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月刊児童文学翻訳

─2001年6月号(No. 31 書評編)─

※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:[email protected]
2001年6月15日発行 配信数 2,240


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎賞情報1
2001年ボストングローブ・ホーンブック賞発表

◎賞情報2
2001年子どもの本賞発表

◎特集
カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作レビュー

★カーネギー賞
"The Ghost Behind the Wall" メルヴィン・バージェス作
"Troy" アデーレ・ジェラス作
"The Amber Spyglass" フィリップ・プルマン作

★グリーナウェイ賞
"FOX" ロン・ブルックス絵(マーガレット・ワイルド文)
"Beware of the Storybook Wolves" ローレン・チャイルド文/絵
"I Will Not Ever Never Eat a Tomato" ローレン・チャイルド文/絵

◎注目の本(邦訳絵本)
パトリシア・ポラッコ文/絵 『彼の手は語りつぐ』

◎Chicoco の親ばか絵本日誌
第11回「まだまだ続く、乗り物好き」




賞情報1

―― 2001年ボストングローブ・ホーンブック賞発表 ――

 6月7日、ボストングローブ・ホーンブック賞が発表された。この賞は、前年6月から当年5月までの1年間に米国で出版された本を対象とし、フィクションと詩、ノンフィクション、絵本の3部門に贈られる。本年の授賞式は10月1日。

 2001年の ★Winner(受賞作)、☆Honor(次点、各部門2作品)は以下の通り。

【フィクションと詩】(Fiction and Poetry)

★"Carver: A Life in Poems" by Marilyn Nelson (Front Street)

★"Everything on a Waffle" by Polly Horvath (Farrar)

☆"Troy" by Ade(`)le Geras
※(`)は直前の文字の上に付く (Harcourt)

【ノンフィクション】(Nonfiction)

★ "The Longitude Prize" by Joan Dash
and illustrated by Dusan Petricic (Foster/Farrar)

☆ "Rocks in His Head" by Carol Otis Hurst,
illustrated by James Stevenson (Greenwillow)

☆"Uncommon Traveler: Mary Kingsley in Africa"
written and illustrated by Don Brown (Houghton)

【絵本】(Picture Book)

★ "Cold Feet" by Cynthia DeFelice
and illustrated by Robert Andrew Parker (DK Ink)

☆"Five Creatures" by Emily Jenkins
and illustrated by Tomek Bogacki (Foster/Farrar)

☆"The Stray Dog" retold and illustrated by Marc Simont (HarperCollins)



 【フィクションと詩】部門の Marilyn Nelson の作品は、多才な植物学者であった George Washington Carver の伝記を韻文で綴っている。オナーを受けた Polly Horvath は、1999年にも "The Trolls"(本誌2000年3月号にレビュー掲載)で同部門のオナーに選ばれている。同じくオナーには、現在カーネギー賞候補にあがっている、"Troy"(今月号特集記事レビュー参照)の名が見える。アメリカではこの4月に出版されたばかり。

 【ノンフィクション】部門の受賞作は、海上で経度を測る器械を発明した、18世紀の時計技師の伝記。オナーの "Rocks in His Head" の画家は、『おじいさんのハーモニカ』(ヘレン・V・グリフィス文/今村葦子訳/あすなろ書房)などで日本でも人気のジェームズ・スティーブンソンだ。

 【絵本】部門の受賞作 "Cold Feet" は、ちょっと不気味なスコットランド伝承の再話である。オナー受賞のマーク・サイモントは、邦訳も多い著名な作家。"A Tree is Nice"(邦題『木はいいなあ』/西園寺祥子訳/岩波書店)では、1957年のコールデコット賞を受賞している。

(菊池由美)

[参考]

◇The Horn Book Inc.

◇ボストングローブ・ホーンブック賞について(やまねこ翻訳クラブ・データベース)

◇「月刊児童文学翻訳」 2000年3月号



2001年ボストングローブ・ホーンブック賞発表   2001年子どもの本賞発表   "The Ghost Behind the Wall"   "Troy"   "The Amber Spyglass"   "FOX"   "Beware of the Storybook Wolves"   "I Will Not Ever Never Eat a Tomato"   『彼の手は語りつぐ』   Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU


賞情報2

―― 子どもの本賞(The Children's Book Award)発表 ――


 6月9日、「子どもの本賞」が発表された。1980年、ポール・ハミルトン財団主催 で始まったこの賞は、子ども向けのフィクションを対象に、子どもたちの投票によっ て決められる。絵本、短編読み物、長編読み物という3つのカテゴリーでそれぞれ1 作ずつ賞が与えられ、さらにその中から大賞が選ばれる。受賞パーティーには、審査 員の子どもたちの一部も参加して候補作家たちと交流できる。

 今年度の受賞作、および最終候補作(The Top Ten)は以下の通り。


【受賞作】
★大賞(絵本)
(The Overall Winner-The Winner of the Picture Books Category)
"Eat Your Peas" by Kes Gray & Nick Sharratt (The Bodley Head)
☆短編読み物
(The Winner of the Shorter Novels Category)
"Lizzie Zipmouth" by Jacqueline Wilson (Corgi)
☆長編読み物
(The Winner of the Longer Novels Category)
"Harry Potter and the Goblet of Fire" by J.K.Rowling (Bloomsbury)

【The Top Ten】(最終候補の10作。以下は受賞3作品を除いたリスト)
*絵本 (Picture Books)
"The Silver Swan"
 by Michael Morpurgo & Christian Birmingham (Doubleday)
"Owen and the Mountain"
 by Malachy Doyle & Giless Greenfield (Bloomsbury)
"Ellie and the Butterfly Kitten"
 by Gillian Lobel & Karin Littlewood (Orchard)
*短編読み物 (Shorter Novels)
"The Tale of Rickety Hall"
 by Penny Dolan (Scholastic)
"Dog Magic!"
 by Chris Priestley (Corgi)
*長編読み物 (Longer Novels)
"Stormbreaker"
 by Anthony Horowitz (Walker)
"Holes"
 by Louis Sachar (Bloomsbury)


 見事大賞の栄冠を射止めたのは、絵本部門のニック・シャラットとケス・グレイ。夕食時、苦手な食べ物を残そうとするデイジーとママの熱きバトルを描いた作品。 「○○食べなさいよ!」「え〜っ! 嫌いなんだもん」。どこの家庭でも多かれ少なかれ見られる光景なのではないだろうか? 著者グレイは新人で、この作品は "Get Well Soon Book" に続く2作目での受賞。一方、挿絵を担当したシャラットは、今回短編読み物部門で受賞したウィルソンの挿絵も手がけている。明るくからりとした絵が魅力である。

 さて、相変わらず根強い人気のウィルソンとローリング。ウィルソンは大賞を含め3回目の受賞。今回の "Lizzie Zipmouth" は昨年スマーティーズ賞の金賞も受賞した作品である。ママが再婚して新しい家族が出来たのだが、そんな新しい兄弟やパパとなんて「話したくな〜い」と口チャックを決めてしまったリジーの話。またまた複雑な家庭環境がテーマだが、ウィルソンは明るく心温まる話に仕上げている。また、ローリングも「ハリー・ポッター」シリーズ4作目で、4回目の受賞。本誌2000年7月の号外のレビューを参考にしてほしい。

 最終候補作に残った "Holes"(邦題『穴』/幸田敦子訳/講談社)は、1999年のニューベリー賞受賞作本誌1999年2月号にレビューが掲載されている。

(西薗房枝)


[参考]
◇The Federation of Children's Book Groups
◇ACHUKA Children's Books UK 記事
◇「月刊児童文学翻訳」 2000年7月 号外
 「月刊児童文学翻訳」 1999年2月号


2001年ボストングローブ・ホーンブック賞発表   2001年子どもの本賞発表   "The Ghost Behind the Wall"   "Troy"   "The Amber Spyglass"   "FOX"   "Beware of the Storybook Wolves"   "I Will Not Ever Never Eat a Tomato"   『彼の手は語りつぐ』   Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU


特集

―― カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作レビュー ――

 先月号でお知らせしたとおり、カーネギー・グリーナウェイ賞の候補作が出揃った。やまねこ翻訳クラブでは、それぞれの候補作を読み比べ、レビューを書くという企画がおこなわれた。今月と来月の2回にわたり、その成果をご報告したい。今月号では、カーネギー賞3作、グリーナウェイ賞3作のレビューをお届けし、次号では、残りのレビューに加え、受賞結果を速報でお届けする予定。なお、候補作のうち、"Coram Boy"(by Jamila Gavin)は本誌2月号でご紹介ずみである。受賞作の発表は7月13日。

[参考]
◇カーネギー・グリーナウェイ賞サイト
◇賞の詳細については、本誌1999年7月号「世界の児童文学賞」の記事を参照のこと。



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★カーネギー賞(作家対象)候補作
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"The Ghost Behind the Wall"『壁のむこうの幽霊』(仮題)
by Melvin Burgess メルヴィン・バージェス作
Andersen Press 2000, 130pp. ISBN 0862644925


 12歳にしては背が低く、学校でも馬鹿にされていたデイヴィッドは、ある晩、アパートの通風パイプの中に入り込む。小柄な彼がやっと通れるほどのパイプは、各戸の通風口につながっていた。週2回、そこから他人の部屋をのぞくことが、デイヴィッドのひそかな楽しみとなる。だが、アルベストン老人の部屋をのぞいていたとき、不思議なことが起こった。うたた寝をしていた老人が突然目を覚まし、デイヴィッドの姿を見て叫び声をあげると、パイプの中に、青白い顔をした少年の幽霊が現れたのだ。

 作者のバージェスは、いつもより低年齢の読者(9歳以上)を対象としてこの物語を書いたという。だが、ほかの作品同様、現実を見つめる彼の目はシビアだ。たとえばデイヴィッドがいたずら心をエスカレートさせて、幽霊と一緒にアルベストン老人の部屋を荒らし、アルツハイマーの自覚症状に悩んでいた老人がそれを自分でやったことだと思い込んでしまう場面がある。ここでは、無邪気だが考えの足りない行いが時として残酷な結果を生むということを、あらためて考えさせられた。デイヴィッド自身もあとからそれに気づいて反省するところが救いだろうか。

 幽霊の正体の謎解きをからめ、少年と老人、それぞれの孤独と心のふれあいを描いた、短いながらもスリリングで読み応えのある作品である。 

(生方頼子)

【作者】Melvin Burgess(メルヴィン・バージェス)

 1954年、英国生まれ。1997年に "Junk"(邦題『ダンデライオン』池田真紀子訳/東京創元社)でカーネギー賞とガーディアン賞を受賞。その他の邦訳作品に『オオカミは歌う』(神鳥統夫訳/偕成社)、『エイプリルに恋して』(雨沢泰訳/東京創元社)などがある。



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"Troy"『トロイ』(仮題)
by Ade(`)le Geras アデーレ・ジェラス作
※(`)は直前の文字に付く
Fickling / Scholastic 2000, 346pp. ISBN 0439014093


 いにしえのギリシアの神々は、人間のごく身近なところにいて、ときおり姿をあらわしては運命を操った。紀元前13世紀、愛の女神が引き起こしたトロイ戦争が10年間も続き、トロイの市民は疲れ果てていた。物語は、トロイ王家に仕える姉妹の視点から描かれる。姉のマルペッサは、トロイ軍を率い市民の心の支えとなっているヘクトール王子の息子の子守で、妹クサンテは戦争の発端となった絶世の美女、ヘレナの侍女だった。二人は、宮廷の人々の感情の渦を目の当たりにする。退屈した愛の女神は息子エロスに命じ、この娘たちにも愛の矢を向けさせ、一人の若く美しい兵士を巡って姉妹は三角関係に。

 トロイ戦争といえばホメロスの『イリアス』で知る者がほとんどだろう。作者ジェラスは『イリアス』を土台に、独自の感覚でこの遠い過去を生々しく蘇らせる。作品を読むと、負傷した兵士の苦悶や遺族の嘆く声、凄まじい戦場の光景、血のにおいまでが伝わってくる。登場人物も、清くたくましい英雄や楚々とした姫君ではない。人間として避けられないみにくい欲望やよわさを強調して描きあらわされている。
 正直にいえば、児童書にしてはあまりにも衝撃的な描写があり、思わずひるんでしまうほど残虐な場面もでてくる。しかし、「戦争」というものの持つ無意味さ、悲惨さ、残虐性を直接的かつ印象深い形で読者に思い知らせてくれるという意味で貴重な作品かもしれない。

(池上小湖)

【作者】Ade(`)le Geras (アデーレ・ジェラス)

 1944年、エルサレム生まれ。アフリカ諸国などを転々とし、オックスフォード大学卒業後、女優、仏語教師などを経て作家になる。いくつかの文学賞を受賞。邦訳は、アンソロジー『ミステリアス・クリスマス』(パロル舎)中の1作品『思い出は炎のなかに』(嶋田のぞみ訳)のみである。



2001年ボストングローブ・ホーンブック賞発表   2001年子どもの本賞発表   "The Ghost Behind the Wall"   "Troy"   "The Amber Spyglass"   "FOX"   "Beware of the Storybook Wolves"   "I Will Not Ever Never Eat a Tomato"   『彼の手は語りつぐ』   Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU


"The Amber Spyglass"『琥珀の望遠鏡』(仮題)
by Philip Pullman フィリップ・プルマン作
Fickling / Scholastic 2000, 560pp. ISBN 0590542443 (UK)
Knopf 2000, 518pp. ISBN 0679879269 (US)

(このレビューは、US版を参照して書かれています)



『黄金の羅針盤』『神秘の短剣』に続く、「ライラの冒険」シリーズの完結編である。「世界の再生」という使命のもと、次元を超えて旅を続けるライラとウィル。アスリエル卿、コールター夫人、教会組織の指導者たちは、各々の欲望や陰謀を秘め、彼らを必死で追いかける。ふたりを襲う危機また危機。なつかしい友や愛する人との再会。ダイモンとの別れ。そして明かされる、ダストとスペクターと「神秘の短剣」の秘密。はたしてライラとウィルは、自分たちの使命を果たすことができるのか?

 前2作で広げに広げられた壮大な物語世界が、大胆に、そして繊細に、ひとつの「哲学」へと収斂されていく見事なまでの完結編だ。もちろん手に汗にぎる冒険物語としてのおもしろさも健在。ライラとウィルをめぐる息詰まる戦い、彼らを囲む脇役たちの魅力、絡まり合う糸のような謎に、物語の世界へと一気に引き込まれてしまう。

 逃れようのないほど大きなうねりを見せるライラとウィルの運命だが、ふたりは決してその波に翻弄されない。彼らの姿から伝わってくるのは、「どこか別の世界にいる本当の自分」を夢みるのではなく、「この場所にいる今の自分」を受け入れて生き抜けという、骨太なメッセージだ。人間の生に真に大切なものは何かという根源的な問いに、作者は既存の宗教や価値観を打ち破り、自らの哲学で正面から答えを出した。そのどこまでも堂々とした姿勢が、何よりもこの作品の圧倒的な力となっている。

(森久里子)

【作者】Philip Pullman(フィリップ・プルマン)

 1946年英国ノリッジ生まれ。オックスフォード大学卒業。1995年、本シリーズ1作目の "Northern Lights"(米題"The Golden Compass"、邦題『黄金の羅針盤』/大久保寛訳/新潮社)でカーネギー賞、ガーディアン賞を受賞。



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★グリーナウェイ賞(画家対象)候補作
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"FOX"『キツネ』(仮題)
Illustrated by Ron Brooks (Text by Margaret Wild)
ロン・ブルックス絵(マーガレット・ワイルド文)
Watts 2000, 30pp. ISBN 1903012120 (UK)
Allen & Unwin 2000, 30pp. ISBN 1864484659 (AUS)

(このレビューは、US版を参照して書かれています)



 野火で翼に重いやけどを負ったカササギ。片目の見えないイヌに命を救われたが、二度と飛べなくなったことに生きる気力を失っていた。そんなカササギを元気づけようと、イヌは背中にカササギを乗せ、森や草原を風のように走り抜けた。カササギの心によみがえる希望。わたし、また飛べたんだわ! イヌは、わたしの翼になってくれる。それならわたしは、彼の目になろう――。ところがそこへ、はずれものの孤独なキツネがあらわれ、カササギの心は微妙に揺れ動きはじめて……。

 イヌとカササギの友情物語なのに、タイトルは "FOX"。文を書いたマーガレット・ワイルドが「キツネ」にこめた意味を、ロン・ブルックスの絵が鮮やかに表現している。表紙に描かれたキツネの目には、不思議な光と影があり、カササギならずとも、心の奥底でちりりとなにかを感じてしまう。また、ストーリーを語るのは、赤や茶を基調とした絵に縦横無尽に配された、ブルックスの手書き文字。一見荒々しいつくりだが、物語の繊細さは少しも損なわれていない。言葉と絵がひとつとなり、カササギの絶望と希望、イヌの天真爛漫さ、そしてキツネの孤独を、切実に語りかけてくる。

 ちなみにUK版では、文字は手書き風の特殊フォントを用い、横書き一方向に綴られている。オリジナル版の味わいが薄れてしまったのが、少々残念だ。

(森久里子)

【画家】Ron Brooks(ロン・ブルックス)

 1948年、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州生まれ。邦訳に『まっくろけのまよなかネコよおはいり』(J・ワーグナー作/大岡信訳/岩波書店:1978年オーストラリア児童文学賞絵本部門受賞作)、『ぶたばあちゃん』(M・ワイルド作/今村葦子訳/あすなろ書房)など。



2001年ボストングローブ・ホーンブック賞発表   2001年子どもの本賞発表   "The Ghost Behind the Wall"   "Troy"   "The Amber Spyglass"   "FOX"   "Beware of the Storybook Wolves"   "I Will Not Ever Never Eat a Tomato"   『彼の手は語りつぐ』   Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU


"Beware of the Storybook Wolves"『オオカミに気をつけて』(仮題)
by Lauren Child ローレン・チャイルド文/絵
Hodder Children's Books 2000, 32pp. ISBN 0340779152 (UK,hb)
Hodder Children's Books 2001, 32pp. ISBN 0340779160 (UK,pb)
Arthur A. Levine Books 2001, 32pp. ISBN 043920500X (US,hb)

(このレビューは、UK版ペーパーバックを参照して書かれています)



 毎晩ベッドでママに本を読んでもらうハーブのお気に入りは、『赤ずきんちゃん』。でも、オオカミがおっかないから、寝る時、本を部屋の外に持っていってとママに頼んであった。それなのにママが忘れてしまったある晩のこと。まっ暗な部屋でハーブが眠りかけた時、グルルルル……とお腹のなるような音、いやな臭い、誰かに見られている気配。ハーブが部屋に明かりをつけると、ベッドのそばにオオカミがいた!

 このあと、別の二つのおとぎ話からも妖精がぬけだしてきて、愉快なストーリーが展開していく。いたずらがきのような線で描かれた絵を、シンプルな背景に貼りつけたコラージュ手法の絵は、空想の遊びの世界をさらに広げ、読者を大いに楽しませる。

 チャイルドの絵本では、文字がストーリーを伝えるだけでなく、絵と同じように視覚的に語りかけてくる。文字の並び方や大きさ、書体が様々に変化することで、文字自体が豊かな表現力を持つのだ。手書き風の文字を使ったこの絵本でも、オオカミと妖精のセリフは、勢いを感じさせる書体とくるくるした装飾的な筆記体に書き分けられ、キャラクターの個性がより鮮やかに引き出されている。また本の挿絵からハーブがゼリーを持ちだす場面では、うちよせる波のように文字がうねり、ゼリーのぷりんぷりんと揺れる情景がありありと目に浮かんでくる。

 2000年のスマーティーズ賞銅賞受賞作品。

(三緒由紀)

【作者】Lauren Child(ローレン・チャイルド)

 英国南西部の州、ウィルトシャーで育つ。二つのアート・スクールに在籍した後、家具造り、陶器のデザインなど様々な仕事を経験。その後、絵本の創作をはじめる。"Clarice Bean, That's Me" は1999年のスマーティーズ賞の銅賞を受け、昨年のグリーナウェイ賞の次点になっている。



2001年ボストングローブ・ホーンブック賞発表   2001年子どもの本賞発表   "The Ghost Behind the Wall"   "Troy"   "The Amber Spyglass"   "FOX"   "Beware of the Storybook Wolves"   "I Will Not Ever Never Eat a Tomato"   『彼の手は語りつぐ』   Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU


"I Will Not Ever Never Eat a Tomato"(UK版)
"I Will Never Not Ever Eat a Tomato"(US版)

『トマトはたべない! ぜったい、たべない!』(仮題)
by Lauren Child ローレン・チャイルド文/絵
Orchard Books 2000, 32pp. ISBN 1841213977 (UK)
Candlewick Press 2000, 32pp. ISBN 0763611883 (US)

(このレビューは、US版を参照して書かれています)



 ローラに晩ごはんを食べさせるのは大仕事。好き嫌いがはげしいからだ。「トマトなんて死んでも食べない」とか「にんじんはウサギの食べるものだから」なんて言う。そこで兄のチャーリーは策をねった。目の前のにんじんは、実はにんじんではなくて、木星の小枝だと言った。ローラはかじった。グリーンピースは、グリーンランドの空から降るめずらしいドロップ。マッシュポテトは……フィッシュフライは……。次々とローラをまるめこんでいくチャーリーだが、最後にはローラの方が……。

 題名も絵も、とても人目をひく作品。太い線でふち取られた手描きの人物は力強く個性的で、コラージュされた背景に浮き上がるよう。お皿の上の野菜には、本物の写真も使われている。鉛筆描きの下絵をパソコンに取り込み、プリントアウトしたものに彩色やコラージュを施しているそうだ。また、野菜の色に合わせた緑色や赤色の文字、食器棚に収まっている文字や、山のようにうず高く積み上げられた文字など、文字も絵の一部となっていておもしろい。
 さて、どうやって子供の好き嫌いを克服させるか。大人が思いつくのはせいぜい食べ物を小さく切るなどの物理的な細工くらい。でも、チャーリーがやったように精神的な細工をほどこして、小さなプライドを傷つけないことも大切。子供の発想を理解できるかどうか、頭の固くなった大人にもぜひ一緒に読んでもらいたい。

(井口りえ)

【作者】Lauren Child(ローレン・チャイルド)

上記 "Beware of the Storybook Wolves" の項参照。



2001年ボストングローブ・ホーンブック賞発表   2001年子どもの本賞発表   "The Ghost Behind the Wall"   "Troy"   "The Amber Spyglass"   "FOX"   "Beware of the Storybook Wolves"   "I Will Not Ever Never Eat a Tomato"   『彼の手は語りつぐ』   Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU



注目の本(邦訳絵本)

―― 100年以上も語り継がれてきた本当の話 ――


パトリシア・ポラッコ文/絵
『彼の手は語りつぐ』
千葉茂樹訳
あすなろ書房 本体1,600円 2002.07 32ページ

"Pink and Say"
by Patricia Polacco
Philomel Books, 1994
『彼の手は語りつぐ』表紙


 1861年、アメリカでは奴隷制度の是非をめぐり南北戦争が勃発した。国を二分する戦いの中、多くの少年兵が戦地へとかり出された。15歳の白人セイも、北軍として戦う少年兵の一人だった。

 ある時セイは戦場で深い傷を負い、草原に置き去りにされた。そこへ、北軍の黒人少年兵のピンクが通りかかる。セイに気づいたピンクは彼を自分の家へ連れて行くと、母親と一緒にセイを介抱するのだった。やがてセイは少しずつ元気を取り戻し、わずかだが歩けるようになった。このまま順調に恢復すれば、じきに戦場へ戻れるだろう。だがセイは恐ろしい戦場へなど、二度と行きたくなかった。ピンクの気持ちは違った。彼はセイにこう語る。「おれたちが戦わなければ、だれが戦うんだ。たとえ奴隷でも、自分のほんとうの主人は、自分以外にはいない」

 本書はアメリカ南北戦争を舞台に、二人の少年の心の交流を描いた作品だ。前半は悲惨な戦地の様子と愚かしい奴隷制度について淡々と綴られるが、後半にさしかかったところで大きな展開を見せる。

 主人公のセイ少年は作者パトリシア・ポラッコの先祖。つまりこの話は、ポラッコ家で代々語り継がれてきた実話なのだ。100年以上も伝えられてきたストーリーに年月の重みを感じると共に、切ない気持ちでいっぱいになる。物語にあるような体験をしたのはセイやピンクだけではないだろう。多くの人々が彼らのような苦しみを味わったに違いない。そう思うと、この絵本を幾度となく読み返してしまうのだ。

 彼らに何が起きたのか。そしてタイトルの「彼の手」とは何を意味するのか。長い時を経て届いた物語をぜひかみしめてほしい。彩度の低い抑えた色合いで統一された絵も事実を静かに伝えてくれる。本書は落ち着ける場所で、じっくりと読みたい1冊だ。
(瀬尾友子)


【作者】パトリシア・ポラッコ(Patricia Polacco)
1944年、アメリカ・ミシガン州ランシング生まれ。カリフォルニア美術工芸大学などで学ぶ。『チキン・サンデー』(福本友美子訳/アスラン書房)、『かみなりケーキ』(小島希里訳/あかね書房)、"The Keeping Quilt" など、自らの家族の歴史を題材とした作品を数多く手がける。

【訳者】千葉茂樹(ちば しげき)
1959年北海道生まれ。国際基督教大学卒業。児童書の編集者を経た後、英米作品の翻訳に従事。訳書に『ちいさな労働者』(ラッセル・フリードマン作/あすなろ書房)、『みどりの船』(クェンティン・ブレイク作/あかね書房)、『スターガール』(ジェリー・スピネッリ作/理論社)などがある。


2001年ボストングローブ・ホーンブック賞発表   2001年子どもの本賞発表   "The Ghost Behind the Wall"   "Troy"   "The Amber Spyglass"   "FOX"   "Beware of the Storybook Wolves"   "I Will Not Ever Never Eat a Tomato"   『彼の手は語りつぐ』   Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU


Chicocoの親ばか絵本日誌 第11回 よしいちよこ

―― 「まだまだ続く、乗り物好き」 ――


 しゅんは2歳3か月。いまの彼に欠かせないのが機関車トーマスです。1歳半ごろ、図書館でなにげなく読んだ『きかんしゃトーマスとパーシーのけんか(きかんしゃトーマスのアニメ絵本15)』(ウィルバート・オードリー作/まだらめ三保訳/ポプラ社)が始まりでした。1か月ぐらいたったある日、しゅんはたまたま見かけた緑の機関車を指さし「パーシー」といいました。わたしはパーシーのことなど忘れていましたが、調べるとあっていることがわかり、息子の記憶力に驚きました。しゅんは図書館に行くたびにトーマスの本棚に直行します。映像でおなじみの写真を使った「きかんしゃトーマスのアニメ絵本」シリーズと、機関車たちの顔がややあっさり、ほのぼのとした絵の「きかんしゃトーマスのえほん」シリーズ(ともにポプラ社)を手当りしだいに読んでいます。いつのまにか、ジェームズ、トービーといった有名なキャラクターはもちろん、ファルコン、ラスティ、デュークなどマイナーなキャラクターも見わけて名前をいえるようになりました。機関車の名前をこんなに覚えられるのなら、もっと将来役にたちそうなことを覚えさせたいと欲張りな親心がおきました。そこで "Thomas the Tank Engine's ABC Fun Book"(Random House)を買い、フォニックスをまじえて「A、ア、ア、アニー」と教えると、しゅんは大喜び。あっというまに「E、エ、エ、エドワード」「G、グ、グ、ゴードン」などといえるようになりました。ただしNやLなどキャラクターと無関係な文字はいまだに覚えられません。

 ところで、児童図書館でお話会をしているNさんから「きっとしゅんくんが好きだと思う」と、『はたらく くるま』(バイロン・バートン作/あかぎかずまさ訳/インターコミュニケーションズ)をすすめていただきました。いろいろな作業車が力をあわせて工事をすすめます。しゅんは何度も読んでいるのに、毎回はじめて読んだように目をかがやかせ、「クレーンしゃ、ビルこわしてるね。ブルドーザー、キャタピラついてる。ダンプトラック、せなかにざざざーだね」とジェスチャーをまじえて精一杯説明します。先日、ふたりで工事現場を通りかかりました。しゅんは20分もそこを動こうとせず、ショベルカーが掘り起こした土をダンプにのせるのを見続けました。その日の夜は『はたらく くるま』をいつも以上に繰り返し読みました。

 しゅんの乗り物好きはいつまで続くのでしょう。いま覚えたたくさんのことはいつまで覚えているものなのでしょう。これからの変化が楽しみです。

2001年ボストングローブ・ホーンブック賞発表   2001年子どもの本賞発表   "The Ghost Behind the Wall"   "Troy"   "The Amber Spyglass"   "FOX"   "Beware of the Storybook Wolves"   "I Will Not Ever Never Eat a Tomato"   『彼の手は語りつぐ』   Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU



●編集後記●

候補作レビュー特集は、以前からやってみたかった企画。実現できてう れしいです。お読みになったご感想など、ぜひお寄せください。(き)


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1984年、テキサス州ダラス生まれ。「fun, smile and humor」がモットーです。楽しいイラスト入りのティン缶がパッケージ。お店でお好きな絵柄をお選びください。申し遅れましたが私は「カジュアル・ウオッチ」。老若男女の皆様にご提供できる豊富な品揃えが自慢です。日本でもお買い求めいただけます。詳しくはフォッシル・ホームページまで。

★フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社


発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: 蒲池由佳(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: かもめ 河まこ キャトル きら くるり こべに さかな 小湖 Gelsomina sky SUGO Chicoco ちゃぴ つー どんぐり NON BUN ベス みーこ みるか MOMO YUU りり Rinko ワラビ わんちゅく
協 力: @nifty 文芸翻訳フォーラム
小野仙内 ながさわくにお りんたん


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