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月刊児童文学翻訳

─2001年11月号(No.35 書評編)─

※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:[email protected]
2001年11月15日発行 配信数 2,310


フォッシル・ロゴ
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【待望のハリー・ポッター・ウオッチ、フォッシルより発売!】

 アメリカ生まれの人気カジュアル・ウオッチ『FOSSIL』は、一味ちがうデザインのキャラクター・ウオッチにも定評があります。最新作は話題の「ハリー・ポッター・ウオッチ」。文字盤には"賢者の石"、パッケージには"みぞの鏡"を使った、ハリポタ・ファン必買の逸品です。数量限定なのでご予約は店頭にてお早めに。詳しくはフォッシル・ホームページまで。

★(株)エス・エフ・ジェイ:やまねこ賞協賛会社


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎特別企画:今をときめくファンタジー作品群を見渡す
【1】ファンタジー・ブームと『エルフ・ギフト』『エルフ・キング』(金原瑞人氏)
【2】邦訳 シリーズ作品の紹介(11シリーズ)
【3】邦訳 独立作品の紹介(4作品)
【4】その他の邦訳作品(復刊など)
【5】アメリカの未訳ファンタジー作品
【6】終わりに

◎注目の本(未訳読み物)
ケイト・ディカミロ作 "The Tiger Rising"

◎注目の本(未訳読み物)
エヴァ・イボットソン作 "Journey to the River Sea"



特別企画

―― 今をときめくファンタジー作品群を見渡す ――

 

 最近、本屋さんの児童書コーナーにファンタジーの本があふれている。手にとってみると魔法あり、冒険ありで魅力的。でも、たくさんありすぎて何から先に読もうかしらと迷う人も多いはず。そこで、この2年ほどの間に出版されたファンタジーの邦訳作品、未訳作品を読み比べ、その魅力と傾向をさぐってみた。
 なお、作品を選ぶに当たって、どこまでを「ファンタジー」の範疇とみなすかという問題にぶつかった。その点は今後の課題にさせていただくとして、今回は、魔法と異世界をあつかった作品を中心に取り上げたい。

 

【1】ファンタジー・ブームと『エルフ・ギフト』『エルフ・キング』(金原瑞人氏)

 今号の企画に際して「マインド・スパイラル」シリーズや『レイチェルと滅びの呪文』の翻訳者である金原瑞人氏に、このファンタジー・ブームについて、また、氏の最新翻訳作品についてのお言葉をいただいた。

●ファンタジー・ブームと『エルフ・ギフト』『エルフ・キング』 金原瑞人

『ハリー・ポッター』のおかげで、世を挙げてのファンタジー・ブーム。思えば、64年にトールキンの『指輪物語』がペーパーバックでアメリカで出版され世界で初めてのファンタジー・ブームを巻き起こして以来、約40年ぶりの快挙(途中でエンデのブームがあったが、このときは残念ながらファンタジー全体の活性化にはつながらなかった)。ファンタジーの大好きなぼくとしては心から歓迎したい。そしてこれから『ハリポタ』と『指輪』の映画も封切りになるという。これを機に、優れたファンタジー作家がどんどん出てきて、かつてのファンタジーの名作が発掘されていけばとても嬉しい。

 ところで『ゴースト・ドラム』でカーネギー賞を受賞したスーザン・プライスの新作を訳し終わったところ。エルフと人間の血を引く主人公の青年が独自の価値観のもとに、陰謀渦巻く血みどろの戦いのなかでたどる不思議な運命をつづった作品。『ハリポタ』が光なら、こちらはまったくの闇。教育的配慮のまったくないダーク・ファンタジーの傑作。乞うご期待です!


  • 『エルフ・ギフト』『エルフ・キング』は、2002年、ポプラ社より出版予定。
  • 映画『ロード・オブ・ザ・リング1』(『指輪物語』第1部)の日本公開は、2002年春(全米公開は2001年末予定)。
  • 映画『ハリー・ポッターと賢者の石』の日本公開は、2001年12月1日(全米公開は11月16日)。

 

ファンタジー・ブームと『エルフ・ギフト』『エルフ・キング』   邦訳(シリーズ作品の紹介)   邦訳(独立作品の紹介)   その他の邦訳作品   アメリカの未訳ファンタジー作品   終わりに   "The Tiger Rising"   "Journey to the River Sea"   MENU

 

【2】邦訳 シリーズ作品の紹介(11シリーズ)

※シリーズ名の後の( )内はオリジナル出版国名
※年表記は、邦訳出版年(原書出版年)の順に記載


★「レッドウォール伝説」シリーズ(イギリス)

『勇者の剣』 1999.7(1986)
『モスフラワーの森』 2001.12中旬出版予定(1988)
ブライアン・ジェイクス作/西郷容子訳/徳間書店
『勇者の剣』表紙

 レッドウォール修道院で平和に暮らすネズミたちに、凶悪なドブネズミの軍団が襲いかかってきた。このまま悪に降伏してなるものか。戦うんだ! 若い修道士マサイアスは、その昔、勇者マーティンが使っていたという伝説の剣を見つけるため、修道院に隠された謎を次々と解きあかしていく……。ネズミやアナグマなど、個性的な動物たちが活躍する冒険ファンタジー。イギリスではシリーズ16冊目を数えている。日本で12月に出版予定の2作目では、勇者マーティンの時代へと物語はさかのぼる。

(植村わらび)


★「ライラの冒険」シリーズ(イギリス)

『黄金の羅針盤』 1999.11(1995)
『神秘の短剣』 2000.4(1997)
"The Amber Spyglass"(邦題未定)2002.出版予定(2000)
フィリップ・プルマン作/大久保寛訳/新潮社
『黄金の羅針盤』表紙 『神秘の短剣』表紙

 運命の波にのまれるように、次元を超えて出会ったライラとウィル。波乱と苦難に満ちた旅の行く末は……。壮大なスケールながら綿密に練り上げられた架空の世界が、ときに現実以上に現実味を帯びて心に迫る。動物の姿をした守護精霊、勇敢で聡明な白クマの王、真理を告げる羅針盤など、想像力を刺激する細部の設定も魅力。哀しいまでに美しい希望の力で、「原罪」という枷から人間を解き放つ、作者渾身の3部作。
◇シリーズ1、2巻の詳しいレビューはこちらからどうぞ

(森久里子)


★「ハリー・ポッター」シリーズ(イギリス)

『ハリー・ポッターと賢者の石』 1999.12(1997)
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』 2000.09(1998)
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 2001.07(1999)
"Harry Potter and the Goblet of Fire"(邦題未定)2002.夏以降出版予定(2000)
J・K・ローリング作/松岡佑子訳/ダン・シュレシンジャー絵/静山社
『ハリー・ポッターと賢者の石』表紙 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』表紙 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』表紙

 児童文学に脈々と受け継がれてきた魔法世界に新しいヒーローが現れた。人間界をも震撼させた闇の魔術との戦いにわずか1歳で勝利し生き残った男の子、ハリー・ポッター。何故ハリーは悪を打ち破る事ができたのか? 全7巻という壮大なスケールでスタートしたこのシリーズは、1冊ごとに数々の秘密を解き明かし、また新たな謎を生む。英国の香りを醸し出すホグワーツ魔法魔術学校を舞台に繰り広げられる、少年ハリーの最後の戦いへと向けた成長物語。ブームの火付け役となったハリー・ポッターは、現代のこども達が認めた紛れもないファンタジーの後継者である。
◇シリーズ4巻までの詳しいレビューはこちらからどうぞ

(大原慈省)


★「リンの谷のローワン」シリーズ(オーストラリア)

『ローワンと魔法の地図』 2000.08(1993)
『ローワンと黄金の谷の謎』 2001.07(1994)
『ローワンと伝説の水晶』 2002.01中旬〜下旬出版予定(1996)
エミリー・ロッダ作/さくまゆみこ訳/佐竹美保絵/あすなろ書房
『ローワンと魔法の地図』表紙 『ローワンと黄金の谷の謎』表紙

 ひ弱で臆病な少年ローワンが村の危機を救うため、1巻では〈禁じられた山〉へ、2巻では〈黄金の谷〉へと旅に出る冒険ファンタジー。恐怖に震えながらも自分の弱さを正面から見つめ、勇気を振り絞るローワンの姿がいじらしい。「怖がってもいい、大切なのはどう振る舞うかだ」そんな作者の声が聞こえてきそう。だが決して説教臭くなく、ローワンと一緒にハラハラドキドキした後、色々考えさせられる。原著は現在4作まで出版され、本国オーストラリアはもとよりアメリカでも大人気。

(吉崎泰世)


★「ネシャン・サーガ」シリーズ(ドイツ)

『ヨナタンと伝説の杖』 2000.11(1995)
『第七代裁き司の謎』 2001.06(1996)
『裁き司 最後の戦い』 2001.12初旬出版予定(1996)
ラルフ・イーザウ作/酒寄進一訳/佐竹美保絵/あすなろ書房
『ヨナタンと伝説の杖』表紙 『第七代裁き司の謎』表紙

 1920年代のスコットランド。13歳の車椅子の少年ジョナサンは、夢に現れるたくましい少年ヨナタンとその世界「ネシャン」に強く惹かれていた。ヨナタンは不思議な杖を手にしたことから、危険な旅に出る。夢の中のヨナタンと、ジョナサンがどう関わっていくのか。全能の神イェーヴォー。闇の国と光の国の争い。奇妙な生き物たち。リアルで独特な世界ネシャンで、手に汗握る冒険が繰り広げられ、巻を追うごとにスケールアップする。ダークすぎず、ほどよい緊張感が魅力。

(田中亜希子)


★「ルイスと魔法使い協会」シリーズ(アメリカ)

『壁のなかの時計』 2001.04(1973)
『闇にひそむ影』 2001.08(1975)
『魔法の指輪』 2001.11出版予定(1976)
ジョン・ベレアーズ作/三辺律子訳/北砂ヒツジ絵/アーティストハウス
『壁のなかの時計』表紙 『闇にひそむ影』表紙 『魔法の指輪』表紙

 両親を亡くしたルイスは、おじに引き取られた。優しいこのおじは、実は魔法使い。1巻では邪悪な魔法使いとの戦いが、2巻では魔法のお守りをめぐる騒動が描かれる。舞台は1950年前後のアメリカだが、雰囲気は本格ゴシック。おどろおどろしい小道具や魔法をたっぷり堪能でき、ぞくっとするスリルを味わえる。人間味あふれる魔法使いの描き方が興味深い。太り気味でいじめられっ子のルイスの日常生活もリアルだ。元々の作者は3巻までを著して亡くなったが、今も続編が書き継がれる人気シリーズ。

(菊池由美)


★「ダレン・シャン」シリーズ(イギリス)

『奇怪なサーカス』 2001.07(1999)
『若きバンパイア』 2001.10(2000)
『バンパイア・クリスマス』 2001.12出版予定(2000)
ダレン・シャン作/橋本恵訳/小学館
『奇怪なサーカス』表紙 『若きバンパイア』表紙

 少年ダレンは、1巻で友達の命を救うために半バンパイアとなり、2巻で異形の人間を集めたサーカス一座に加わる。ダレンが人間の心を捨てられない故の苦闘と悲劇がグロテスクな描写を交えて描かれる一方、芸人や周囲の人間との交流がブラックユーモアたっぷりに展開する。親分であるバンパイアのとぼけた味もいい。各巻は短く、一気に読める。次巻以降も早いペースで刊行される予定。

(舩江かおり)


★(シリーズ名は特になし)(イギリス)

『レイチェルと滅びの呪文』 2001.07(2000) ※金原瑞人訳
『レイチェルと魔法の匂い』 2001.12出版予定(2001) ※金原瑞人・松山美保訳
クリフ・マクニッシュ作/金原瑞人・松山美保訳/理論社
『レイチェルと滅びの呪文』表紙

 灰色の雪に覆われた星イスレアは、魔女ドラグウェアの邪悪な魔法に支配されていた。この星へ、弟エリックとともに引きずりこまれたレイチェルは、自分の中に秘められた魔力をみいだし、ドラグウェアに戦いを挑む。レイチェルの魔法は、五感のすべてを働かせて想像することで発揮される。生々しく気味の悪い描写や、息もつかせぬ壮絶な魔法の応酬戦に、ページを繰る指を止められない。2巻目では、レイチェルの前にまた新たなる敵が現れる。3部作となる予定。

(三緒由紀)


★「崖(がい)の国物語」シリーズ(イギリス)

『深森(ふかもり)をこえて』 2001.07(1998)
『嵐を追う者たち』 2001.10(1999)
"Midnight Over Sanctaphrax"(未訳)(2001)
ポール・スチュワート作/唐沢則幸訳/クリス・リデル絵/ポプラ社
『深森(ふかもり)をこえて』表紙 『嵐を追う者たち』表紙

 地には摩訶不思議な生き物が跳梁し、空には聖なる都が浮遊する、不思議の国、崖の国。その奥地の深森を旅する途中、道に迷った人間の少年トウィッグは、奇怪な生き物に次々と襲われる(1巻)。空飛ぶ船を駆る空賊の仲間に加わったトウィッグは、環境汚染により危機に瀕した崖の国を救うため、不思議な力を持つ石を求め、命を懸けた冒険の旅に出る(2巻)。作家と画家が相互に協力して作品を練り上げ、緻密な異世界の創造に成功した高密度のファンタジー。第3巻で完結。

(中務秀子)


★「マインド・スパイラル」シリーズ(カナダ)

『スクランブル・マインド ―時空の扉―』 2001.07(1995)
『ミッシング・マインド ―はじまりの記憶―』 2001.11(1996)
キャロル・マタス&ペリー・ノーデルマン作/金原瑞人&代田亜香子訳/横田美晴絵/あかね書房
『スクランブル・マインド』表紙 『ミッシング・マインド』表紙

 想像したことをなんでも現実にできるレノーラ姫と、相手の心を読めるコリン王子。ふたりはひょんなことから、不思議な世界に飛び込んでしまう。気の強い姫と気の弱い王子の冒険やいかに?! 2巻では巨人の登場で、〈迷〉コンビはさらにはちゃめちゃなことになる(そして、これがまた笑えるのだ)。レノーラが創り出したカラフルな子犬たちに象徴されるように、物語は飛び跳ねていて楽しくておしゃれ。マンガを彷彿とさせる話し言葉もグー! おとぎ話っぽいのに新しい。想像と創造の物語。

(田中亜希子)


★「大魔法使いクレストマンシー」シリーズ(イギリス)

『魔法使いはだれだ』 2001.08(1982) ※野口絵美訳
『クリストファーの魔法の旅』 2001.10(1988) ※田中薫子訳
『魔女とくらせば』 2002.出版予定(1977) ※田中薫子訳〈『魔女集会通り26番地』(偕成社/1984)の新訳版〉
『トニーノの歌う魔法』 2002.出版予定(1980) ※野口絵美訳
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作/野口絵美・田中薫子訳/佐竹美保絵/徳間書店
『魔法使いはだれだ』表紙 『クリストファーの魔法の旅』表紙

 複数のパラレルワールドを股にかけ、魔法の悪用を取り締まる、おしゃれでちょっぴり嫌味な最強の魔術師、クレストマンシー。舞台や登場人物は各巻で異なり、完結するようになっている。寮制学校における魔女狩り、一人の少年が偉大なクレストマンシーになるまでの物語、ロミオとジュリエットをもじった物語などが描かれ、いずれも英国人らしいひねりが利いた緻密なストーリーとブラック・ユーモアが光る。昨年、同シリーズの短編集が新たに発表された。

(池上小湖)

 

ファンタジー・ブームと『エルフ・ギフト』『エルフ・キング』   邦訳(シリーズ作品の紹介)   邦訳(独立作品の紹介)   その他の邦訳作品   アメリカの未訳ファンタジー作品   終わりに   "The Tiger Rising"   "Journey to the River Sea"   MENU

 

【3】邦訳 独立作品の紹介(4作品)

※タイトルのあとは邦訳出版年、( )内は原書出版年とオリジナル出版国名


★『魔法使いの卵』 2001.01(1998,イギリス)
ダイアナ・ヘンドリー作/田中薫子訳/佐竹美保絵/徳間書店
『魔法使いの卵』表紙

 内緒だけれどぼくのお父さんは魔法使いなんだ――魔法使いの卵スカリーは、魔法紳士団の試験を目前にして、怪しい一団に連れ去られてしまう。スカリーの魔法が漉しとられる? ユーモアあふれる物語がスカリーの軽妙な語り口で展開する。実は、魔法遺伝子は私たちフツウ人間にもあるという。魔法世界を身近に感じるとともに、自分のなかの魔法遺伝子を見つけて大切にしたくなる本。

(三緒由紀)


★『ドラゴンの眼』上下巻 2001.03(1987,アメリカ ※原書は全1巻)
スティーヴン・キング作/雨沢泰訳/アーティストハウス
《上》
『ドラゴンの眼』上巻表紙
《下》
『ドラゴンの眼』下巻表紙

 幾千年の歴史を持つデレイン王国。その王国に国の転覆を企てる魔術師がいた。最初に王妃の命が奪われ、その後、国王も毒殺された。国王暗殺の濡れ衣をきせられ、針の塔に幽閉されるピーター王子と、魔術師に操られる弟トマス王子――彼らの運命やいかに。またドラゴンの眼に隠された秘密とは? モダンホラーの大御所スティーヴン・キングが贈る、愛と勇気で織り成された、おとぎ話風正統派ファンタジー。

(蒲池由佳)


★『いたずら妖精ゴブリンの仲間たち』 2001.08(1986,イギリス)
ブライアン・フラウド作・画/テリー・ジョーンズ蒐集・著作/井辻朱美訳/東洋書林
『いたずら妖精ゴブリンの仲間たち』表紙

 この本は物語ではなく、ゴブリンのイラスト入りプロフィール集。妖精の中でも、いたずら者、どちらかというと悪役妖精で有名なゴブリンが70名余り、カラーイラストでユーモアたっぷり、大まじめに紹介されている。クイヴァー、ルエルクなど、ちょっとSF的なゴブリンの生態を読むと、すっかりファンタジー世界に遊びに来た気分を味わえる。また、装幀も凝っていて、表紙にさわるとふかふかしていて気持ちよい。

(林さかな)


★『夏の王』 2001.07(1999,アイルランド)
O・R・メリング作/井辻朱美訳/こみねゆら絵/講談社
『夏の王』表紙

 妹の不慮の死の謎を追い、少女ローレルはアイルランドの最果ての島へ向かった。「この世の死は、あの世の生」――偶然出会った妖精の言葉を頼りに、ローレルは妹との再会を期し、いにしえの金鷲の王や謎の少年イアンの助けを借りて、妖精世界への扉を開く。妖精王と人間との、愛や怒り、運命の絡まりを、現世と異世界を交錯させつつ描く堂々のケルト・ファンタジー。1995年の作品『妖精王の月』の後日譚にあたる。

(中務秀子)

 

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【4】その他の邦訳作品(復刊など)


 「クレストマンシー」シリーズを書いたダイアナ・ウィン・ジョーンズの過去の作品も、再度注目されている。『九年目の魔法』、『わたしが幽霊だったとき』(ともに東京創元社・創元推理文庫)も増刷されたほか、『魔法使いハウルと火の悪魔』(徳間書店)はスタジオジブリによるアニメ映画化が決定している。また、ルーシー・M・ボストンの『ふしぎな家の番人たち』(岩波書店)が新しく訳出されたほか、メアリー・ノートンの『空飛ぶベッドと魔法のほうき』(岩波少年文庫)、エリザベス・エンライトの『ひかりの国のタッシンダ』(フェリシモ出版)、リチャード・ケネディの『ふしぎをのせたアリエル号』(徳間書店)などの懐かしい作品が相次いで再刊された。

(三緒由紀)

 

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【5】アメリカの未訳ファンタジー作品

 アメリカで人気の作品の一部をご紹介する。

★「ゲド戦記」新刊/アーシュラ・K・ル=グウィン(Ursula K. Le Guin)作 
 2001年、短編集と第5巻 "The Other Wind" が加わった。死の国の壁を越えようとする死者たちと、人間の村を襲い始めたドラゴンたちにアースシーは混乱する。今回こそ、本当に納得のゆく結末を迎えたように思う。
★Young Wizards シリーズ/ダイアン・ドゥアン(Diane Duane)作
 5作目、"The Wizard's Dilemma" が出た。このシリーズは、ごく普通の13歳の少女が魔法の本と出会うことによって魔法が使えるようになり、おませな妹や仲間の少年と共に宇宙規模の危機に立ち向かっていく物語。
★The Immortals シリーズ/タモーラ・ピアス(Tamora Pierce)作
 型にはまらない少女を主人公とした作品が得意な作者。この4巻シリーズでは、動物や自然と密着した"ワイルド・マジック"が使える不思議な娘が悪と戦う。
★巨匠ロイド・アリグザンダー(Lloyd Alexander)は90年代、アラビアン・ナイトやラーマーヤナ、ギリシャ神話などをモチーフに、子どもむけにアレンジした魅力的なファンタジーをいくつも出している。("The Iron Ring"、"The Arkadians" など)
★"The Folk Keeper"/フラニー・ビリングズリー(Franny Billingsley)作
 2000年度ボストングローブ・ホーンブック賞をとったこの作品は、暗闇に住む「フォーク族」の世話をする気丈な少女の物語。舞台である英国北部の荒々しいフォークや自然との接触から、思いがけない自分を見出していく。やや地味だが、雰囲気のある作品だ。

(池上小湖)

 

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【6】終わりに


 読み比べて思う。やっぱりファンタジーは人の心を魅了する力を持っている。ファンタジーは、作家が自由に創りだした世界だ。どんな魔法や罠がかけられているかわからない。そこで私たちは、次々起こる不思議に驚きながら、ヒーローやヒロインとはらはらドキドキの体験をする。その本の世界にひとたび入りこめば、早く先を知りたくてずんずん読みすすみ、1冊読み終えれば、またもう1冊読みたくなるのがファンタジーなのだ。

 今号でとりあげたファンタジー作品は、実にバラエティに富んでいた。舞台設定が、緻密に構築された全くの異世界であるものもあれば、現実世界に似通った異世界のものもある。現実世界と異世界が交錯した世界のものもあれば、摩訶不思議な出来事が起こる現実世界のものもある。その内容も、作者の強いメッセージや思想がこめられていたり、人間の愛や苦悩が描かれていたり、あるいは、不思議な世界をたっぷり楽しませてくれたりと様々だ。ファンタジーに無限の可能性が広がっているのを、改めて感じた。

 さて、ファンタジーは、読み手が作者の創造した世界を頭の中に再構築したとき、はじめて成立する世界だ。読み手は想像力を羽ばたかせることで、自由にその世界を創りあげて楽しめる(ここにも無限の可能性が広がっている)。一方で、ファンタジーを読みなれていない場合や好みが違う場合には、その世界を受けいれにくいときがある。その点、「ハリー・ポッター」は、子どもたちに親しみのあるリアルな学園生活を、魔法や異世界や謎解きにプラスして、子どもたちの想像力をうまく引き出している。ほかにも、おどろおどろしい描写のある作品は子どもたちの好奇心を大いにかきたてるだろうし、めまぐるしい展開のある作品は子どもたちの心をつかみやすいだろう。

 作品にぴったり合った挿絵も、アニメ世代の子どもたちが作品のイメージを膨らますのを助けている。たとえば、「崖の国」シリーズの挿絵は、文章とともにその作品世界を創りあげている。また、本特集でとりあげた作品のうち4作品の挿絵を描き、日本のファンタジー作品の挿絵も多く手がけている佐竹美保氏は、各作品のイメージに合わせて絵柄を微妙に変え、キャラクターをきちんと描き分けている。

 このブームにのって、今号でとりあげたような新しいファンタジーを読み、その面白さに目覚めた子どもたちの中には、「指輪物語」、「ナルニア国ものがたり」など、古典的なファンタジー作品に向かう子も出てくれば、現代の子どもたちの冒険を生き生きと描いた作品に手を伸ばす子も出てくるだろう。ファンタジーを通して、「本、大好き」の子ども人口が増え、面白くて質の高い児童書がどんどん出版されたら、こんなに喜ばしいことはない。

(構成:三緒由紀)

☆★今回、ご紹介した作品の原書情報(原題など)のリストは、やまねこ翻訳クラブHPでご覧いただけます。

 

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注目の本(未訳読み物)

―― 少年の心も、檻に閉じ込められていた ――

 

『霧の中のトラ』(仮題)
ケイト・ディカミロ作

"The Tiger Rising"
by Kate DiCamillo
Candlewick Press 2001, ISBN 0763609110, 116pp.

★2001年度全米図書賞候補作(賞の発表は11月14日)

 

 朝もやのたちこめる森の中で、12歳の少年ロブは檻に入ったトラを見つける。怒りに満ちたようなトラの姿はどこか現実ばなれしていて、見つめていると消えてしまいそうだ。ロブは、自分の目で見たものを半ば疑いつつも、何かが変わる予感がした。

 母の病死後、ロブは、自分の感情を心の中のスーツケースに押し込めていた。父とふたりでフロリダに転居し、父の勤め先のモーテルで暮らしている。転入先の学校では、よそものというだけでいじめられていた。

 トラを見つけた日、システィーンという少女が同じクラスに転入してくる。周囲の雰囲気から浮いたピンクのワンピースを着ているシスティーンは、たちまちいじめの対象に。だが、システィーンは、ひたすらがまんするロブとは違って、負けると分かっていても果敢に立ち向かっていく少女だった。

 ロブは、けがのため学校を休むことになった。システィーンは、ロブに宿題を届ける名目で毎日やってくる。ロブは、システィーンを信頼し、自分だけの秘密にしていたトラのことを打ち明けた。すると、システィーンは、トラを自由にしてあげるべきだと主張する。トラを自由にしてあげたい。でも、もしトラを檻から出したら……。葛藤の末、ロブの出した結論とは……。

 本書の表紙には、霧の中を疾走するトラの背に乗るシスティーンと、そのかたわらに立つロブが描かれている。幻想的な絵に引かれて読み始めたが、内容はシビアで現実的な物語だ。システィーンも心に傷を負っているが、ロブと大きく違うのは怒りや悲しみをすべてさらけだす点だ。相反するふたりが出会い、友情を育むことにより、ロブとシスティーンは互いに変化していく。

 前作の "Because of Winn-Dixie" と同様、フロリダを舞台に、片親を失った主人公が自分の気持ちを整理し、心を開いていく過程が丁寧に描かれている。だが、この物語のキーは、「檻」だ。トラを閉じ込めている檻は、ロブ自身が自分の感情を閉じ込めているという心の中のスーツケースに通じる。だが、トラは檻の鍵を開けられないのに対し、人はその気になりさえすればいつでも心を開くことができる。それに気づいたとき、ロブの心は自由になり、解き放たれるだろう。

(横山和江)

 

【作者】Kate DiCamillo(ケイト・ディカミロ)

 米国のフィラデルフィアで生まれ、5歳のとき、フロリダに転居した。現在はミネソタ州ミネアポリス在住。フロリダ大学卒業。大人向けの作品も手がける。子どもの本のデビュー作である "Because of Winn-Dixie" は、2001年ニューベリー賞の次点に選ばれた。

 

【参考】
◇作者紹介記事

◇全米図書協会(全米図書賞主催)
(編集の都合上、賞の発表に間に合いませんでした。こちらでご確認ください)

◇"Because of Winn-Dixie" レビュー(「月刊児童文学翻訳」2001年2月号)

 

ファンタジー・ブームと『エルフ・ギフト』『エルフ・キング』   邦訳(シリーズ作品の紹介)   邦訳(独立作品の紹介)   その他の邦訳作品   アメリカの未訳ファンタジー作品   終わりに   "The Tiger Rising"   "Journey to the River Sea"   MENU

 

注目の本(未訳読み物)

―― 大河アマゾンを遡る少女の、勇気あふれる冒険の物語 ――

 

『アマゾンへの旅』(仮題)
エヴァ・イボットソン作

"Journey to the River Sea"
by Eva Ibbotson
Macmillan Children's Books 2001, ISBN 0333947401, 296pp.

★2001年度スマーティーズ賞最終候補作(賞の発表は12月5日)
★2001年度ウィットブレッド賞候補作(賞の発表は2002年1月22日)

 

 その日、ロンドンの女子寄宿学校は蜂の巣をつついたような騒ぎだった。級友で、さる考古学者の遺児マイアに親戚が見つかり、遠いアマゾンへ行ってしまうのだという。20世紀初め、多くのヨーロッパ人が富を求めて南米に移住した頃だった。

 明るく好奇心旺盛なマイアは、熱帯の未知の世界に憧れを抱いた。また、親戚のカーター家には同じ年頃の双子の娘達がいるという。新しい家族ができる喜びにマイアの心は踊った。マイアは家庭教師兼世話係のミントン先生とブラジルへ旅立つ。先生は堅物の皮肉屋だが、ユーモアを理解する知的な女性で、マイアの心をつかんでいく。

 しかし、カーター家の人々は熱帯での生活に心を病んでいた。彼らはアマゾンの風習を拒み、英国製の缶詰と殺虫剤無しには暮らせず、双子達は傲慢で意地悪だった。

 そんなある日、マイアは森に入って道に迷う。先住民の少年に助けられカヌーに乗ったマイアは、偉大なアマゾン河の虜になる。この素晴らしい世界とカーター家が忌み嫌う世界が同じだとは、マイアには信じられない。マイアは少年の名前も聞かずに別れてしまう。その頃、町では奇妙な男達が行方不明のイギリス貴族の少年フィンを捜していた。フィンの祖父は跡継ぎの少年を求めて躍起になっているという。

 アマゾンという魔術的な場。生き生きとした登場人物。テンポの速い筋立て。物語の力をほぼ完璧に備える本書の魅力が特に際立つのは、後半、アマゾン上流への旅が始まり、それぞれの登場人物の緊迫した状態が組木細工のように巧妙に組み合わされ、スピード感のある物語が展開するところだ。憎らしいほどうまい具合に挿入される、ミントン先生のユーモアと機知に富んだ警句が光る。「人は、自分の世界を自分自身で創るもの」と先生は言う。人の思いのありようで、世界はその様相を変えるということだ。新しい世界に対して物怖じせずに心を開いた時、その世界は恐怖に満ちた未知の国ではなく、喜びと驚きに溢れる新世界に変わる。子供は大人以上に新しい世界に臨む機会が多い。運命の歯車に巻き込まれることも数知れない。選べないその運命の中で、何かを選ぶために必要なもの、それも開いた心と勇気だろう。そんな子供に助力を惜しまない、ミントン先生のような大人が一人でも多くいることを願う。

(中務秀子)

 

【作者】Eva Ibbotson(エヴァ・イボットソン)

 1925年ウィーン生まれ。のちに英国に育ち、現在ニューキャッスル在住。本書以外に7冊の児童書があり "Which Witch?" がカーネギー賞候補に、"The Secret of Platform 13" がスマーティーズ賞候補に挙がる。邦訳作品には『アレックスとゆうれいたち』(野沢佳織訳/徳間書店)がある。

 

【参考】  ◇スマーティーズ賞  ◇ウィットブレッド賞

 

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