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月刊児童文学翻訳

─2001年10月号(No.34 情報編)─

※こちらは「情報編」です。「書評編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:[email protected]
2001年10月15日発行 配信数 2,330


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎出版社研究
第14回 すえもりブックス

◎コンテスト情報
第8回いたばし国際絵本翻訳大賞

◎展示会情報
群馬県立土屋文明記念文学館「現代少年少女詩・童謡展」ほか

◎セミナー・講演会情報
クレヨンハウス「ゴーリー紙芝居ふう紹介」ほか

◎読者の広場
海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!



出版社研究 第14回

―― すえもりブックス ――

 

 すえもりブックスは、社長の末盛千枝子さんを中心とした総勢3人の小さな出版社。1988年の設立以来、『どうぶつたち・THE ANIMALS』、『オーケストラの105人』、『シェイクスピアとグローブ座』など、大人も子どもも共に楽しめる、芸術性にすぐれた絵本を出版し続けている。代々木八幡神社にほど近い閑静な一画にある同社のオフィスを訪ね、末盛さんにお話をうかがった。

 

■代表作『どうぶつたち・THE ANIMALS』と『橋をかける』をめぐって

『どうぶつたち・THE ANIMALS』表紙

 すえもりブックスの代表作のひとつに『どうぶつたち・THE ANIMALS』(まど・みちお詩/美智子選・訳)がある。左ページにまど・みちお氏の詩、右ページに皇后美智子様の英訳を載せ、安野光雅氏の切り絵を配した珠玉の詩集だ。歌人であり、また詩の英訳の分野でもすぐれた作品を発表している美智子様の英訳は、「まどさんが最初から英語で書いたよう」と評されるほど原詩にぴったり寄り添い、さらに、英訳を読んで初めて詩の意味に気づかされることもあるほど、作品世界に深く踏み込んでいる。「みずからも詩人でなければできない仕事ですが、詩人の感性だけに頼らず厳しい言葉の吟味を繰り返した結果でもあります。たとえば『マメ』という言葉があれば、それがひと粒なのか、ふた粒なのか、あるいはさやに入ったマメなのか、ひとつひとつ作者に確認しながら訳出の作業を進められました」(末盛さん)。1992年に日米同時出版されたこの詩集などに基づいて、まど氏は1994年、国際アンデルセン賞を受賞する。

『橋をかける』表紙

 この受賞がきっかけとなって生まれたのが、もうひとつの代表作『橋をかける 子供時代の読書の思い出』(皇后美智子様著)だ。「動物と人間を同じ目線でとらえるまどさんの詩が、IBBY(国際児童図書評議会)のインド代表の人たちを魅了し、1998年にニューデリーで行われるIBBYの世界大会で、ぜひ訳者の美智子様に基調講演をお願いしたい、という話になったのです」。残念ながら訪印は実現しなかったが、講演はビデオ上映され、出席者に強い感銘を与えた。『橋を〜』にはこの時の英語版の講演と、NHKで放映された日本語版の双方が収録されている。ニューデリーでの講演で時間の都合上削られた部分をすべて元に戻し、細かい注をつけたものだ。美智子様がこれまでに出会った子どもの本への思いが、美しい言葉で率直につづられた講演録である。


■創業の前後

『パシュラル先生』表紙

 すえもりブックスが最初に出版したのは、哲学者のガストン・バシュラールをヒントにした、かわいい老哲学者が主人公の絵本『パシュラル先生』(はらだたけひで作・絵 1989年)だ。末盛さんが編集者としてジー・シー・プレスに勤めていたとき作者から持ち込まれもので、同社では出せなかったため、独立して出版した。

『パパにはともだちが たくさんいた』表紙

 また、同社で1985年に出版し、その後すえもりブックスで版を引き継いだものに『パパにはともだちが たくさんいた』(末盛千枝子作/津尾美智子絵)がある。ある夏の日、「まるで電信柱が倒れるように」突然倒れて帰らぬ人となった末盛さんのご主人を、子どもたちの視点で偲んだ絵本である。 「大人にはお悔やみを言ってくれる人がたくさんいるのに、一番大変な思いをしている子どもたちには何もありませんでしたから」(末盛さん)

 ご主人は、NHKのディレクターだった。絵本では、子どもたちが父のかつての仕事場を訪れ、友人たちの仕事ぶりを眺めながら、父に、そして自分たちの未来に想いをはせる。同じ体験を持たなくても、読んでいるとふっと胸が熱くなる。

「夫の死をきっかけに、多くの人たちが自分の悲しみの体験を話してくれました。だからこの『パパには〜』は、とても個人的だけれど普遍性を持った絵本だと思います」


■出版傾向 〜「人の仕事」は、面白い!〜

『オーケストラの105人』表紙 『ル・コルビュジエ建築家の仕事』表紙

 さて、すえもりブックスの絵本のラインナップを見ると、『オーケストラの105人』(カーラ・カスキン作/マーク・サイモント絵/岩谷時子訳)や『ル・コルビュジエ建築家の仕事』(フランシーヌ・ブッシェ、ミッシェル・コーアン作/ミッシェル・ラビ絵/小野塚昭三郎訳)など、読む者を新たな世界に誘うちょっとユニークな絵本が並んでいることに気づく。「人の仕事」にとても関心があるのだと末盛さんは言う。

『シェイクスピアとグローブ座』表紙

 昨年出版された『シェイクスピアとグローブ座』(アリキ文と絵/小田島雄志訳)も、劇作家シェイクスピアと、グローブ座を再建したサム・ワナメイカーというふたりの仕事を描いた傑作だ。訳者はシェイクスピア翻訳の第一人者、小田島雄志氏。面識はなかったが、あるパーティーで同席する機会を得、とっさに名刺を出して翻訳を依頼した。小田島氏も作品に惚れ込んで、すばやく丁寧に仕上げてくれたという。


■抱えてきた『宿題』

 人間への大いなる関心と共感を持ち続ける末盛さんには、今の世界に対する危機感も強い。それでもこんな時代の児童書のあり方に、ひとつの確信は見出している。20代のころから抱えてきた『宿題』があったからだ。

 結婚前、別の出版社に勤めていたとき、友人から、病で死に瀕している幼いいとこに見せられる絵本はないか、とたずねられた。しかし当時は経験も浅く、返事ができずにいるうちにその子は亡くなってしまった。「それ以来、そういう子に与えるに耐える本とはどんなものだろう、という思いをずっと持ち続けてきました。そして結局、"子どもだからこの程度"という妥協のない本、それに尽きると思ったんです。子どもの感じる力は、大人と同じです。ですから、与え手自身が心から納得のできるものを、作っていくしかないんじゃないでしょうか」

 また、IBBYの友人の話も、末盛さんに児童書の役割を再確認させてくれた。「ヨルダン代表の人が話してくれたのですが、空襲で子どもたちが怯えているとき、気持ちを落ち着かせるために唯一効果があったのが、絵本の読み聞かせだったというのです」

 温かい大人の声で本を読んであげることが、子どもたちには何よりも必要。そして大人が心底大切に思うことを話せば、若い世代にもきっと通じる。そんな思いが、末盛さんの本作りを支えている。

 

【末盛さんから翻訳学習者のみなさんへ】

 絵本や子どもの本だけでなく、あらゆるものを読んでいただきたいですね。例えば昨年話題になった『朗読者』(ベルンハルト・シュリンク作/松永美穂訳/新潮社)は、訳文も読みやすく、内容も「読み聞かせ」を扱っていて、とてもいい作品でした。新聞にも面白い記事はたくさん載っています。色々なものに接してください。

 

■今後の出版予定

 サトクリフなどの翻訳で知られる猪熊葉子氏の、白百合女子大最終講義をまとめた『児童文学最終講義 しあわせな大詰めを求めて』が、まもなく出版の予定。講義中に触れられる数々の児童文学についての注もあり、児童文学入門書としても最適だ。カバーには、著名な彫刻家舟越桂氏の彫刻が使われている。本体2,500円。

 

株式会社すえもりブックス

住所 〒151-0053 東京都渋谷区代々木5-15-10-307
電話 03-3467-3290  FAX 03-3465-2965

(取材・文/内藤文子)

 

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コンテスト/展示会/セミナー・講演会情報

―― コンテスト情報 ――

 

◎第8回いたばし国際絵本翻訳大賞
課 題: 英語部門 "RAIN DANCE" by Cathy Applegate, Dee Huxley (Illustrator)
伊語部門 "ADALGISA e MARGHERITA" by Silvia Camodeca, Alessandra Cimatoribus (Illustrator)
締 切: 平成13年11月16日(金)(当日消印有効)
※テキスト申込・入金は、すでに締め切られています。
詳 細: http://www.city.itabashi.tokyo.jp/TOSYOKAN/

(中野伊都子)

 

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―― 展示会情報 ――

 

◎群馬県立土屋文明記念文学館「現代少年少女詩・童謡展――みんなおいでよポエムの国へ――」
所在地: 群馬県群馬郡群馬町保渡田2000
電 話: 027-373-7721
会 期: 平成13年11月25日まで
休館日: 火曜日
入場料: 一般400円 大学生・高校生250円 中学生以下無料
内 容: 第一線で活躍中の詩人72人、イラストレーター37人が参加する展示会。詩は作家の直筆、また、イラストは今回のために描き下ろしたもの。本誌でもおなじみの中村悦子さん、中釜浩一郎さんの作品もある。
参 考: http://www.bungaku.pref.gunma.jp/
 
◎刈谷市美術館「ハンス・フィッシャー絵本の世界展」
所在地: 愛知県刈谷市住吉町4-5
電 話: 0566-23-1636
会 期: 平成13年11月4日まで
休館日: 月曜日および祝日の翌日
入場料: 一般600円 大学生・高校生400円 中学生・小学生200円
内 容: 『ブレーメンのおんがくたい』や『こねこのぴっち』などの作品で人気のハンス・フィッシャーの展覧会。
参 考: http://www.city.kariya.lg.jp/museum/
 
◎東京国立博物館「美術の中のこどもたち」
所在地: 東京都台東区上野公園13-9
電 話: 03-3822-1111
会 期: 平成13年11月11日まで
休館日: 月曜日
入場料: 一般1000円 大学生・高校生600円 中学生・小学生300円
内 容: 江戸時代以前に制作されたものを中心に、美術・工芸・考古の各分野から、「こども」を表現した作品など、およそ180点を展示。
参 考: http://www.tnm.jp/jp/servlet/Con?pageId=X00&processId=00

(瀬尾友子)

 

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―― セミナー・講演会情報 ――

 

◎群馬県立土屋文明記念文学館 現代少年少女詩・童謡展記念講演会
講 師: 工藤直子(詩人、童話作家)「子どものこころ・詩のこころ」
木暮正夫(児童文学作家)「ポエムの国への道造り」
場 所: 土屋文明記念文学館(群馬県群馬郡群馬町保渡田2000 TEL 027-373-7721)
日 時: 平成13年10月21日(日)14:00〜16:00
入場料: 無料
定 員: 200名(要予約)
申込み: 電話、はがき、または記念文学館カウンターで直接申し込む。先着順。
その他: 現代少年少女詩・童謡展は10/14〜11/25。10/28には童謡音楽会も開催。
詳 細: http://www.bungaku.pref.gunma.jp/
 
◎白百合女子大学児童文化研究センター 21世紀児童文学シンポジウム「こどもの本は、どこへ行く?――絵本・童話・児童文学――」
ゲスト: 第5日目 10月20日(土) ひこ・田中「最新メディアと物語のゆくえ」
第6日目 12月15日(土) 山中恒「こどもの本はどこへ行く?」
場 所: 白百合女子大学(東京都調布市緑ヶ丘1-25)2号館地階 2008講義室
参加費: 無料
定 員: 各回150名(先着順)
問合せ: 児童文化研究センター(TEL 03-3326-7994)
詳 細: http://www.shirayuri.ac.jp/childctr/
 
◎クレヨンハウス 子どもの本の学校「エドワード・ゴーリー紙芝居ふう紹介」
講 師: 柴田元幸(翻訳家)
場 所: クレヨンハウス(東京 港区北青山3-8-15 大阪 吹田市江の木町5-3)
日 時: 東京 平成13年11月10日(土)16:00〜17:30(15:30開場)
大阪 平成13年11月17日(土)16:00〜17:30(15:30開場)
参加費: 非会員 2,500円 会員は無料(年会費に含まれる)
定 員: 150名
内 容: スライドを用いるなどしてエドワード・ゴーリーの絵本を紙芝居風に紹介。
問合せ: クレヨンハウス(東京 03-3406-6492 大阪 06-6330-8071)
その他: 非会員は、当日の朝11時から子どもの本売場にて販売される当日券を購入。会員のみで定員に達した場合は立ち見になることもあり。
 
◎絵本・児童文学研究センター 第6回文化セミナー「児童文化の中の声と語り――童謡とわらべうた――」
講 師: 河合隼雄、阪田寛夫、池田直樹(コーディネーター 谷川俊太郎)
場 所: 小樽市民会館(北海道小樽市花園5-3-1)大ホール
日 時: 平成13年11月11日(日)12:00〜17:00(11:00開場)
会 費: 指定席 6,500円 自由席 5,500円(各500席)
問合せ: 絵本・児童文学研究センター(小樽市長橋3-1-2 TEL 0134-27-0513 e-mail [email protected]
詳 細: http://www.ehon-ej.com/

(中野伊都子)

 

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読者の広場

―― 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ――

 

★いつも「月刊児童文学翻訳」を楽しみにしています。

 こちらイタリアでは、今は丁度季節の変わり目で毎日数時間ずつ雨が降ります。それも大雨や雹が。夏から秋に変わる時と冬から春に変わる時に地中海地方では大雨が1週間から10日ばかり続きます。こちらの人はこの雨が次の季節の花を咲かせると言います(なかなかキレイな言い方ですよね)。それが過ぎるとガラリと季節が変わり、朝起きて窓を開けると空気までも昨日とちがった匂いがします。

 日本もそうですけれど、イタリアでもこれからが食べ物の美味しい季節。果物も野菜も夏の太陽をたくさん吸い込んだものが出まわり、お肉も(ちょっと残酷ですが)、いわゆる野生のものといわれるウサギやシカやキジやイノシシなどが冬に向けて脂がのってくるのでぐっと味も良くなります。それに何と言ってもワイン。今年は夏が暑かったので、ワインの出来も良いそうです。

 と、「月刊児童文学翻訳」のお礼を言おうとメールを書き始めたのに、何故か食べ物の話になってしまいました。あしからず。

(イタリア、ボローニャ市 KiKi)

 

☆KiKiさん、いつもありがとうございます。ウサギもシカもキジもイノシシも、日本ではめったに食べられませんね。それにワイン! うらやましい限りです。ぜひまた季節のお便りをお寄せください。(編集部)

 


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●編集後記●

 今月は「シアトル発 子どもの読書事情」をお届けする予定でしたが、都合により延期となりました。申し訳ありません。またの機会をお楽しみに。(み)


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