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月刊児童文学翻訳

─2006年7月号(No. 81)─

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版+書店街>
http://www.yamaneko.org/
編集部:mgzn@yamaneko.org
2006年7月15日発行 配信数 2365

もくじ

 ◎賞情報:速報! 2005年度カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表
 ◎注目の本(邦訳絵本):『おとうとは 青がすき ――アフリカの色のお話――』
                      イフェオマ・オニェフル文・写真/さくまゆみこ訳
 ◎注目の本(邦訳読み物):『ミシシッピがくれたもの』
                      リチャード・ペック作/斎藤倫子訳
 ◎注目の本(未訳絵本):"Jinnie Ghost"
                      バーリー・ドハティ文/ジェーン・レイ絵
 ◎注目の本(未訳読み物):"Clay" デイヴィッド・アーモンド作
 ◎世界の本棚(スペイン):"La escuela de los piratas"
                      アグスティン・フェルナンデス・パス作
 ◎賞速報
 ◎イベント速報
 ◎お菓子の旅:第36回 暑い日はひんやり甘いデザートを 〜チョコレートムース〜
 ◎読者の広場:海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!

●このページでは、書店名をクリックすると、各オンライン書店で詳しい情報を見たり、本を購入したりできます。

 

●賞情報●速報! 2005年度カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表

 イギリスで最も権威ある児童文学賞、カーネギー賞、およびケイト・グリーナウェイ賞が、7月7日に発表された。受賞作は以下の通り。今回も特別推薦作品(Highly Commended)と推薦作品(Commended)は選ばれなかった。
 カーネギー賞は、今年初めてショートリストに選ばれた Mal Peet が、受賞経験者4人をしのいで受賞した。受賞作の "Tamar" は、第二次世界大戦末期に、オランダでナチスに対する抵抗運動に従事した祖父の秘密を探る孫娘の物語。Peet にとっては2作目の児童文学作品となる。
 ケイト・グリーナウェイ賞を受賞した Emily Gravett は、1972年生まれの新鋭。受賞作の "Wolves" は、図書館から借りてきた本で、天敵オオカミの生態を研究するウサギの話。さまざまな仕掛けが施された、楽しい作品だ。Gravett にとってはデビュー作だが、2005年ネスレ子どもの本賞5歳以下銅賞を受賞しており、英国以外でもすでに5か国で出版が決まっているという。


【カーネギー賞候補作】

Carnegie Medal 2005

★Winner
  "Tamar" Mal Peet (Walker Books)

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【ケイト・グリーナウェイ賞】(画家対象)

Kate Greenaway Medal 2005

★Winner
  "Wolves" Emily Gravett (Macmillan)

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(笹山裕子)

【参考】
▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞サイト
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について
               (本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト
                        (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm

▽候補作一覧(本誌2006年5月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2006/05.htm#prize1

▽"Wolves" のレビュー(本誌2005年12月号「注目の本」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2005/12.htm#mehon1


※編集部より
 当クラブでは、読書室掲示板にて「カーネギー賞&ケイト・グリーナウェイ賞候補作を読もう会」を開催中です。
http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=dokusho

 

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●注目の本(邦訳絵本)●

―― わたしの好きな色、あなたの好きな色 ――

『おとうとは 青がすき ――アフリカの色のお話――』
イフェオマ・オニェフル文・写真/さくまゆみこ訳

偕成社 定価1,260円(税込) 2006.06 19ページ ISBN 4033285407
"Chidi Only Likes Blue: An African Book of Colours" by Ifeoma Onyefulu
Frances Lincoln Limited, 1997

 これは美しい写真絵本! 表紙には2人の姉弟がいる。姉は、きれいな布をパッチワークしたワンピースを着て、はにかむような笑顔を見せ、その横にいる弟が誇らしげにきれいなお姉ちゃんを見上げている。
 姉の名前はンネカ。弟の名前はチディ。チディはいつも青がいちばん好きな色と言う。「だって、空も青いし、ぼくのよそゆきも青いんだもん」。もしかして、他の色の名前を知らないのかしらと、おかあさんが心配するので、それなら教えてあげようと、姉のンネカがさまざまな色を言葉と写真で紹介することにした。チディとおかあさんはそっと耳をすます。
 ンネカは、自分たちの生活にひきつけて色を説明する。「赤」であれば、赤い帽子は大おじさんが儀式や会合など、大事な時にかぶるものだという話をし、大おじさんの帽子姿を見せてくれる。どの語り口からも家族や親戚の愛情や誇りが感じられ、読んでいてとても心地よい。「白」の紹介もいい。「おとなは、白いチョークをつかってねがいごとをします。ながいきできるように、とか、子どもがしあわせになるように、とねがうのです。」ンネカの話にぴったり寄り添った写真は、「色」を生き生きとひきたたせている。
 わが家の子どもたちに読んでみると、この「白」のページでは「何をねがいごとしているのかな」と興味を示し、自分たちの好きな色のページはうれしそうに聞いていた。4歳の末娘はピンク色が大好きなので、この絵本でも「ピンク」のページはことさら大事に聞き、「これ、わたしの好きな色とおんなじ!」と声をあげた。 作者のオニェフルさんは、自分の生まれ育ったアフリカをたくさんの子どもたちに紹介したいと、現在住んでいる英国から、何度もナイジェリアを訪れては写真を撮り、作品をつくり続けているそうだ。
 さて、お姉ちゃんからたくさんの色を教えてもらったチディ。いちばん好きな色をもう一度聞かれ、何て答えただろう? ンネカが表紙で着ていたワンピースの由来も最後にわかるのだが、これもぜひ読んで知ってほしい。

(林さかな)


【文・写真】イフェオマ・オニェフル(Ifeoma Onyefulu)

ナイジェリア東部生まれ。通信社において、カメラマンや通信員の仕事をしながら、アフリカの生活、文化などを紹介する写真絵本を製作している。主な作品に『AはアフリカのA』『おばあちゃんにおみやげを』(いずれも、さくまゆみこ訳/偕成社)など。英国在住。

【訳】さくま ゆみこ

東京生まれ。出版社勤務を経て、翻訳家、編集者、そしてアフリカ文学研究者として多方面にて活躍。主な著書に『子どもを本好きにする50の方法』(柏書房)など。主な訳書には『あかちゃんのゆりかご』(レベッカ・ボンド作/偕成社)、「クロニクル千古の闇」シリーズ(ミシェル・ペイヴァー作/評論社)、『ぼくはマサイ』(ジョゼフ・レマソライ・レクトン著/さ・え・ら書房)など。

【参考】
▼さくまゆみこさん公式ウェブサイト
http://members.jcom.home.ne.jp/baobab-star/

▽本誌2000年5月号情報編「プロに訊く!」
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ysakuma.htm
 

『おとうとは 青がすき』の情報をオンライン書店でみる

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●注目の本(邦訳読み物)●

―― 南北戦争のころから今へと流れる川 ――

『ミシシッピがくれたもの』
リチャード・ペック作/斎藤倫子訳

東京創元社 定価1,785円(税込) 2006.04 238ページ ISBN 4488019439
"The River Between Us" by Richard Peck
Dial Books, 2003

★2003年全米図書賞最終候補作品
★2004年スコット・オデール賞受賞作品

 1916年、15歳の少年だった「私」は、父や弟たちと父の生まれ故郷をはじめて訪れた。川を見下ろす丘に立つ家で出迎えてくれたのは、祖父母、それに大おじと大おばの4人。1週間の滞在中、祖母のティリーは孫の「私」に、自分が15歳のころの話を聞かせてくれた――読者は「私」と共に、時間という川の流れをさかのぼっていく。
 1861年4月、イリノイ州ミシシッピ川沿いの小さな町グランドタワーにも、南北戦争の影が押し寄せていた。ティリーの双子のきょうだいノアが北軍の兵士に志願するのではないかと心配する家族の前に、謎めいた2人の若い女性が現れる。裕福な家の娘らしい大仰な振る舞いのデルフィーンと、肌の色の濃いカリンダ。2人はニューオーリンズからの船旅の途中だったが、戦争の影響でやむを得ずグランドタワーに下船し、ティリーの家に間借りをすることになった。自信にあふれるデルフィーンの影響を受けて、ティリーの家族の生活や考え方は変わっていく。そして9月のある夜、ノアは家族に黙って戦争に行ってしまった。
 作者ペックは、南北戦争のころに生きた普通の人々の暮らしを、15歳の少女を通してまざまざとよみがえらせた。服装や日用品、小さな町の中のせめぎあい、移り変わる川の表情、誰もが楽しみにしていたショーボートの興奮、妹キャスの見る幽霊や幻など、どれも興味深く印象的だ。その中でも、私は野営地の様子に強い衝撃を受けた。ひどい衛生状態の中、麻疹や赤痢にかかって横たわる若い兵士たち。負傷して腕や足を切り落とされる者も後を絶たない。ノアを連れ戻すために野営地を訪れたティリーとデルフィーンは、何があっても死なせないという強い気持ちで兵士たちの看病を続けるのだった。また、ニューオーリンズでの複雑な黒人社会についても垣間見ることができる。はじめて知るその事実に、私は驚き戸惑った。歴史に名を残した司令官の影に隠れた数多くの普通の人々や、広く知られることなく姿を消していった人々――物語を通してそんな人たちに出会うことで、歴史が単なる知識としてではなく生き生きと脈動するものとして私の中に残り、これからの糧になってくれることだろう。
 1916年当時の「私」は、1861年当時の祖父母たちの話を聞き、はじめて、父が、そして自分自身が何者なのかを知ることとなる。少年が大人になる瞬間だった。そして、その感動は、今を生きる私たち読者の元にまで確かに伝わってくる。川でつながっている――私は、そのことをとても喜ばしく思った。

(植村わらび)


【作】リチャード・ペック(Richard Peck)

1934年、米国イリノイ州生まれ。英国エクセター大学を卒業、中学で英語を教えたのちに作家の道に進んだ。1990年にはヤングアダルト文学に最も貢献した作者に与えられる Margaret E. Edwards 賞を受賞。2001年には児童文学者としてはじめて米国人文科学勲章を授与された。

【訳】斎藤倫子(さいとう みちこ)

1954年生まれ。国際基督教大学卒。『シカゴよりこわい町』『シカゴより好きな町』(共にリチャード・ペック作/東京創元社)の翻訳を通してペックの魅力を日本に紹介した。他に『赤いカヌーにのって』(ベラ・B・ウィリアムズ作/あすなろ書房)などの訳書がある。東京都在住。

【参考】
▼リチャード・ペックの公式ウェブサイト
http://www.richardpeck.smartwriters.com/

▽リチャード・ペック邦訳作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/p/rpeck.htm
 

『ミシシッピがくれたもの』の情報をオンライン書店でみる

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●注目の本(未訳絵本)●

―― 今宵、夢の運び屋があなたのもとへ向かう ――

『ジニー・ゴースト』(仮題)
 バーリー・ドハティ文/ジェーン・レイ絵
"Jinnie Ghost" text by Berlie Doherty, illustrations by Jane Ray
Frances Lincoln Children's Books, 2005 ISBN 1845072928
40pp.

★2005年度ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト作品

 満月の夜、月明かりに照らし出された家々が、ビロードのようになめらかな影を落とす。すると、ふくろうの羽のような白い髪を風になびかせながら、ジニー・ゴーストはやって来る。街がすっかり寝静まると、子ども部屋を訪ねていっては、すてきな夢をプレゼントする。そして夜が明けるころ、雪がとけてなくなるように、ジニーはどこかへいってしまうのだ……。
 子どものころ、楽しい夢を見た次の日は、心が穏やかで、不思議と体の中から元気がわいてくるような感じがしたものだ。この幸せな充足感こそ、子どもにとって生きていることを強く実感させてくれるものではなかっただろうか。そう思い出させてくれたのが本作品である。ジニーが届ける夢は楽しくて胸躍る、不思議に満ちたものばかりだ。ページをめくっているうちに、そうだったらいいのにな、と無邪気に思っていた子どものころの夢の世界を、いつしか旅している自分に気づく。ジニーはいわば、われわれの持つ想像力そのもの、自由な心そのものを具現化した存在といえよう。半透明のジニー・ゴーストは怖い幽霊ではなく、むしろ妖精に近い存在で、静かな夜に夢を運んでくる「幻」なのだ。朝の訪れと共に消えゆく、はかない夜の幻だからこそ、両手でそっと包みたくなる。そんなもろさに対する執着が、夢へのいとしさをいっそう募らせるのだろう。
 作品の持つ雰囲気は、どこかノスタルジックで幻想的だ。そっと耳元でささやかれるようなドハティの語りには、夢の世界へと自然にいざなわれる不思議な心地よさがある。レイの細やかな筆遣いの精密な絵は、どれも見開きで1枚の大きな絵になっていて見ごたえがある。そして、温もりのある落ち着いた色使いの中にも、華やかさと透明感があり、気品が漂う。いたるところに星がちりばめられているのが、とても印象的で、いつまでも見入ってしまうほど美しく、贅沢に感じる1冊だ。読後は夢から覚めたときの気だるいような感覚にとらわれる。ただただ純粋に、幸せを感じる心を大切にしたいと思う。世の子どもたちも想像力の翼を広げて、希望に満ちた毎日を送れるよう願うばかりだ。

(吉井一美)


 

【文】Berlie Doherty(バーリー・ドハティ)

1943年、英国リバプール生まれ。ダラム大学、リバプール大学、シェフィールド大学で学ぶ。1986年に "Granny Was a Buffer Girl"(『シェフィールドを発つ日』中川千尋訳/福武書店、現ベネッセ)で、 1991年に "Dear Nobody"(『ディア ノーバディ』中川千尋訳/新潮社)でカーネギー賞を受賞。現在も精力的に執筆を続けている。

【絵】Jane Ray(ジェーン・レイ)

1960年、英国ロンドン生まれ。ミドルセックス大学で美術とデザインを専攻。主に陶芸を研究し、卒業後にイラストに専念する。ドハティと組んだ作品には『フェアリーテイル 絵巻物語』(神戸万知訳/原書房)もある。他に『遠くからみると』(ジュリー・ゴールド文/小島希里訳/BL出版)や、文章も手がけた『クリスマスのおはなし』(奥泉光訳/徳間書店)などがある。

【参考】
▼ジェーン・レイの公式ウェブサイト
http://www.janeray.com/

▼ケイト・グリーナウェイ賞公式ウェブサイト
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/press/pres_green_nom_0506.html

▽バーリー・ドハティ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/author/d/bdoherty.htm

▽ケイト・グリーナウェイ賞候補作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/greesl.htm
 

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●注目の本(未訳読み物)●

―― 創造が生みだす生命の物語とは? ――

『クレイ』(仮題)
 デイヴィッド・アーモンド作
"Clay" by David Almond
Hodder Children's Books, 2005 ISBN 0340773855
296pp.

★2005年度カーネギー賞ショートリスト作品

 舞台は、1960年代のイングランド北部の町。デイヴィーは、町に引っ越してきたスティーヴンと知り合う。彼は、人々のあいだでさまざまな噂がたつ、謎に満ちた少年だった。デイヴィーは、スティーヴンが粘土でつくった使徒の像を目にし、まるで生きているかのような見事なできばえに驚嘆する。あるとき、いつも暴力をふるってくる少年たちに襲われそうになったデイヴィーを、スティーヴンがナイフで威嚇してたすけた。それがきっかけで、デイヴィーはたびたびスティーヴンの家を訪れるようになった。そして、スティーヴンから、いっしょに像をつくろうと誘われる。ふたりで力をあわせれば、そしてミサで授かったパンと葡萄酒があれば、像に命をふきこむことができるというのだ。デイヴィーは半信半疑ながらも、誘いに応じる。その晩、ふたりは洞穴で、大昔の聖職者のように体にシーツをまきつけ、粘土で像をつくった。「動け」と、くりかえし唱えつづけるが、何も起こらない。やがて、スティーヴンは話しだした。父が亡くなったときのこと、母が精神を病んでいること、聖職者になるために寄宿学校に入り数年後に放校されたこと……。再びふたりで「動け」と唱えはじめると、ついに像が動きだした。
 読んでいるとちゅう何度もこわくなった。デイヴィーと等身大の像が動くさまや、ある事件のくだりはあまりにもリアルで、背筋が寒くなってしまった。スティーヴンが抱えている秘密は何なのか、生命の宿った像はどうなるのか。恐怖のなかにも作者独特の神秘的な雰囲気を感じつつ、物語の世界に惹きつけられずにはいられなかった。
 本作の重要なテーマは、善と悪だ。純真なデイヴィーは、作中、悪や人間の罪について思い悩む。その対極で、デイヴィーが尊敬するカトリック教会の神父の存在や、あくまでも心あたたかい父母の存在が光る。
「創造の究極の形は命」。昨年、作者が来日した際に講演会で語ったこのことばは印象的だった。デイヴィーたちが像をつくった行為も、神が人間をつくったことになぞらえているといえよう。「なぜモンスターのような人間をつくってしまったのかと神は嘆いている」とのスティーヴンのせりふが胸にずしんとつきささった。深く深く、心にせまってくる物語だ。

(早川有加)


 

【作】David Almond(デイヴィッド・アーモンド)

1951年、英国ニューキャッスル・アポン・タイン生まれ。第1作 "Skellig"(『肩胛骨は翼のなごり』山田順子訳/東京創元社)で、カーネギー賞、ウィットブレッド賞を受賞。"The Fire-eaters"(『火を喰う者たち』金原瑞人訳/河出書房新社)で、ウィットブレッド賞、ボストングローブ・ホーンブック賞、スマーティーズ賞を受賞した。

【参考】
▽デイヴィッド・アーモンド作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/a/dalmnd.htm
 

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●世界の本棚(スペイン)●

―― 先生とクラスメートが海賊になったら!? ――

『小学校は海賊船』(仮題)
 アグスティン・フェルナンデス・パス作
"La escuela de los piratas" translated by Maria Xesus Fernandez Fernandez
原題:"La escola dos piratas" by Agustin Fernandez Paz
Edebe, 2005 ISBN 84236732511(Spain)
159pp.
※このレビューはスペイン語の翻訳版を基に書かれており、原作はガリシア語です。

 本誌2006年3月号で特集記事として掲載した「世界の本棚から」は、今月から新コーナー「世界の本棚」として不定期に連載を開始いたします。英語以外の言語の児童文学に興味があるやまねこ会員による未訳書のレビューを、どうぞお楽しみに!

 
*************************************************************************

 マルタは想像力豊かな小学4年生の女の子。毎日雨が降り続き、外で遊べなくても、「町が水浸しになったら、車の代わりに船を使おう。まるでベネチアの町みたいに」と空想して楽しんでいる。休み時間に友達や担任のアナ先生とそんな話をしていると、突然大きな音がして学校が動き始めた。窓から外を見てみると、なんと増水した川に校舎が流されている!
 学校は流れたり止まったりしながらどんどん下流へ。やがて海辺に着き、砂浜で動きを止めた。外はすでに暗く生徒も先生もみな無事だったので、一同は教室で休むことになった。しかし目が覚めると、学校は船のように海の上に。満潮のとき、ふたたび流されてしまったようだ。マルタとアナ先生が驚いていると、前の日はこの非常事態におびえていた、隣のクラスのダミアン先生と生徒たちが海賊の扮装で現れる。先生がキャプテン・キッドだと宣言すると生徒たちは大喜び。「万歳! 海賊の学校!」とおたけびが上がった。
「学校とは勉強をするところ」と、校長先生たちからいつも口うるさく言われる中で、突然起きた不思議な出来事を生徒たちが喜ぶ気持ちは、私にもよく分かった。なにせ海賊の学校はとても魅力的なのだ。難しく退屈なだけの授業はなく、キャプテン・キッドのもとで生徒たちは団結し、食料不足の問題を乗りきる。その生き生きとした表情や行動の描写に、本から子どもたちの歓声が聞こえてくるようだった。アナ先生の「めったにない機会だから、楽しんでみては?」のせりふに、とても共感できた。先生や仲間たちとすてきな冒険ができれば、学校はいっそう楽しいところになるはずだから。
 そういえば私も子どものころ、学校がロケットになって仲良しの友達と宇宙に行けたら楽しいのに、と空想したことがある。そんな思い出が物語になったような気がして、とても嬉しくなった。きっとこれからは、大雨が降るとこの本を思い出して、大海原を想像するだろう。

(井原美穂)


 

【作】Agustin Fernandez Paz(アグスティン・フェルナンデス・パス)

1947年スペイン、ルーゴ出身。さまざまな教育機関でガリシア語の教師として勤めながら、児童書を多数執筆する。1990年に "Contos por palabras"(未訳)でラサリーリョ賞(作家部門)を受賞。本作は2005年、エデベ賞(下記概要を参照)の児童書部門を受賞した。

【参考】
▼アグスティン・フェルナンデス・パスの経歴、著作などを紹介するウェブサイト(スペイン語)
http://www.filix.org/ranholas/agustin_es.html

▼アグスティン・フェルナンデス・パスのインタビュー記事(スペイン語)
http://www.prensajuvenil.org/foro/05/pdf/aventuras/entrevista.pdf

▼エデベ賞公式ウェブサイト(スペイン語)
http://www.edebe.com/web3/premios/premios.asp
 

【エデベ賞について】
 出版社のエデベ社が1993年に創設。スペイン国内で公用とされている言語(スペイン語、カタルーニャ語、ガリシア語、バスク語)で書かれた未出版の読み物が対象となる。応募に出版経験や国籍を問わないが、受賞経験者は同じ部門に再度の応募ができず、またエデベ社の関係者も応募は不可。7歳から12歳までの年齢を対象とした児童書部門と、12歳以上を対象にしたジュブナイル部門の2種類がある。受賞作品は同社から出版される。
 2006年の受賞作は1月に発表され、児童書部門は Angeles Gonzalez-Sinde の "Rosanda y el arte de birlibirloque" が、ジュブナイル部門は Jordi Sierra iFabra の "Llamando a las puertas del cielo" が、それぞれ選ばれた。

【特殊文字】
 「Maria Xesus Fernandez Fernandez」:「Maria」の「i」の上、「Xesus」の「u」の上、「Fernandez」の「a」の上にアクセント記号(')がつく
 「Agustin Fernandez Paz」:「Fernandez」の「a」の上にアクセント記号(')がつく
 「Edebe」:最後の「e」の上にアクセント記号(')がつく
 「Angeles Gonzalez-Sinde」:「Angeles」の「A」の上、「Gonzalez」の「a」の上にアクセント記号(')がつく。

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●賞速報●

★2006年ローカス賞(ヤングアダルト小説部門)発表
★2006年ブランフォード・ボウズ賞発表

海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」をご覧ください。

 

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●イベント速報●

★展示会情報

安曇野ちひろ美術館「ちひろ・絵のなかの音」
うらわ美術館「ウィルコンさんの動物ファンタジー」など
 

★セミナー・講演会情報

朝日カルチャーセンター新宿教室「日本の物語 世界の物語」など
 

★イベント情報

思文閣美術館「『赤毛のアン』の世界」
板橋区立美術館「2006イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」など
 
 
 詳細やその他の展示会・セミナー・講演会情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、空席状況については各自ご確認願います。

(井原美穂/笹山裕子)



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●お菓子の旅●第36回 暑い日はひんやり甘いデザートを
〜チョコレートムース〜

"The cake had turned to scattered crumbs, no cream was to be seen,
And nothing now remained where once the Chocolate Mousse had been."

by Graeme Base
         "The Eleventh Hour: A Curious Mystery" Penguin Books Australia(1993)
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 引用文は、オーストラリアの人気絵本作家グレアム・ベースの "The Eleventh Hour" から。11歳になったお祝いに盛大な誕生日パーティーを開こうと、ぞうのホーラスはケーキやお菓子の数々を手作りします。当日、凝った仮装でやって来た招待客の動物たちは、豪華な食べ物を見て感嘆のまなざし。でも約束の The Eleventh Hour(11時)までは我慢して、みんなでゲームやスポーツに興じます。やっと時間になってダイニングホールへ行ってみると、なんとお菓子はひとつ残らず食べられてしまったあと! いったい誰のしわざ? 「土壇場」という意味もあるタイトルには、何やらわけがありそう。ダイナミックな動物たちが生き生きと描かれた絵の中には、犯人探しのヒントが巧みに隠されていて、つい時間を忘れて見入ってしまいます。
 今回はホーラスが作ったお菓子のひとつ、チョコレートムースのご紹介です。ムースと聞くとデザートを思いがちですが、本来は、なめらかにした素材(野菜や果物のピューレ、魚のすり身など)に生クリームや卵白を合わせて型に入れ、固める調理法を指します。18世紀にはフランスでムース料理のレシピが紹介されていますが、デザートとしては、19世紀に入ってからフランス人菓子職人によって提案されたのが最初のようです。フランス語で「泡」という名のとおり、ムースはふんわりと軽い口当たりが特徴です。ここでご紹介するレシピは、チョコレートと卵だけで作れる簡単なものなので、ぜひ一度お試しを。ひんやり甘いムースは、夏の疲れをやさしく癒やしてくれるかも。
 

*-* チョコレートムースの作り方 *-*

画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)

材料:(グラスやカップなどの容器に6〜8個分)

  • チョコレート 125g
  • 卵黄 4個
  • 卵白 4個分
  • 生クリーム(飾り用) 適宜
  • いちご(飾り用) 適宜
  1. チョコレートを刻み、ボウルに入れて湯せんにかけ、なめらかになるまで溶かす。
  2. 別のボウルに卵黄を割り入れて溶き、1で溶かしたチョコレートに少しずつ加えながら混ぜる。
  3. 卵白をかなり硬く角が立つまで泡立て、2のボウルに3回に分けて加え、手早くさっくりと混ぜる。
  4. 盛り付け用の容器に3を流し入れ、冷蔵庫で最低4、5時間冷やし固める。
  5. 泡立てた生クリームといちごを飾る。

★参考文献・ウェブサイト
"The Penguin Companion to Food" by Alan Davidson, Penguin Books
"Home Food" Murdoch Books
フリー百科事典ウィキペディア http://ja.wikipedia.org/wiki/

「やまねこ翻訳クラブお菓子掲示板」

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●編集後記●

準レギュラーに仲間入りした『世界の本棚』。大きく育つように頑張るぞ! 8月はお休みとなります。みなさま、楽しい夏休みを! ところで、今月は怖い読み物にゴーストの絵本、と後から気付く。もしかして見えない力が……。(お)

発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: 笹山裕子(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 大原慈省/竹内みどり/横山和江(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: 赤間美和子 井原美穂 植村わらび 鎌田裕子 笹山裕子 早川有加 林さかな 冬木恵子 村上利佳 吉井一美
協 力: 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
Chicoco ながさわくにお
html版担当 蒼子

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