メニュー>「月刊児童文学翻訳」>バックナンバー>2001年10月号 オンライン書店
※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
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M E N U
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賞情報1 |
―― 第18回(2001年度)ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)賞発表 ――
ブラティスラヴァ世界絵本原画展(Biennale of Illustrations Bratislava)は、隔年9月〜10月にスロヴァキア共和国のブラティスラヴァで開催される世界最大規模の絵本原画展。絵本の原画を評価するという、世界でも類を見ないユニークな賞という意味合いもある。前回の1999年度には、中辻悦子氏が日本の作家としては32年ぶりにグランプリを受賞。その栄誉を称えて、現在開催中の今年度会場では中辻氏の特別展が開かれている。また、「平和と寛容の本」受賞作品展示会や、絵本画家とその芸術をテーマとした国際シンポジウムなど、多数の企画や催し物が開催される。
今年度の受賞作は、9月3日〜6日の審査委員会で以下の通り決定した。
★第18回(2001年度)ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)賞受賞作
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グランプリ受賞作家の Eric Battut(エリック・バトゥー)は、『いつだってともだち』『ぼくはだあれ?』(いずれも那須田淳訳/講談社)、『あかねこくん』(もきかずこ訳/フレーベル館)などが邦訳されている。金のりんご賞を受賞した日本の高部晴市氏は、馬糞紙に色刷ガリ版という独特の手法を用い、絵本製作のほかに広告の分野などでも活躍。主な作品に与謝野晶子の童話に絵をつけた『きんぎょのおつかい』(架空社)などがある。
(森久里子)
【参考】 ◇「月刊児童文学翻訳 情報編」2001年2月号「世界の児童文学賞」 【情報提供】 |
ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)賞発表 ガーディアン賞発表 『マドレンカ』 "My Brother's Ghost" "Raspberries on the Yangtze" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
賞情報2 |
―― ガーディアン賞発表 ――
今年度ガーディアン賞が、9月29日に発表となった。主催者である日刊紙「ガーディアン」の文芸編集担当者が、「売上やマーケティングに左右されずに作品を評価する“貴重な”賞」と自負する同賞。児童文学作家が審査員という点も特徴のひとつだ。注目の受賞作には、本誌9月号「注目の本(未訳読み物)」コーナーで取り上げた次の作品が選ばれた。
★2001年度ガーディアン賞受賞作 | |
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"Arthur: The Seeing Stone" by Kevin Crossley-Holland (Orion Children's Books) |
アーサー王伝説をモチーフにしながら、これまでにはなかった手法と視点で綴られた「もうひとりのアーサー」の物語。「生涯忘れ得ないような人物たちが描かれた、生き生きした世界」と高い評価を受けての受賞だ。審査員のひとりであるアン・ファインは、「主人公アーサーの感覚を、自分のもののように皮膚で感じられる」と、その豊かな描写を絶賛した。
同作と最後まで受賞を争ったのは、Eva Ibbotson の "Journey to the River Sea"。簡潔かつあざやかな文体で、孤児となった少女が祖国イギリスを離れ、異国で体験した冒険が語られる。「他の年なら文句なしの受賞」と、こちらも高評価だ。
なお、ショートリスト(最終候補作)は、本誌先月号に掲載ずみ。そのうち、"My Brother's Ghost"、"Raspberries on the Yangtzee" については本号、"Witch Child" については先月号の「注目の本(未訳読み物)」コーナーで取り上げているので、ぜひご参照いただきたい。
(森久里子)
【参考】 |
ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)賞発表 ガーディアン賞発表 『マドレンカ』 "My Brother's Ghost" "Raspberries on the Yangtze" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
注目の本(邦訳絵本) |
―― 女の子とぐらぐらの歯、そしてやさしい隣人たち ――
『マドレンカ』 "Madlenka" |
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きょう、マドレンカは歯がぐらぐらするのに気がついた。「近所のみんなにしらせ なくちゃ」と小さなマドレンカはアパートの階段を駆けおりる。
フランス人のガストンさんはパン屋さん。あいさつの言葉は「ボンジュール」
インド人のシンさんは新聞屋さん。「サット スリ アカール」
イタリア人のチャオさんはアイスクリーム屋さん。「ボン ジョールノ」
ラテンアメリカから来たエドワードさんは花屋さん。「オラ」
マドレンカを祝ってくれる人たちの故郷は世界中の国々。みんなは国の言葉であいさつし、歯が抜けることを喜んでくれた。マドレンカは思う、「きょうは人生最高の日だわ!」。
初めて歯が抜けるとき、子供はその痛がゆさと自分の体から自分の一部が離れていくことの不思議さを、周りの人に話して回る。世界の形が変わって見えるほど嬉しくてたまらないし、自分で自分にびっくりしている。マドレンカの気持ちも元気いっぱい踊っていて、読む方も一緒に嬉しくなってくる。
お店屋さんの場面では、画面の真ん中に窓が切り抜かれていて、次のページの一部を覗くことができる。そして次のページはそれぞれの国のお国自慢で埋め尽くされ、シス特有の精緻な筆によるうっとりするような世界が広がっている。どの国も驚くほど他と違っていて、しかもその個性は他の何ものにも代え難くうつくしい。
マドレンカの住む街はニューヨーク。お店の窓の向こうに広がる世界じゅうの国々を大切に思いたい。
(中務秀子)
【作者】Peter Sis(ピーター・シス) 1949年、プラハに生まれる。英国の王立芸術大学卒業。映像作家として出発し、1982年にオリンピック撮影のため渡米するが、東欧諸国が不参加を決めたあと米国に亡命する。その後絵本を描き始め、1996年に"Starry Messenger"(『星の使者』原田勝訳/徳間書店)でコールデコット賞次点を、1998年に "Tibet" でコールデコット賞次点及びボストングローブ・ホーンブック賞特別賞を受賞する。その他、空港の壁画など多彩な仕事を展開する。ニューヨーク在住。邦訳作品は『とおいとおい北の国のちいさなほら話』(松田素子訳/BL出版)など多数。 |
ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)賞発表 ガーディアン賞発表 『マドレンカ』 "My Brother's Ghost" "Raspberries on the Yangtze" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― 逆境の少女を支えたのは兄の幽霊だった ――
『お兄ちゃんのゆうれい』(仮題) "My Brother's Ghost" 80pp. ★ガーディアン賞最終候補作 |
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フランシスが10歳の秋、犬を追いかけて道路に飛び出した兄は、馬車にひかれて死んでしまう。口から血を流し、脚を震わせて息絶える兄を、幼い弟の手を握り締めて見守る少女……。ショッキングな書き出しで始まる本書は、主人公フランシスが少女時代を語る回想録だ。葬式から5年間、兄はフランシスと弟だけに見える幽霊となった。
両親の死後、3人はおじとおばに育てられていた。おばはヒステリックにフランシスに当たり、学校では級友も彼女をいじめる。おまけにフランシスは小児まひの後遺症で片足が不自由だ。1歳年上の優しい兄だけが頼りだった。そんな兄は、死後も幽霊となり、フランシスが学校へ行くのについてきてくれたり、弟を夜中にトイレへ連れて行っておねしょを直したりして弟妹を支え続ける。
しかし、幽霊は幽霊。体の輪郭はぼやけ、声は回転数を落としたレコードのよう。こちらの言うことが聞こえるのか聞こえないのか、会話はちぐはぐになる。フランシスにとって兄の幽霊の存在は心強いが、やはり生きた人間との違いを感じて寂しい。そんなある日、おじとおばがカナダへの移民を計画し、孤児院に預けられるのを恐れたフランシスは、弟と家出を決行する……。
兄の幽霊は、思いもしない場所に現れたり消えたりすることに自分でも戸惑い、さわれない愛犬に必死でさわろうとする。幽霊であることを懸命に受け止めようとするのが泣かせる。加えて、作り話を感じさせない著者の語り口、表現力は、読者を引き込まずにはおかない。
苦難にめげない主人公のひたむきさが心を打つ。幽霊は実在しないかもしれない。これは、子供が強く生きるために作り出した幻影なのかもしれない。幽霊が現れなくなったとき、子供は大人への扉を開き、自分で幸せをつかむのだ。
(舩江かおり)
【作者】Allan Ahlberg(アラン・アールバーグ) 1938年、英国生まれ。10年間の小学校教師生活を経て、児童文学を書き始める。妻のジャネットが絵を担当した作品のうち、"Each Peach Pear Plum"(『もものきなしのきプラムのき』佐藤凉子訳/評論社)が1978年、"The Jolly Christmas Postman"(『ゆかいなゆうびんやさんのクリスマス』佐野洋子訳/文化出版局)が1991年のグリーナウェイ賞を受賞している。 |
【参考】◇作者インタビュー記事
ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)賞発表 ガーディアン賞発表 『マドレンカ』 "My Brother's Ghost" "Raspberries on the Yangtze" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― 想像の世界から現実の世界へ ――
『揚子江を越えて』(仮題) "Raspberries on the Yangtze" 147pp. ★ガーディアン賞最終候補作 |
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タイトルに "Yangtze"(揚子江)とあるが、この物語の舞台は中国ではなく、カナダの田舎の町。〈揚子江〉とは、小学生のナンシーが、お気に入りの金網の柵につけた名前だ。
ナンシーは、森のなかを探検したりするなど冒険ごっこをして、想像の世界で遊ぶのが好きだった。なかでも、一番の楽しみは、〈揚子江〉を越えること。ラズベリーの茂みへとつづくその金網を、キーキーと音をたてながら越えると、遠い異国の川を渡っているかのような気分になれた。
ある日、ナンシーは、友だちに現実の世界を冒険しようと誘われた。床下に忍びこんで、家のなかで話していることを聞くナンシーたち。そこで、思いもかけず、親友の母親の秘密を耳にする。その後、ナンシーが秘密の一部をぽろりと口にしたことから、親友との関係がぎくしゃくしてしまう。兄に、おまえが悪いんだ、と言われ、いつもはめげずにトラブルを切り抜けるナンシーも、さすがに落ち込む。そんなとき、親友の家が火事になる。が、親友も、その家族も、なぜかとても嬉しそうな様子だった。
主人公ナンシーのユーモアあふれる語りで、まわりの大人や子どもたちの様子が生き生きと描かれている。性の問題に疑問を持つ子ども、それを隠そうとする大人、といったよくありがちな描写も、お茶目なナンシーの手により面白おかしく感じられる。友だちの姉のキスシーンを目にするなど、ナンシーは映画のなかでしか知らなかった大人の世界を垣間見る。想像ばかりの世界にいた彼女も、その夏の出来事によって、現実の世界へ一歩踏みだしていったことだろう。
作者はこの作品を書くにあたって、子ども時代の記憶に着想を得たという。自身をナンシーに投影させて、物語のなかをともに遊びまわったのではないだろうか。全体を通して、子どもに対する作者の暖かいまなざしが伝わってきた。
ページを繰りながら、子ども時代に親しんだ想像の世界を思い出し、読後、快い懐かしさを覚えた。
(吉村有加)
【作者】Karen Wallace(カレン・ウォレス) カナダのケベック州に生まれ、幼少期を過ごした後、英国に移り住む。フランス、カナダなどを転々とし、現在は英国在住。1990年から、子ども向けの本を執筆しはじめ、テレビの子ども番組の脚本も手がける。邦訳に、『ウナギのひみつ』(百々佑利子訳/岩波書店)がある。 |
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Chicocoの親ばか絵本日誌 第14回 | よしいちよこ |
―― 「すべてを許せる日」 ――
0〜1歳児のころに比べて、しゅんはずいぶん体が丈夫になりました。「免疫がついてきたんだな」と思っていましたが、2歳7か月になる直前、久しぶりに高熱を出し、嘔吐を繰り返しました。腸炎だと診断され、1時間の点滴を受け、絶食。子どもの体調は態度にそのまま現れます。しゅんは歩こうとせず、ただ横になりたがりました。いつもの反抗的な言葉はどこへやら、「ねんねする。もうすぐなおるね」「だいじょうぶ。へいきさ」なんてことをいうのです。きのうまでの腹のたつことなど全部許して、わたしはできるだけ傍にいようと思いました。
しゅんが眠りたいのに寝つけないようなので、長めの絵本を読むことにしました。『うちのペットはドラゴン』(マーガレット・マーヒー文/ヘレン・オクセンバリー絵/こやまなおこ訳/徳間書店)はケイト・グリーナウェイ賞受賞作。ある朝、お母さんが、お父さんに息子オーランドのペットを買ってきてと頼みました。ペットショップでお父さんが選んだのはとても小さなドラゴン。オーランドはドラゴンを飼いはじめますが、ドラゴンはどんどん大きくなって、やがて火をはく始末。市長に処分するよう命令され悩むオーランドたちに、ドラゴンがはじめて声をかけました。
もう1冊は『トロールのばけものどり』(イングリ・ドーレアとエドガー・ドーレア作/いつじあけみ訳/福音館書店)。ある夏の夕方、薪をとってくるようにいわれた子どもたちは、森の高い木の上に巨大な鳥を見つけました。鳥はどうやら荷車を引く馬をねらっているようす。逃げ帰る子どもたちを追って来た鳥を見て、お母さんが「お山のトロールの飼っているトロール鳥」だと教えてくれました。子どもたちは大奮闘して、トロール鳥を倒します。
しゅんは、いつも「これよんで。ちょっとこわいけど」といって、この2冊をもってきます。少し刺激的な話にどきどきしながら、「ドラゴン、おはな、ふんってしてる!」や「トロルどり、うしろ、いるよ!」など声をあげます。ところが、きょうは横になったままで、ほとんど瞬きをせず、黙って話を聞いていました。「やめる?」ときくと、「よんで」といいます。この2冊だけではまだ眠れないようなので、もっと長いお話『プーのはちみつとり(クマのプーさんえほん1)』(A・A・ミルン文/E・H・シェパード絵/石井桃子訳/岩波書店)を読みました。絵が少ないのに、しゅんは最後まで聞いて、ようやく眠りました。翌日には熱も吐き気もおさまり、元気になりました。元気になるとプーさんの本を最後まで聞いていられなくなりました。
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●お知らせ●
本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。どうぞご活用ください。こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
●編集後記●
ニューヨークに住む、ピーター・シス。次の作品はどのようなものになるのでしょうか。マドレンカの幸せを祈ります。(き)
▲▽増刊号発行のお知らせ▽▲
「月刊児童文学翻訳」情報編・書評編にくわえて、特別企画編として増刊号を年4回の予定で発行する運びとなりました。増刊号では、作家特集や季節にあった本の紹介などを行います。以前から取り上げてきたテーマではありますが、毎号替わる編集人のカラーを出した誌面をお届けできると思います。増刊号第1号は「ヴァージニア・E・ウルフ特集号」(10月下旬発行予定)です。どうぞ、ご期待ください。
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