの先輩方から「授乳タイムは読書タイム」というアドバイスをいただいていたので、試しに読んでみた。
 ナルニア国ものがたり2『カスピアン王子のつのぶえ』の原書。"PRINCE CASPIAN"(C.S.Lewis/1951年/LIONS)。190ページ。字は小さいが、邦訳と同じポーリン・ベインズの挿し絵つき。瀬田貞二さんの訳書(岩波書店)は1年ほど前に読んでいた。
 ナルニア国が危ない。不思議な力で、ナルニア国に連れ戻されたピーターたち4人は、カスピアン王子と力をあわせて、再びナルニアに平和を取り戻そうとする。

 

《1999年の日記から》
【3/27】 夜中の2時。授乳タイムに読み始める。48p。
【3/28】 まだ実家にいたので、夫が息子に会いに来た。あまり読めず、2p。
【3/29】 24p。実家の母の目をぬすんで読むのは、けっこう大変。「授乳しながら本を読むなんて!」と叱られた。でも、こりない私。
【3/30】 8p。
【3/31】 7p。1か月健診で、息子と初外出。
【4/1】 15p。
【4/2】 明日、実家を出るので、荷物をまとめる。たったの2p。
【4/3】 夜中の授乳タイムに3p読めただけ。夫の実家に移動して、お宮まいり。
【4/4】 0p。夫の実家から、自宅へ移動。疲れた。
【4/5】 きょうから、夫と息子と3人の生活が始まる。ボブ・グリーンの不安を思い出す(洋書奮闘記第13回参照)。0p。あかん。ぜんぜん読めへん。
【4/6】 育児奮闘中、なんとか11p。
【4/7】 10p。
【4/8】 授乳のリズムがばらばら。本もリズムにのれず。2p。
【4/9】 0p。
【4/10】 2p。
【4/11】 2p。
【4/12】 昼によく眠ってくれた。14p。
【4/13】 5p。
【4/14】 だらだら読んでるなあ。早く読み終わりたい。16p。
【4/15】 9ページ。やっと、読み終わった。

 

 はっきりいって疲れた。邦訳を読んでいるので、さくさく読めると思ったのに、20日もかかってしまった。ぜんぜん読めない日や、2ページの日などが続くと、ストーリーがよくわからなくなってくる。好きな本だし、ベインズさんの絵もうれしかったのだけれど、やっぱり日数をかけすぎた。だらだら読みは読書の楽しみを損なうことがわかった。それにしても、今回は、育児奮闘記になっているかも(笑)。

 

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追悼

―― バーバラ・クーニー ――
1冊の美しい絵本のように生きた人

 

 去る3月10日、バーバラ・クーニーが83歳で亡くなった。アメリカを代表する絵本作家の一人として、半世紀以上にわたり膨大な数の名作を世に送った彼女の生涯を振り返ってみたい。

 

【人と作品】

 バーバラ・クーニーは、1917年8月にニューヨーク市のブルックリンで生まれた。株式仲買人を父に、アマチュア画家を母に持った彼女は、母親の影響で、幼いころから絵を描くことを生活の一部にして育った。「風邪をひいて学校に行けない日が大好きでした。一日中絵を描いてすごせましたから」と、のちに彼女は子ども時代を振り返って語っている。大学では美術史を専攻し、ニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグでリトグラフとエッチングを学んだ。

 卒業から1年後の1940年には早くも最初の作品である"Ake and His World"を出版し、41年には文も自分で書いた"King of Wreck Island"を発表、それから60年にも及ぶ絵本作家としての長い道のりを歩みだす。

 第二次世界大戦では、1942年に陸軍婦人部隊に加わり、従軍記者だった作家のガイ・マーチーと出会い結婚、翌43年に除隊して家庭に入る。2児の母となるが、47年に離婚した。49年には内科医のチャールズ・トールボット・ポーターと再婚してマサチューセッツ州ペパレルに移り住み、さらに2児をもうけた。一家が住んだのは、19世紀初めに建てられたニューイングランド風の16部屋もある邸宅で、広い芝生の庭と菜園があり、たくさんの花や木々に囲まれていた。彼女はその家で、4人の子どもを持つ町医者の妻として忙しい日々を送りながらも、精力的に創作を続けた。外出もままならない子育ての時期には、一番手近にあるもの――我が子や身近な動植物――が格好のモデルとなった。

 彼女の名を不動のものにした1959年コールデコット賞受賞作『チャンティクリアときつね』(平野敬一訳/ほるぷ出版/1975)は、そんな生活の中から生まれた。チョーサーの『カンタベリー物語』の中の一寓話を題材にしたこの作品は、徹底した時代考証に基づいて、忠実に14世紀の人々の暮らしぶりを再現したとされ、高い評価を受けた。同時に、主役のモデルにするため友人から借りてきたニワトリをはじめ、彼女の身のまわりにあった動植物が、この作品の中に数多く登場しているという。

 その後、開拓時代の農夫一家の暮らしを叙情豊かに描いた『にぐるまひいて』(ドナルド・ホール文/もきかずこ訳/ほるぷ出版/1980)で、1980年に再度のコールデコット賞を受賞。82年には、自伝的な色合いの濃い『ルピナスさん』(掛川恭子訳/ほるぷ出版/1987)を発表し、全米図書賞を受けた。

 晩年のクーニーは、子ども時代に毎夏訪れた思い出の地、メイン州の海辺の町にアトリエを構え、「100歳まで生きるつもりなの」と、病に倒れるまで絵筆を持ち続けた。60年にわたって描き続けられたその作品の数は、実に110冊以上にものぼる。


 水彩絵の具と色鉛筆、クレヨンなどを好んで用いたクーニーの作品は、柔らかな色使いとどこか懐かしい雰囲気をただよわせている。一見すると、いわゆるナイーブ・アートの画家たちとタッチが似ているが、素朴に見える絵柄の中には、緻密に計算された構図や、何度もスケッチを繰り返し見事に特徴をとらえた対象物が織り込まれている。見るたびに新しい発見をもたらす、奥の深い絵だ。

「私はよく知っているものしか描けないのです」という彼女は、ひとつひとつの絵を仕上げるために丹念に資料を集め、現地へ旅をし、モデルを探しては素描に励む。その不器用なほど一途で誠実な創作への姿勢は、そのまま彼女の作品の魅力となっているようだ。

「世の中を美しくするために」ルピナスの種をまき、花で町を埋め尽くしたミス・ランフィアスのように、絵本という心の種を育て、咲かせ続けた83年の生涯だった。

 

【レビュー】

『おおきななみ―ブルックリン物語』
バーバラ・クーニー作 掛川恭子訳 ほるぷ出版 1991

"Hatty and the Wild Waves"(1990)

 

 ハティーは、ブルックリン生まれの女の子。ドイツから渡ってきて、材木商として成功した父と、音楽家の母を持ち、兄姉とともに何不自由なく育てられた。

 彼女にはひとつの夢があった。それは、兄のように、父の後を継いでもっとお金持ちになることでも、姉のように、毎日美しく着飾って、いつか立派な人と結婚することでもない。ハティーは、絵描きになりたかったのだ。

 輝かしい子供時代はやがて過ぎ、兄や姉はそれぞれの道を歩んでいった。さあ、今度は私の番だ。「身も心も、じぶんのすべてをはきだして絵をかくとき」がやってきたのだ……。


 バーバラ・クーニーの母、メイ・ボザート・クーニーをモデルにして描かれたこの作品は、自らの進むべき道を澄んだ目で見つめ、選び取ったひとりの少女の成長の物語である。それと同時に、今から100年ほど昔のニューヨーク周辺の様子や、実在した裕福な一家の暮らしぶりを生き生きと伝える1冊にもなっている。

 民話や古典の絵本を数多く手がけ、それぞれの作品世界に忠実な挿絵をつけることで定評のあったクーニーは、82年の『ルピナスさん』以降、『ぼくの島』そしてこの『おおきななみ』と、人間の内面に踏み込んだオリジナルの作品で新境地を開いていく。次々に紹介される新作を見るたびに、何歳になっても衰えることを知らなかったその創作意欲に驚かされるばかりである。

(岩佐直美)

 

【その他の主な作品】
1950 "The Man Who Didn't Wash His Dishes"
『おさらをあらわなかったおじさん』
フィリス・クラジラフスキー文 光吉夏弥訳 岩波書店 1978
1953 "Peter's Long Walk"
『ピーターのとおいみち』
リー・キングマン文 三木卓訳 講談社 1972
1954 "The Little Fir Tree"
『ちいさなもみのき』
マーガレット・ワイズ・ブラウン作 かみじょうゆみこ訳 童話館 1993
1961 "The Owl and the Pussy-Cat"
『みみずくとねこのミニー』
エドワード・リア文 くどうゆきお訳 ほるぷ出版 1976
1975 "When the Sky is Like Lace"
『空がレースにみえるとき』
エリノア・ランダーホロウィッツ文  白石かずこ訳 ほるぷ出版 1976
1977 "The Donkey Prince"
『ロバのおうじ』
グリム原作 M・ジーン・クレイグ再話 もきかずこ訳 ほるぷ出版 1979
1980 "How the Hibernators came to Bethlehem"
『どうぶつたちのクリスマス』
ノーマ・ファーバー文 太田愛人訳 佑学社 1981
1992 "Emily"
『エミリー』
マイケル・ビダード文 掛川恭子訳 ほるぷ出版 1993
1994 "Only Opal - The Diary of a Young Girl"
『オーパル ひとりぼっち』
オーパル・ウィットリー原作  ジェイン・ボルタン編 八木田宜子訳 ほるぷ出版 1994
1996 "Eleanor"
『おちびのネル』
掛川恭子訳 ほるぷ出版 1997

 

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●編集後記●

5月5日、上野の国際子ども図書館がいよいよオープンします! とっても楽しみですね。(き)


発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: 林さかな(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: 河まこ キャトル くるり 小湖 Chicoco どんぐり BUN ベス YUU りり ワラビ MOMO つー さかな こべに みーこ きら Rinko SUGO わんちゅく みるか NON
協 力: @nifty 文芸翻訳フォーラム
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