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月刊児童文学翻訳

─2003年12月号(No. 56 書評編)─

※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/
編集部:[email protected]
2003年12月15日発行 配信数 2,370


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎特集
第6回やまねこ賞――会員が選んだ、今年の邦訳児童書ベスト5は?
読み物部門
絵本部門
未訳部門
オールタイム部門

◎賞情報1
2003年 全米図書賞発表

◎賞情報2
2003年 スマーティーズ賞発表

◎Chicoco の親ばか絵本日誌
第25回「みんなの幸せを願うとき」(よしいちよこ)



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(株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社

 

特集 協賛:(株)フォッシルジャパン

―― 第6回やまねこ賞 ――

 

 過日、やまねこ翻訳クラブで、昨年11月から今年10月までに出版された邦訳児童書、および、過去に海外で出版された未訳児童書を対象に、ベスト5の投票が行われました。以下にその結果をご報告します。大賞に輝いた邦訳作品の翻訳家の方には、賞状と副賞が贈られます。なお、前回に引き続き、株式会社フォッシルジャパンより、副賞の時計 (*)をご提供いただきました。

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「読み物」「絵本」の分類については、原則として(株)図書館流通センター(TRC)による分類種別に準拠していますが、一部の本については、当クラブの判断で種別を変更しています。
 記事中に記載した、本誌の過去のレビューについては、やまねこ翻訳クラブサイトに掲載のバックナンバーをご参照ください。
http://www.yamaneko.org/mgzn/
 なお、すべての投票と感想はこちらでごらんいただけます。
http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm

 

★☆★☆【2003年 第6回やまねこ賞 読み物部門】☆★☆★

 

★大賞

『ブリット‐マリはただいま幸せ』
アストリッド・リンドグレーン作 石井登志子訳 徳間書店
「親愛なる、まだ見ぬペンフレンドさま!」スウェーデンの小さな町に暮らす15歳の少女ブリット‐マリが、ペンフレンドに送った手紙に綴る、にぎやかで愛情あふれる家族との生活、友だちづきあい、恋心、戦争の影、豊かな自然とのふれあい、そしてクリスマスや春の訪れ。リンドグレーンが少女むけ懸賞小説に応募して入賞したデビュー作。
『ブリット‐マリはただいま幸せ』表紙

 

【受賞のことば】 翻訳家 石井登志子さん

 やまねこ賞をいただく喜びは、リンドグレーンが懸賞小説『ブリット‐マリはただいま幸せ』で、入賞したときの喜びと同じぐらいかしら。とすると、勝利のダンスを踊らなくちゃ。クルクルランラン♪♪♪ デビュー作の後も、楽しくゆかいなのや、心を打つ悲しいのや、不思議な世界に誘い込むファンタジーなどひとつひとつが独特の世界を持つすばらしい作品ぞろいでした! でも、スウェーデンで国民的な人気者になっても、おごることもなくヴィンメル村のアストリッドであり続けた彼女は偉大でした! すばらしい作品と出会えたことと、やまねこの会員のみなさまのお目に留まったことに感謝いたします。 

 

◆2位

『シカゴより好きな町』表紙
『シカゴより好きな町』
リチャード・ペック作 斎藤倫子訳 東京創元社
 大恐慌の最中、父親が失業したためにシカゴから小さな町に住む祖母の家に身を寄せた15歳の少女メアリ・アリス。型破りで豪胆なおばあちゃんとの生活に戸惑うことも多いが、少しずつたくましくなり、町にとけこんでいく。2001年にやまねこ賞を受賞した『シカゴよりこわい町』の続編。2001年ニューベリー賞受賞。

本誌2001年4月号書評編「注目の本」のレビューをご参照ください)

 

 

◆3位

『走れ、走って逃げろ』
ウーリー・オルレブ作 母袋夏生訳 岩波書店
 第二次大戦中のポーランド。ナチスから逃れるためユダヤ人ゲットーから脱出した8歳の少年スルリックは、生きるために逃げ続ける生活を余儀なくされた。家族とはぐれ、身分を隠して放浪し、一瞬たりとも気を抜くことのできない毎日を生き抜いた少年の物語。
『走れ、走って逃げろ』表紙

本誌増刊号No.7「ウーリー・オルレブ特集号」のレビューをご参照ください)

 

 

◆4位(2作同点)

『夜中に犬に起こった奇妙な事件』表紙
『夜中に犬に起こった奇妙な事件』
マーク・ハッドン作 小尾芙佐訳 早川書房
 近所の飼い犬が殺されているのを発見したクリストファー。アスペルガー症候群(広義の自閉症の一種)で人づきあいが苦手な少年が不安や恐怖に耐えながら、事件を解決したい一心で様々な人と関わり、思いがけない事実を知る。2003年度ガーディアン賞受賞。

本誌2003年10月号書評編「ガーディアン賞受賞作レビュー」をご参照ください)

 

 

◆4位(2作同点)

『ザッカリー・ビーヴァーが町に来た日』
キンバリー・ウィリス・ホルト作 河野万里子訳 白水社
 「世界一ふとった少年」ザッカリー・ビーヴァーが町に来た日から、すべてが変わり 始めた。テキサス州の田舎町で退屈な毎日を送っていた13歳の少年トビーが、見世物としてやってきた男の子との出会いをきっかけにまわりの大人たちと新たな関係を築き、つらい試練も乗り越えていく。1999年、児童書(Young People's Literature)部門で全米図書賞受賞。
『ザッカリー・ビーヴァーが町に来た日』表紙

 

 

◆6位以下の作品

《6位》 《7位》 《8位(2作同点)》 《8位(2作同点)》

『セカンドサマー【トラベリング・パンツ2】』表紙

『セカンドサマー【トラベリング・パンツ2】』
アン・ブラッシェアーズ作
大嶌双恵訳
理論社

『アナベル・ドールの冒険』表紙

『アナベル・ドールの冒険』
アン・M・マーティン&
ローラ・ゴドウィン作
ブライアン・セルズニック絵
三原泉訳
偕成社

『もうひとりの息子』表紙

『もうひとりの息子』
ドリット・オルガッド作
樋口範子訳
さ・え・ら書房
 

『ローワンと白い魔物』表紙

『ローワンと白い魔物』
エミリー・ロッダ作
さくまゆみこ訳
佐竹美保絵
あすなろ書房
《10位(4作同点)》 《10位(4作同点)》 《10位(4作同点)》 《10位(4作同点)》

『ホー HOOT』表紙

『ホー HOOT』
カール・ハイアセン作
千葉茂樹訳
理論社

『宇宙のかたすみ』表紙

『宇宙のかたすみ』
アン・M・マーティン作
金原瑞人・
中村浩美訳
アンドリュース・プレス
 

『ハングマン・ゲーム』表紙画像なし

『ハングマン・ゲーム』
ジュリア・ジャーマン作
橋本知香訳
偕成社

『あわれなエディの大災難』表紙

『あわれなエディの大災難』
フィリップ・アーダー作
デイヴィッド・ロバーツ絵
こだまともこ訳
あすなろ書房

 
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★☆★☆【2003年 第6回やまねこ賞 絵本部門】☆★☆★

 

★大賞

『ねんどぼうや』表紙
『ねんどぼうや』
ミラ・ギンズバーグ文 ジョス・A・スミス絵 覚和歌子訳 徳間書店
 おじいさんとおばあさんが、ねんどをこねてつくった「ねんどぼうや」。食いしん坊のねんどぼうやは、もりもり食べてでっかくなる。でも、パンやミルクじゃぜんぜん足りない。にわとりや猫や犬を、がぶっ、ごぶっとのみこんでも、まだまだ足りない! こわいもの見たさの緊張感と、ヒーロー登場の安堵感が絶妙のバランスをもつ昔話絵本。

 

 

【受賞のことば】 翻訳家 覚和歌子さん

 初めての翻訳なので、編集担当と協議しながら楽しくやらせていただきました。ハッピーエンドとはいえ強烈で残酷な話なので、子供の受けとめ方を考えながら、ねんどぼうやが食べるときの口元の擬音など、表現を匙加減しました。とはいえ、この世は光と影で成立しているわけですから、その両方をうまく見せてあげることは、大人の大事な役目かもしれません。

 

◆2位

『だいすき そんなきもちをつたえてくれることば』表紙
『だいすき そんなきもちをつたえてくれることば』
ハンス・ハーヘン、モニック・ハーヘン作 マーリット・テーンクヴィスト絵
野坂悦子、木坂涼訳 金の星社 
 ひとりでいるとき、小さな女の子は考える。夢、夜、雲、おひさま、大好きって思う気持ちのことを。幼い子どもが世界を感受するようすを、素直でやさしい言葉でうたい、しずかであたたかみのある絵で表現した詩の絵本。

本誌2003年5月号書評編「注目の本」のレビューをご参照ください)

 

 

◆3位

『おしゃぶりがおまもり』
ウーリー・オルレブ文 ジャッキー・グライヒ絵 もたいなつう訳 講談社
  ヨナタンはもう4歳なのに、まだおしゃぶりが手放せない。なくなるたびに大騒ぎ。そこで家族のみんなは、なんとかヨナタンにおしゃぶりを卒業させようとするが……。『かようびはシャンプー』にはじまる、シリーズ4作目。
『おしゃぶりがおまもり』表紙

本誌増刊号No.7「ウーリー・オルレブ特集号」のレビューをご参照ください)

 

 

◆4位

『ナーサリー・クライムズ しちめんどうくさい七面鳥盗難事件』表紙
『ナーサリークライムズ しちめんどうくさい七面鳥盗難事件』
アーサー・ガイサート作 久美沙織訳 BL出版
 ブタのジャンボ一家は感謝祭に向けて、大きな七面鳥型のトピアリー(装飾用に刈りこんだ植木)を用意した。ところがある夜、トピアリーがごっそり盗まれてしまった。犯人を捕まえるんだ! コブタきょうだいが知恵をしぼる。独特の味わいのあるガイサートの銅版画には、ユーモアがいっぱいつまっている。

 

 

◆5位

『ピクニックにいこう!』
パット・ハッチンス作 たなかあきこ訳 徳間書店
 きょうはとてもいい天気。めんどりとかもとがちょうが、ピクニックに出かけていくが、楽しみにしていたおべんとうを開けてみると、中身はからっぽ! すっきりと明るい、くりかえし読みたくなる楽しい絵本。
『ピクニックにいこう!』表紙

本誌2003年7月号書評編「Chicoco の親ばか絵本日誌」をご参照ください)

 

 

◆6位以下の作品


《6位(2作同点)》 《6位(2作同点)》
『ちびうさまいご!』表紙

『ちびうさまいご!』
 ハリー・ホース作
千葉茂樹訳
光村教育図書
『クリスマスのちいさな木』表紙

『クリスマスのちいさな木』
クリス・ラシュカ作
e.e.カミングズ詩
さくまゆみこ訳
光村教育図書
《8位》 《9位(2作同点)》 《9位(2作同点)》
『デザートタウン』表紙

『デザートタウン』
ボニー・ガイサート文
アーサー・ガイサート絵
久美沙織訳
BL出版
『オリビア…ときえたにんぎょう』表紙

『オリビア…ときえたにんぎょう』
イアン・ファルコナー作
谷川俊太郎訳
あすなろ書房
『いたずらハーブえほんのなかにおっこちる』表紙

『いたずらハーブえほんの
なかにおっこちる』
ローレン・チャイルド作
中川千尋訳
フレーベル館

 

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★☆★☆【2003年 第6回やまねこ賞 未訳部門】☆★☆★

 

★大賞

"baby loves" works of art by Mary Cassatt, by William Lach
(2002年 アメリカ)
 アメリカの印象派画家、メアリー・カサットが "baby" を描いた16の作品に、メトロポリタン美術館所属の編集者ウィリアム・ラックが、詩のような短い言葉を添えて作り上げた美しい本。

本誌2003年9月号書評編「注目の本」のレビューをご参照ください)

 

 

◆2位

"The Canning Season" by Polly Horvath
(2003年 アメリカ)
 本年度の全米図書賞に輝いた、ホーヴァートの最新作。身勝手な母親の都合で、ひ と夏を遠縁の双子のおばあさんと過ごすことになった少女の成長物語。やまねこ会員に人気があるホーヴァート。6位には "When the Circus Came to Town" も入っている。

本誌今月号「賞情報1」をご参照ください)

 

 

◆3位(3作同点)

"Black Jack" by Leon Garfield
(1969年 イギリス)
 絞首刑を辛うじて免れた大男の悪党ブラックジャックと、不本意ながら彼と行動をともにするはめになった少年、バーソロミューの活躍を描く。

 

 

◆3位(3作同点)

"The Mystery of the Haunted Caves" by Penny Warner
(2001年 アメリカ)
  ガールスカウト13団の4人組が団対抗レースに燃え、洞穴に隠された本物の宝を見つけようと危険な冒険にも乗り出す。2002年に児童書及びヤングアダルト部門で、アガサ賞受賞。

 

 

◆3位(3作同点)

"When Everybody Wore a Hat" by William Steig
(2003年 アメリカ)
  ウィリアム・スタイグが子ども時代の思い出をつづった絵本。スタイグは10月3日に亡くなったため、生涯最後の作品となった。

本誌2003年11月号書評編「注目の本」のレビューをご参照ください)

 

 

◆6位以下の作品

《6位(4作同点)》 《6位(4作同点)》 《6位(4作同点)》 《6位(4作同点)》
"If You Come Softly"
Jacqueline Woodson作
"Wedding Flowers"
Cynthia Rylant作
Wendy Anderson
Halperin絵
"Journey
to the River Sea"
Eva Ibbotson作
"When the Circus
Came to Town"
Polly Horvath作

 

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★☆★☆【番外編 第6回やまねこ賞 オールタイム部門】☆★☆★

 

 出版年を問わず、過去1年間にやまねこ翻訳クラブ会員が読んだ児童書の中から、ベスト5を選出しました。

 

《1位》 《2位》
『トラベリング・パンツ』表紙

『トラベリング・パンツ』
アン・ブラッシェアーズ作
大嶌双恵訳
理論社

やまねこのおすすめ2003年9月
のレビューをご参照ください)

『砂のゲーム――ぼくと弟のホロコースト』表紙

『砂のゲーム――
ぼくと弟のホロコースト』
ウーリー・オルレブ作
母袋夏生訳
岩崎書店

本誌増刊号No.7「ウーリー・オルレブ特集号」
のレビューをご参照ください)

《3位(2作同点)》
「がまくんとかえるくん」シリーズ アーノルド・ローベル作 三木卓訳 文化出版局

「ちゃいるどぶっく・あっとらんどく」第9号をご参照ください)

『ふたりはともだち』表紙 『ふたりはいっしょ』表紙 『ふたりはいつも』表紙 『ふたりはきょうも』表紙
『ふたりはともだち』 『ふたりはいっしょ』 『ふたりはいつも』 『ふたりはきょうも』>
《3位(2作同点)》 《5位》
『ふたりのアーサー1 予言の石』表紙

『ふたりのアーサー1 予言の石』
ケビン・クロスリー=ホランド作
亀井よし子訳
ソニーマガジンズ

本誌2001年9月号書評編
「注目の本」のレビューをご参照ください)

『ガールズ イン ラブ』表紙

『ガールズ イン ラブ』
ジャクリーン・ウィルソン作
尾高薫訳
理論社

本誌2002年9月号書評編
「注目の本」のレビューをご参照ください)

 

 1位の『トラベリング・パンツ』は、魔法のジーンズをめぐる4人の少女の友情物語。映画化も予定されている話題のYA作品は、続編『セカンドサマー』(読み物部門6位)と共に、シリーズでやまねこに旋風を巻き起こした。「何度読んでも切なくなります」(ラナ)、「女の子たちの勇気に拍手をおくりたい」(河まこ)など、主人公たちへの共感の声が多かった。

 2位には、当クラブの「ウーリー・オルレブ読書月間」で読まれた本の中から、『砂のゲーム』が浮かびあがってきた。「この本は一生の思い出、宝になると思います」(なおみ)などのコメントから、オルレブ作品の奥深さがうかがえる。また3位の「がまくんとかえるくん」シリーズは、当クラブの会員が発行するメールマガジン「ちゃいるどぶっく・あっとらんどく」で紹介されてから、会員の間で再ブームが起こった経緯をもつ。「5歳の娘がいつのまにか1人で読めるようになっていました。でも、読んでもらうほうが好きなようです」(hanemi)と、親子で楽しめる作品だ。

 同点3位の『ふたりのアーサー1 予言の石』は、昨年のやまねこ賞7位の作品。ファンタジーブームはまだまだ続いている。5位『ガールズ イン ラブ』の作家、ジャクリーン・ウィルソンは、会員の間でも人気が高い。増刊号「ガールズ」シリーズ特集号も発行されたばかりで、今後さらに人気が上昇することが予想される。

 投票全体をながめると、名作を読み返して再び感動にひたった者から、比較的新しい作品を追いかけた者まで、会員たちの幅広い読書内容が映し出された結果であった。

 

【参考】

◇やまねこ翻訳クラブおすすめの本 レビュー集

◇ちゃいるどぶっく・あっとらんどく バックナンバー

◇やまねこ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)

 

(笹山裕子/なかつかさ ひでこ/赤塚京子/植村わらび)

 

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賞情報1

―― 2003年 全米図書賞発表 ――

 

 11月19日、全米図書財団により全米図書賞が発表された。全4部門のうち、ここでは児童書部門(Young People's Literature)の結果について取り上げる。本賞の詳細については、今月号の本誌情報編「世界の児童文学賞」を参照のこと。

 

The National Book Award

★児童書部門(Young People's Literature)

"The Canning Season"
by Polly Horvath (Farrar, Straus & Giroux)

 1999年に "The Trolls" で本賞候補となったホーヴァートが、初の栄誉に輝いた。受賞作は、母親からじゃまにされたあげく、遠い親戚に当たる双子のおばあさんの家に預けられた少女、ラチェットが主人公。変わり者だが愛情豊かなおばあさんたちのもとでラチェットが成長する姿を、あたたかな筆致で描いている。

(森久里子)

【参考】

◆この賞を主催する全米図書財団の発表記事

◇全米図書賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)

◇ポリー・ホーヴァート作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)

 

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賞情報2

―― 2003年 スマーティーズ賞発表 ――

 

 12月1日、英国における最大規模の児童文学賞、第19回スマーティーズ賞の結果が発表された。この賞は、6名の専門家からなる成人の審査員が選定した、児童文学と詩のショートリストをもとに、英国在住の11歳以下の子どもたちがもっとも好きな作品を選び、その作者に与えられるものである。今年は2万5千人以上の子どもたちが参加した。対象年齢別の各部門の受賞者は下記の通り。

 

The Nestle(´) Smarties Book Prize 2003
※アクサン・テギュ(´) は、直前の文字の上につく。

★Gold Award★
【5 and under】 【6-8】 【9-11】
"The Witch's Children
and the Queen"
by Ursula Jones
illustrated by Russell Ayto
(Orchard Books)
"Varjak Paw"
by SF Said
illustrated by Dave McKean
(David Fickling Books)
"The Fire-Eaters"
by David Almond
(Hodder Children's Books)
 
◆Silver Award◆
【5 and under】 【6-8】 【9-11】
"Tadpole's Promise"
by Jeanne Willis作
illustrated by Tony Ross
(Andersen Press)
"The Last Castaways"
by Harry Horse
(Puffin Books)
"Montmorency"
by Eleanor Updale
(Scholastic Press)
 
◆Bronze Award◆
【5 and under】 【6-8】 【9-11】
"Two Frogs"
by Chris Wormell
(Jonathan Cape Children's Books)
"The Countess's Calamity"
by Sally Gardner
(Bloomsbury Publishing PLC)
"The Various"
by Steve Augarde
(David Fickling Books)
 
◆Kids' Clubs Network Special Award◆
"The Countess's Calamity" by Sally Gardner (Bloomsbury Publishing PLC)

 

 金賞受賞者のなかで今年もっとも注目されたのは、6〜8歳部門の SF Said である。ジャーナリストの SF Said は、ヨルダン皇太子のスピーチライターという異色の経歴の持ち主で、児童書の世界ではまったくの新人。今後の活躍が期待される。5歳以下部門の Ursula Jones は、"The Witch's Children" で、2001年度のケイト・グリーナウェイ賞のショートリストに選ばれた。9〜11歳部門の David Almond の "The Fire-Eaters" は、今年度のウィットブレッド賞のショートリストにも選ばれており、来年1月の発表が楽しみである。本作のレビューは本誌2003年10月号書評編に掲載している。Almond の邦訳には、『ヘヴン・アイズ』(金原瑞人訳/河出書房新社)などがある。

 銀賞の Jeanne Willis は、"The Rascally Cake" で1995年度のチルドレンズ・ブック賞を受賞。また、Harry Horse は、1998年に "The Last Gold Diggers" で、スマーティーズ賞6〜8歳部門の金賞を受賞している。Horse の邦訳には、『ちびうさまいご!』と『シロクマをさがしに』(ともに千葉茂樹訳/光村教育図書)がある。歴史家でもある Eleanor Updale の作品の邦訳はまだない。

 銅賞受賞の Chris Wormell は、"George and the Dragon" で2003年度のチルドレンズ・ブック賞のショートリストに残った。Sally Gardner には Magical Children Series などたくさんの作品があるが、邦訳はされていない。また Steve Augarde は幼児向けの仕掛け絵本を数多く出している作家で、『トラクターこうじょう』(エリノア・バグナル文/そのひかる訳/評論社)など邦訳も数冊ある。受賞作は読み応えのあるファンタジーである。

(なかつかさ ひでこ)

 

【参考】

◆この賞を主催するブックトラストのサイト(2005年度よりネスレ子どもの本賞に変更:2008年3月追記)

◇"The Fire-Eaters" のレビュー(本誌2003年10月号書評編)

◇スマーティーズ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)

 

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Chicocoの親ばか絵本日誌 第25回 よしいちよこ

――「みんなの幸せを願うとき」  ――

 

『ペッテルとロッタのクリスマス』表紙 今年もクリスマスがやってきます。しゅんと『ペッテルとロッタのクリスマス(エルサ・ベスコフ作/ひしきあきらこ訳/福音館書店)を読みました。ペッテルとロッタが3人のおばさんの家で暮らすようになってはじめてのクリスマス。イブにドアから入ってきたのは、こわそうな〈やぎおじさん〉です。やぎおじさんはプレゼントをくれました。その後、やぎおじさんの正体は森に住む王子さまだと聞かされたふたりは、王子さまを探し出し、来年のクリスマスにはおばさんたちにもプレゼントを届けてほしいとお願いしようと思います。しゅんは「あれー? サンタさんはお熱かなあ。ぼくが年少さん(現在、幼稚園の年中組)のときはサンタさんが来た? やぎおじさんが来た?」とききました。わたしが「さあ、夜で寝てたから、どうだったかわからない」というと、しゅんは「こんどは寝ないでまっとく」。ペッテルとロッタがおばさんたちにプレゼントを作るのを読み、しゅんは「おかあさんもプレゼントほしい?」とききました。「そりゃ、ほしいよ!」とわたしがこたえると、しゅんはさっそく折り紙でプレゼントを作ってくれました(秘密にしたり時期を待ったりできないたちなのです)。「この飛行機な、3つに分離するねん。で、こうしたらまた合体するねん。出発、ひゅーん」けっきょく自分で遊んでいるのでした。原書は1947年、スウェーデンでの出版。異国の文化を発見しつつ、懐かしさも感じる絵です。邦訳の出版は2001年ですが、その懐かしさを大切に訳されていると感じました。時がたっても国が違っても変わらない、クリスマスのあたたかさをしっかりと伝えてくれる絵本。

『おしっこぼうや せんそうにおしっこをひっかけたぼうやのはなし』表紙『おしっこぼうや せんそうにおしっこをひっかけたぼうやのはなし』(ウラジーミル・ラドゥンスキー作/木坂涼訳/セーラー出版)を読みました。小さな美しい町に、ぼうやがおとうさんとおかあさんと幸せに暮らしていました。ところが、ある日、戦争がおこったのです。町はすっかりさびしくなり、ぼうやのおとうさんとおかあさんもいません。そのとき、ぼうやにはさしせまった問題がありました。おしっこ、がまんできないっ! しゅんはおしっこの場面に爆笑し、何度もくりかえし読みました。そんななか、「せんそうってなあに?」とききました。この絵本のわかりやすい絵と言葉を助けに、ふたりではじめて戦争について話しました。テレビで遠い国の戦争のニュースを見て、しゅんが「いま戦争っていった」とつぶやきました。日常生活のなかでわが子の口から戦争という言葉を聞き、わたしはあらためて戦地の子どもたちのことを思い、心が痛みました。しゅんは「戦争があったら、ぼくが高いところにのぼって、おしっこをかけてやる!」と口をきゅっとむすびました。世界中の子どもたちに幸せな未来がおとずれますようにと、この季節に心から願います。

 

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●お知らせ●

 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。


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●編集後記●

この1年間は、自分としては例年になく本をたくさん読んだ年でした。でも、世の中にはまだまだ面白い本がたくさんありますね。やまねこ賞の投票結果を見ながら、次はどれを読もうかと頭を悩ませています……。(あ)
発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: 竹内みどり(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 赤塚京子(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
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