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月刊児童文学翻訳

─2000年5月号(No.20 書評編)─

※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:[email protected]
2000年5月15日発行 配信数1,626


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎特集
カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表

◎注目の本(邦訳絵本)
フレミング文 クーパー絵『エディー・リーのおくりもの』

◎注目の本(邦訳読み物)
スタルク文 ヘグルンド絵『地獄の悪魔 アスモデウス』

◎注目の本(未訳読み物)
ゲイリー・ポールセン作 "Soldier's Heart"

◎注目の本(未訳読み物)
ベバリイ・クリアリー作 "Ramona Quimby, Age 8"

◎Chicocoの洋書奮闘記
第15回(最終回)「いつのまにか20冊」(よしいちよこ)

◎特別企画
少女探偵「ナンシー・ドルー」シリーズ



特集

―― カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表 ――

 

 5月2日、イギリスで最も権威ある児童文学賞であるカーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞の今年度候補作が発表された。受賞作の発表は7月7日。候補作は以下の通り。

 

【カーネギー賞候補作】CARNEGIE (作家対象)

"Kit's Wilderness" David Almond (Hodder)
"Little Soldier" Bernard Ashley (Orchard)
"Postcards From No Man's Land" Aidan Chambers (Bodley Head)
"King of Shadows" Susan Cooper (Bodley Head)
"Tightrope" Gillian Cross (Oxford)
"The Rinaldi Ring" Jenny Nimmo (Mammoth)
"Harry Potter and the Prisoner of Azkaban" J.K.Rowling (Bloomsbury)
"The Illustrated Mum" Jacqueline Wilson (Doubleday)

 昨年"Skellig"で受賞したアーモンドの名前が、再び挙がっている。ジリアン・クロスも『オオカミのようにやさしく』(岩波書店)で受賞経験あり。"Harry Potter and the Prisoner of Azkaban"は今年のホイットブレッド賞を、"The Illustrated Mum"は同じく今年のガーディアン賞をすでに受賞している作品。ニューベリー賞受賞作を含む「闇の戦い」シリーズ(評論社)などで人気の高いスーザン・クーパー、『石のねずみ ストーン・マウス』(偕成社)などのジェニー・ニモ、衝撃的な作品『おれの墓で踊れ』のチェンバーズは日本でもおなじみの作家である。

 

【グリーナウェイ賞候補作】GREENAWAY (画家対象)

"The Sea-Thing Child" Patrick Benson (Walker)
"Wombat Goes Walkabout" Christian Birmingham (HarperCollins)
"Clarice Bean, That's Me" Lauren Child (Orchard)
"Weslandia" Kevin Hawkes (Walker)
"The Storm" Kathy Henderson (Walker)
"Days Like This" Simon James (Walker)
"Alice's Adventures in Wonderland" Helen Oxenbury (Walker)
"Castle Diary" Chris Riddell (Walker)

 昨年に引き続き、クリスチャン・バーミンガムの作品が候補に挙がっている。ケビン・ホークスの"Weslandia"はすでに昨年邦訳『ウエズレーの国』(あすなろ書房)が出版され、やまねこ賞(やまねこ翻訳クラブ会員が選ぶ翻訳児童書の賞)を受賞した注目の作品。オクセンバリーは、1969年に『カングル・ワングルのぼうし』(ほるぷ出版)と『うちのペットはドラゴン』(徳間書店)で受賞経験あり。今回の候補作は、おなじみキャロルの物語に現代感覚の絵をつけた話題作(邦訳『ふしぎの国のアリス』/評論社)。クリス・リデルは昨年『ぞうって、こまっちゃう!』(徳間書店)で日本に紹介されている。

(菊池由美)

 

 

カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表   『エディー・リーのおくりもの』   『地獄の悪魔 アスモデウス』   "Soldier's Heart"   "Ramona Quimby, Age 8"   Chicocoの洋書奮闘記   少女探偵「ナンシー・ドルー」シリーズ   MENU

 

注目の本(邦訳絵本)

―― あるがままの子どもたち ――
〜いいもの見せてあげる〜

 

『エディー・リーのおくりもの』
バージニア・フレミング文 フロイド・クーパー絵
香咲弥須子訳 2000.4.10 小学館 本体1,400円

"Be Good to Eddie Lee"
Virginia Fleming, illustrated by Floyd Cooper
Penguin Putnam 1993

『エディー・リーのおくりもの』表紙

 

 クリスティは夏休みを過ごすため今年も田舎にやってきました。近所に同じ年頃のジムとエディー・リーがいます。エディー・リーはゆっくり成長していく「みんなとちょっとちがう」男の子です。クリスティは、ジムに誘われて湖へカエルのたまごを見にいきます。ジムにじゃま者あつかいされながら、エディー・リーも二人のあとを追ってきます。しめった葉のにおい、足に触れるやわらかなシダ、耳をくすぐるヤマセミの声。カエルのたまごは見つかるでしょうか。クリスティたちは、あふれる自然の恵みのなか、満身でなにを感じ、なにを得るのでしょうか。

 この本を手にしたとき、すぐさま絵の世界に惹きこまれました。子どもたちの動きや表情が生き生きと描かれ、声まで聞こえてきそうです。また、森やしげみや湖の、やわらかく、奥深く、光に満ちた情景は、自分がそこにいるかのように感じさせます。画家のクーパーさんは、次のようなことを語っています。「絵本の絵を描くときは、テキストを読んで感じた世界を再現し、見る人を自分と同じように物語の中に誘いたいのです」日本ではあまり紹介されていませんが、気になる画家です。

 お話については、「子どもの世界をまっすぐに映している」という印象を受けました。クリスティは子どものころのフレミングさん自身だそうです。とまどい、気どり、強がり、いらだち、やさしさ、思いやり、さみしさ、かなしさ、心細さ、よろこび、たくましさ……。わたしたちが子どものころに経験するさまざまな心情や触感が、生(なま)のまま切り取られています。ゆっくりと文を読み返すうち、心の奥にしまわれた遠い記憶や感情が懐かしさとともにこみ上げてきました。この作品は、落ち着いた心もちで、二度三度と読んで味わってほしいと思います。

 ところで、クリスティとジムはくつをぬぎ、裸足で湖へ向かいます。歩く行為ひとつとっても、アスファルトの上と、素足で草や土を踏みしめるのとでは刺激が格段にちがいます。手つかずの自然を身近で味わう機会はずいぶん減りました。「今年の夏休みはなにをしようか?」子どもと話してみるのもいいかもしれません。

(野木富夫)

 

【作者】Virginia Fleming(バージニア・フレミング)
 詳細不明。訳者あとがきによると、いまはお孫さんのいるおばあさんとのこと。

【画家】Floyd Cooper(フロイド・クーパー)
 オクラホマ大学で美術を専攻。たまたま依頼された児童書 "Grandpa's Face"(Eloise Greenfield,1988)の絵が高く評価され、絵本画家として活躍するようになる。日本の平安時代の物語に題材を求めた"The girl who loved caterpillars"(Jean Merrill)の絵も手がけている。

【訳者】香咲弥須子(かさきやすこ)
 作家、翻訳家。ニューヨーク在住。著作、訳書とも多数ある。最近のものでは『ねこの神様』(講談社)、訳書『フォーティーズ・クライシスなんか怖くない!』(バーバラ・シェール/扶桑社)などがある。

 

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注目の本(邦訳読み物)

―― 地獄の悪魔は、やさしい悪魔?! ――

 

『地獄の悪魔 アスモデウス』
ウルフ・スタルク文 アンナ・ヘグルンド絵
菱木晃子訳 2000.3 あすなろ書房 本体1,300円

"LILLA ASMODEUS"
Ulf Stark and Anna Hoglund(oの上にウムラウト)
Alfabeta 1998

『地獄の悪魔 アスモデウス』表紙

 

 アスモデウスは悩んでいた。どうしてぼくはみんなと違うんだろう、パパを喜ばせられないんだろうと。地獄では美徳となる意地悪や行儀の悪さには、全く興味のないアスモデウス。そんな息子に業を煮やした地獄の支配者である父は、人間をたぶらかし、魂を奪ってくるよう命じた。地上は恐くていやな場所と聞いていたが、いざ出てみれば明るく美しい世界で思わずうっとり。魂をくれそうな人を懸命に探すが、素直すぎる性格が災いしてか、ちっともうまくいかず、人間の子どもにいじめられてしまうはめに。悪魔のようないじめっ子から救ってくれたのは天使だった(本当はパン屋なのだが……)。やさしい天使に励まされ、元気を取り戻したアスモデウスは、悲しみにくれているクリスチーナと出会う。病気の弟を元気にしてくれるなら自分の魂をあげるというクリスチーナ。これでパパに褒めてもらえると喜んだものの、恐ろしい地獄のことを考えると、クリスチーナを連れて行くことにためらいを感じはじめる。父の期待に応えることが、好きな女の子をつらい目に合わせることになるなんて……。

 この話は、色々な要素を含んでいる。アスモデウスと他の登場人物たちのとぼけた会話に大笑いしたり、父親と息子の微妙な関係にせつない気持ちを抱いたり。また、アスモデウスとクリスチーナの淡い初恋物語とも受け取れる。

 伝説上のアスモデウスは強くて恐ろしいのだが、ヘグルンドの描くアスモデウスは、小さな角、とがった耳、ブタのような鼻という情けない姿で、少しも悪魔らしくない。他の悪魔たちの姿も一度見たら忘れられないくらいかなりパンチが効いている(個人的にはママが一押し)。絵の方もじっくり楽しんでほしい。

(横山和江)

 

【作者】Ulf Stark(ウルフ・スタルク)
 1944年生まれ。スウェーデンの人気児童文学作家。1988年『ぼくはジャガーだ』(佑学社)の文章でニルス・ホルゲション賞、1994年『おじいちゃんの口笛』(ほるぷ出版)でドイツ児童文学賞など、数々の賞を受賞。他に『シロクマたちのダンス』(偕成社)、『うそつきの天才』『パーシーと魔法の運動ぐつ』『ちいさくなったパパ』(以上、小峰書店)など多数。

【画家】Anna Höglund(アンナ・ヘグルンド)
 1958年生まれ。スウェーデンの人気絵本作家、イラストレーター。主な作品はスタルクの文による『おじいちゃんの口笛』『おねえちゃんは天使』『青い馬と天使』、文章も手がけた『ふたり 2ひきのくまの物語』『ふたり ミーナの家出』(以上すべて、ほるぷ出版)など。

【訳者】菱木晃子(ひしき あきらこ)  1960年東京生まれ。慶応義塾大学卒業。現在、スウェーデンを中心に北欧児童書の翻訳に活躍中。スタルクの作品の翻訳は本書で10冊目。他に『おもちゃ屋へいったトムテ』(福音館書店)など。

 

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注目の本(未訳読み物)

―― 少年は南北戦争に行った ――

 

『ソルジャーハート』(仮題)
ゲイリー・ポールセン作

"Soldier's Heart" by Gary Paulsen
Delacorte Press 1998.10, ISBN 0-380-70956-2 106pp.

 

 1861年、アメリカ北部では南部連合打倒の気運が高まり、人々は熱に浮かされたような興奮の渦のなかにあった。15歳のチャーリーもその例外ではなく、ほんの冒険心から年齢を偽りミネソタ義勇軍に志願した。村の外へ出たことがないチャーリーには、何もかもが初めてのことばかり。おまけに行く先々で人々が歓呼の声で迎えてくれる。まるで一人前の男になったような気がして、退屈な訓練でさえ楽しくてたまらなかった。

 だが、そんな浮ついた気分もブル・ランの戦いでいっぺんに吹き飛ぶこととなる。雨あられと飛び交う弾丸。戦友たちが次々と倒れ、硝煙の晴れた草原には、兵士たちの死体が累々と続いていた。チャーリーは自分もこの戦争できっと死ぬと信ずるようになる。

 ソルジャーハートとは戦争の精神的な後遺症のことである。ポールセンは、少年の目を通して、冷徹なまでに克明に南北戦争を描いていく。戦いにつぐ戦いの中で純朴な少年の心が、まるで鉄が腐食していくかのようにぼろぼろになっていく様子があまりにも痛ましい。彼は北軍の兵士、勝者の側なのだ。それでも回復できないほどの大きな心の傷を負ってしまう。

 湾岸戦争やコソボ紛争の時のニュースの爆撃シーンは、まるでテレビゲームのようにも見え実感に乏しかったが、戦争は断じてゲームではない。作中、夜の歩哨で、チャーリーは南軍の少年と言葉を交わし、敵としてしか考えなかった相手が自分と同じ普通の人間であることに気づく。同じように、あの爆撃の下にも、日々の生活を営む人々がいることを決して忘れてはならないと思う。ポールセンは他の作品"Sentries"(邦題『さまざまな出発』/渡辺南都子訳/くもん出版)で、核戦争を暗示させる結末を書いていたが、安易に戦争を起こすことに危惧を感じ、これほどまでに生々しく戦争の悲惨さを描き出そうとしたのかもしれない。決して楽しい話ではないが、今の若い人たちにぜひ読んでもらいたい作品である。

(吉崎泰世)

 

【作者】Gary Paulsen(ゲイリー・ポールセン)
 1939年、アメリカのミネソタ州で生まれる。トラックの運転手、船員、教師、エンジニア、編集者、軍人、俳優、演出家、歌手など様々な職業を経た後、作家活動に入る。若者むけの作品を中心に100冊以上の書籍を出版しており、ニューベリー賞オナー(次点)を3度経験。邦訳には他に『ひとりぼっちの不時着』、『はてしなき追跡』(いずれも、くもん出版)がある。

 

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注目の本(未訳読み物)

―― 別世界に生きる子どもと大人 ――

 

『ラモーナ、小学3年生』(仮題)
ベバリイ・クリアリー作

"Ramona Quimby, Age 8" by Beverly Clearly
Avon Books 1981, ISBN 0-380-70956-2 190pp.

 

 ラモーナ・クインビィ、8歳。この夏、学校制度が変わり、別の小学校へ通うことになった。歩いて通うには少し遠いのでバス通学。しかも、3年生までの学校だから、ラモーナは最上級生。何かと頼りにしていた姉とは別々の学校に通うという不安はあるけれど、ちょっぴり大人になった気がするのだった。

 新学期からは家庭の状況も変わる。レジの仕事をしていた父親が、教師になるために大学へ通いだす。その間、母親が家計の助けに医院の受付の仕事をすることになった。両親は二人とも忙しいので、ラモーナは学校が終わるとケンプ家に預けられる。そこでは、4才になるウイリィの遊び相手と期待されるのだが、こうしたこともまたラモーナには初めての経験だった。

 この作品は、新しい学校、家庭環境の変化という状況の中で、ラモーナが成長していく過程をいくつかのエピソードを通じて描いている。小学校3年生というのは、微妙な時期、大人の世界をちょっと垣間見ることができる年齢とも言えるだろう。どのエピソードをとっても、子どもの大人に対する無知と、大人の子どもに対する無知が実にうまく書かれている。読み書きも計算もできる父親が教師になるために、何をこれ以上勉強しないといけないのか、ラモーナは不思議に思う。逆に大人は子どもの存在を忘れて、まるでそこに居ないかのように本人のことを話したりする。

 子どもが読めば、やっぱりね、と思うだろうし、大人が読めば、子どもってそんなことを考えてるの、と思いを新たにするだろう。いずれにせよ、大人にとっては何でもないような出来事を通してラモーナが少しずつ成長していくのを読むのは楽しい。

 この作品は1982年ニューベリー賞オナー(次点)に選ばれている。ラモーナを主人公とし、その成長を追う形の作品は、この作品の前後にも何作か書かれている。だが邦訳はこの作品の前作にあたる『ラモーナとおかあさん』(松岡享子訳/学習研究社)までしか出ていない。この本は子ども向けの本ではあるが、子どもを持つ親にとっても、我が子の考え方を知る上でぜひ読んでみたい本である。邦訳が待たれる。

(Picard)

 

【作者】Beverly Clearly(ベバリイ・クリアリー)
 1916年、オレゴン州生まれ。図書館もない小さな町で、母親の集めた本によってその面白さにめざめる。児童図書館員を務めたのち、1950年『がんばれヘンリーくん』(松岡享子訳/学習研究社)でデビュー。どこにでもいそうな子どもを描いた物語として、子どもたちの人気を集めた。1984年、『ヘンショーさんへの手紙』(谷口由美子訳/あかね書房)でニューベリー賞受賞。1999年、ラモーナシリーズの最新作"Ramona's World"を発表した。

【参考】クリアリーの作品リスト(やまねこ翻訳クラブ作成)

 

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Chicocoの洋書奮闘記 第15回(最終回) よしいちよこ

―― 「いつのまにか20冊」 ――

 

 奮闘しながらも、ついに20冊目。大好きな作家クリーチのハードカバーを貸してもらった。"Bloomability"(Sharon Creech/1998年/Harpercollins)。273ページ。

 13歳の少女ディニーが主人公。ディニーの家族は、転職を繰り返す父のせいで、アメリカ各地を転々としていた。兄は刑務所にはいり、姉は妊娠、結婚。そんな中、ディニーは、おじとおばに連れられてスイスに来た。家族と離れ、おじが校長を務める学校に通うことになる。世界中から生徒が集まるこの学校では、人種、文化を超えた友情がきずかれていく。殻にこもりがちなディニーはどう成長していくのか……。

 

《1999年の日記から》
【5/18】 19p。あいかわらず授乳中の読書を続けていたが(詳しくは、4月号の洋書奮闘記14回を参照)、この本は断念。ハードカバーは重くて、片手で持てない。
【5/19】 ディニーが初めて見るスイスの景色。山、川、湖が目に浮かぶ。23p。
【5/20】 実家の母がやってきた。息子(2か月)を預けて、読書。だけど13p。
【5/21】 時間ができたらしたいこと。読書かパソコン。きょうは、パソコン。0p。
【5/22】 ああ、また、パソコンをとってしまった。本は、たったの3p。
【5/23】 この読書ペースの落ちこみを補うには、やはり授乳中に読むしかない。借り物を汚さないように気をつけて、重さで腕をぷるぷる震わせて、22p。
【5/24】 18p。息子が目をぱっちりあけて見つめるので、音読してやった。話しかけているように思わせて読書時間をとるよい方法だ。
【5/25】 12p。
【5/26】 きょうは徹底的に読む。パソコンより読書で、66p。
【5/27】 きょうも徹底的に読む。64p。
【5/28】 33p。読了。

 

 何かをするのに、すぐにできてしまう人と、時間のかかる人がいる。私はどちらかというと後者。ディニーの思いがわかる気がして、せつなかった。家庭環境などぜんぜん違うので、「あんたなんかに何がわかるのよ」と言われそうだが……。ディニーの気持ちを尊重しながら、励まし、あたたかく接するまわりの人たちがいい。

 さて、長い間お読みいただいた「洋書奮闘記」は、今回が最終回。連載の間に、苦手だと思っていた洋書を楽しんで読めるようになり、母親になり、夢だった訳書の出版もさせていただきました。感無量です。これまで読んでくださった皆さま、連載をさせてくださった『月刊児童文学翻訳』スタッフの皆さま、ありがとうございました。来月からは新連載が始まります。これからもよろしくお願いします。


【参考】"Bloomability"のレビューは、1999年3月号「注目の本(未訳編)」でごらんいただけます。

 

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特別企画

―― 米国の誇る永遠のアイドル、ナンシー・ドルー ――

 

『少女探偵ナンシー』表紙  米国で少しでも本を読む女性なら少女探偵ナンシー・ドルーを知らない人はいないだろう。だが、残念ながら日本での知名度はずっと低い。今回はこのナンシーにスポットをあててご紹介したい。

 

★ナンシー・ドルーって?

 ナンシー・ドルーは架空の町リバーハイツに住む高校3年生。幼少時に母を亡くし、弁護士の父カーソンと家政婦ハンナとの3人暮らしだ。明るく正義感の強い性格で、困った人を見るとほうってはおけず、持ち前の行動力と父譲りの聡明さで次々に難問を解決していく。その際、頼りになるのが親友のジョージとベス。男名前の示す通り活発なジョージと慎重でおっとりしたベスとの友情は、揺らぐことはない。さらにボーイフレンドのネッド・ニッカーソンが事件解決に一役買ってくれることも多い。


★「ナンシー」シリーズの歴史

 ナンシー・ドルーの1冊目が出版されたのは1930年。今から70年前だ。作者のキャロリン・キーンという名前はペンネームで、生みの親はエドワード・ストラッテマイヤーという。20世紀初めからストラッテマイヤー・シンジケートと呼ばれる作家集団を抱え、多くのペンネームを駆使して子供向けの冒険小説を量産していた彼が、少女向けに創造したキャラクターがナンシーだ。しかし1冊目が出版される直前にエドワードは死去し、事業は娘のハリエット・ストラッテマイヤー・アダムズに引き継がれた。以降、何人ものライターがキーンの名前で執筆、ハリエットも事業を経営するだけでなく、後には自ら「ナンシー」シリーズに筆をふるい、1982年には長年の功績を称えられミステリー界の権威MWA賞の特別賞も受賞している。ハリエットの死去後、シンジケートの経営権は、1984年、大手出版社のサイモン&シュスターに買い取られ、現在も隔月刊で新作が出版されている。


★長期シリーズの秘密

 「ナンシー」シリーズは、これまでに基本のシリーズだけで150冊以上、スピン・オフ・シリーズを加えると400冊以上が出版されている。これほどまでに長期間にわたりシリーズが愛好されている秘密はなんだろう。

 少女の理想像を具現化したようなナンシーの性格によるところも確かに大きいが、長続きの一番の秘訣はナンシーが成長せず、親友やボーイフレンドとの関係も変わらないことだろう。出版社に権利がうつってからは、ナンシーの年齢を変更したスピン・オフ・シリーズも生まれているが、ひとつのシリーズの中での年齢は変わらない。

 また取り扱う事件は盗難や詐欺、行方不明者の捜索など血生臭くないもので、大人が安心して子供に勧めることができる。ナンシーが必ず危地に陥りながらも、自らの機転でそれを乗り越えること、モチーフとして幽霊や降霊術など神秘的なものを多く取り上げていることなど子供をワクワクさせる要素も盛り込んでいる。

 こうした趣向で続けているため同工異曲という批判もある。だが、その同工異曲こそが長年の人気の秘密でもある。子供が安心して手を伸ばせる1冊なのだ。


★ナンシーと米国社会

 「ナンシー」シリーズが誕生した1930年は、家庭に入りよき妻となる女性が理想とされた時代。自ら主導権を握り推理を展開していくナンシーの登場は画期的だった。ナンシーの好きな色が青というだけで「女のくせに」と思われる時代だったのだ。そんなナンシーをフェミニズム運動初期の啓蒙的存在として挙げるフェミニストもいる。

 またミステリー界に与えた影響も大きい。成長したナンシーとも言われる「ジェニファー・ケイン」シリーズ(ナンシー・ピカード作)をはじめ、特に女性向けミステリーでは、作中でナンシーの名前に言及されることも少なくない。


★日本におけるナンシー

 戦後、子供向けに名作全集が多く発行された時期から日本でも「ナンシー」シリーズは人気があり、過去7社より30点以上の作品が出版されている。しかし90年代には一時、書店から消えてしまった。幸い、2年前より、以前金の星社で出版されていた6点がフォア文庫で順次復活している。いずれも1940年代までの作品だが50年以上たってもそのエッセンスが古くなっていないことに驚かされる。この6点は同社より刊行されていた「少女・世界推理名作選集」の一部の改訳版で、同選集からは、ナンシーに続いて少女探偵ジュディのシリーズもフォア文庫での復活が決まった。

 こうした少女推理小説復活の動きにあわせて、コンピューターも自在に操る現代のナンシーを日本語で読みたいというのは、贅沢な願いというものだろうか。シリーズ全体で、今までに世界で8000万部も売り上げたという「ナンシー」シリーズ。今の子供たちのハートもしっかりつかんでくれるに違いない。

(沢崎杏子)

※2004年3月、本文中の「サイモン&シューローダー」を「サイモン&シュスター」に訂正

【参考】

 

カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表   『エディー・リーのおくりもの』   『地獄の悪魔 アスモデウス』   "Soldier's Heart"   "Ramona Quimby, Age 8"   Chicocoの洋書奮闘記   少女探偵「ナンシー・ドルー」シリーズ   MENU

 


●編集後記●

 ご愛読いただきました「洋書奮闘記」は今月で最終回となりましたが、来月より、Chicocoさんの「親ばか絵本日誌」が始まる予定です。乞うご期待。(き)


発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: 林さかな(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: 河まこ キャトル くるり 小湖 Chicoco どんぐり BUN ベス YUU りり ワラビ MOMO つー さかな こべに みーこ きら Rinko SUGO わんちゅく みるか NON
協 力: @nifty 文芸翻訳フォーラム
小野仙内 ながさわくにお 麦わら タイ Picard


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