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月刊児童文学翻訳

─2007年5月号(No. 90)─

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版+書店街>
http://www.yamaneko.org/
編集部:mgzn@yamaneko.org
2007年5月15日発行 配信数 2370

もくじ

 ◎賞情報1:2006年度カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作発表
 ◎賞情報2:カーネギー賞70周年、ケイト・グリーナウェイ賞50周年記念
オールタイムベスト・ノミネート作品発表
 ◎注目の本(邦訳読み物):『ピトゥスの動物園』
サバスティア・スリバス作/宇野和美訳
 ◎注目の本(未訳絵本):"Augustus and his Smile" 
キャサリン・レイナー文・絵
 ◎世界の本棚(ドイツ語):"Der 35. Mai, als comic" 
イザベル・クライツ文・絵/エーリヒ・ケストナー原作
 ◎賞速報
 ◎イベント速報
 ◎やまねこカフェ:海外レポート 第6回ドイツ(ドレスデン)
 ◎4月号「読者プレゼント」当選者発表!
 ◎読者の広場:3月号「お菓子の旅・フィナンシェ」への質問

●このページでは、書店名をクリックすると、各オンライン書店で詳しい情報を見たり、本を購入したりできます。

 

●賞情報1●2006年度カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作発表

 4月20日、カーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞のショートリスト(最終候補作)が発表された。英国図書館協会が主催するこの賞は、イギリスでは最も権威ある児童文学賞である。昨年11月にロングリストが発表され、カーネギー賞に37作品、ケイト・グリーナウェイ賞に33作品が挙がっている。受賞作の発表および、授賞式は6月21日。ショートリストは以下の通り。ロングリストは、やまねこ翻訳クラブサイトの「速報(海外児童文学賞)」コーナーに掲載中。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award


【カーネギー賞候補作】〜 Carnegie Medal 〜(作家対象)

"The Road of the Dead" by Kevin Brooks (The Chicken House)

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"A Swift Pure Cry" by Siobhan Dowd (David Ficking Books)

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"The Road of Bones" by Anne Fine (Doubleday)

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"Beast" by Ally Kennen (Marion Lloyd Books)

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(『ビースト』)

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"Just in Case" by Meg Rosoff (Penguin)

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"My Swordhand is Singing" by Marcus Sedgwick (Orion)

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 ここ2年ほど40を超える作品がロングリストに選ばれていたが、今年は久しぶりにノミネート数が減少している。そのなかでベテラン、中堅、新人とバランスよく6作品が最終候補に残った。ベテランの Anne Fine は、1989年度に "Goggle-eyes"(『ぎょろ目のジェラルド』岡本浜江訳/講談社)、1992年度に "Flour Babies"(『フラワー・ベイビー』墨川博子訳/評論社)で本賞を受賞しているだけでなく、さまざまな作品で何度も候補に選ばれている。また、Kevin Brooks と Marcus Sedgwick は、ともに2002年度の最終候補に選ばれており、これが2回目のショートリスト入りとなる。これまでにも、いろいろな文学賞の候補に挙げられているふたりだけに、今回も期待が寄せられている。デビュー作で2004年度のロングリストに選ばれた Meg Rosoff は、読み物2作目にして初めて最終候補に残った。こうしたベテラン、中堅の活躍とともに注目したいのが、デビュー作で選ばれた Siobhan Dowd と Ally Kennen だ。ともに、今年度の名だたる児童文学賞にノミネートされており、賞の行方とどのような絡みを見せるか、目が離せない。

 姉が家から遠く離れた場所で絞殺されたことを知ったふたりの弟が、姉になにが起きたのかをたどっていく様子を描いたのが、Brooks の "The Road of the Dead" だ。 暴力に警鐘を鳴らしながらも、説教くささのない作品に仕上がっている。
 Dowd の "A Swift Pure Cry" は、今年度すでに4つの文学賞にノミネートされている作品。母の死により幼い弟妹の世話をすることになった少女シェルは、自分の境遇に嫌気がさし、どこにも希望を見いだせない毎日を送っていた。そんなシェルのことを、教会にやってきた新しい司祭はなにかと気にかけていたが……。
 Fine は、全体主義国家の恐ろしさを "The Road of Bones" で描く。専制君主が追放されたにもかかわらず、ユーリ少年の住む国ではいまだに人が失踪し、二度と姿を見せないという現象が続いていた。そんなある日、ユーリはうかつに口にした一言で、国家の敵とみなされてしまう。果たしてユーリの運命はどうなるのだろうか。
 17歳の少年スティーヴンには秘密があった。それは、貯水池にある檻で、恐ろしい生き物「ビースト」を飼っていること。スティーヴンの危険な冒険と心の成長を描いた作品、Kennen の "Beast" は、すでに2006年7月、早川書房より『ビースト』(羽地和世訳)として邦訳出版されている。
 "Just in Case" は、デビュー作 "How I Live Now"(『わたしは生きていける』小原亜美訳/理論社)で数々の文学賞にノミネートされた Rosoff の作品。自分の名前を変え、家を離れ、まったくの別人として運命に立ち向かおうとする15歳の少年の姿を描く。
 Sedgwick の "My Swordhand is Singing" は、東ヨーロッパに伝わる吸血鬼伝説を題材としている。厳寒の森の中できこりとして働く父が持つ、息子も知らない秘密とは……。

【参考】
▼Kevin Brooks のページ(Teenreads 内)
http://www.teenreads.com/authors/au-brooks-kevin.asp

▼Siobhan Dowd 公式ウェブサイト
http://www.siobhandowd.co.uk/

▼Anne Fine 公式ウェブサイト
http://www.annefine.co.uk/

▼Ally Kennen 公式ウェブサイト
http://www.allykennen.com/

▼Meg Rosoff のページ(BookBrouse 内)
http://www.bookbrowse.com/biographies/index.cfm?author_number=1059

▼Marcus Sedgwick 公式ウェブサイト
http://www.marcussedgwick.com/

▽ケヴィン・ブルックス作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/b/kbrooks.htm

▽アン・ファイン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/f/afine.htm

▽メグ・ローゾフ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/r/mrosoff.htm

(村上利佳)

 

【ケイト・グリーナウェイ賞候補作】〜 Kate Greenaway Medal 〜(画家対象)

"The Elephantom"
        by Ross Collins (Templar)

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"Orange Pear Apple Bear" by Emily Gravett (Macmillan)

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"The Adventures of the Dish and the Spoon"
        by Mini Grey (Jonathan Cape)

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"Scoop!: An Exclusive by Monty Molenski"
        by Cathy Tincknell & John Kelly (Templar)

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"Augustus and his Smile"
        by Catherine Rayner (Little Tiger Press)

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"The Emperor of Absurdia" by Chris Riddell (Macmillan)

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 ロングリスト33作品中、今年は6作品がショートリストに残った。このうち Chris Riddell と Emily Gravett が本賞受賞経験者、Cathy Tincknell と John Kelly のコンビ、そして Mini Grey が2度目のショートリスト入りを果たすなど、まさに現在注目されている画家が勢揃いしたといえる。

  イギリスだけでなく、アメリカやドイツでも人気のある Ross Collins は、ゾウの おばけに悩まされる女の子をポップに描いた "The Elphantom" で初のノミネート。日本でも紹介されている『いつでもふたり』(カレン・ウォーラス文/せなあいこ訳/評論社)をはじめ、これまで手がけた作品は50作以上にのぼる。
 昨年度、デビュー作 "Wolves" で本賞を受賞した Emily Gravett は、順調に実績を重ね、今年もノミネートされている。"Orange Pear Apple Bear" では、4つの単語を次々と入れかえながら、ユーモラスでほほえましい世界を創りだしている。
 Mini Grey も、昨年度に続いてのショートリスト入り。おなじみのマザーグース "Hey-Diddle-Diddle" を題材にした "The Adventures of the Dish and the Spoon" は、スピーディーな展開と、遊び心いっぱいの生き生きとした絵で、読者を魅了する。
 Cathy Tincknell と John Kelly の "Scoop!: An Exclusive by Monty Molenski" は、スクープをものにしようと四苦八苦する、モグラの記者の物語。2004年度のショートリストに選ばれた "Guess Who's Coming for Dinner?" 同様、コンピューター・グラフィックスを駆使した映画のような世界が広がる。
 Catherine Rayner は、2006年に Booktrust Early Years Awards の Best New Illustrator にも選ばれた "Augustus and his Smile" でノミネート。この作品については本誌今月号の注目の本(未訳絵本)でも紹介している。笑うことを忘れてしまったトラのオーガスタスは、果たして笑顔を取り戻せるのだろうか?
 そして Chris Riddell は、2001年度に "Pirate Diary"(『海賊日誌 少年ジェイク,帆船に乗る』リチャード・プラット文/長友恵子訳/岩波書店)で、2004年度に "Jonathan Swift's“ Gulliver” "(『ヴィジュアル版 ガリヴァー旅行記』ジョナサン・スウィフト原作/マーティン・ジェンキンズ文/原田範行訳/岩波書店)で本賞を受賞しているベテラン。今回ノミネートされた "The Emperor of Absurdia" は、奇妙な国のかわいい王様のお話。みょうちきりんな風景が次から次へと現れるナンセンス絵本は、独特の魅力にあふれている。

(笹山裕子)

【参考】
▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞サイト
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について
               (本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト
                        (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm




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●賞情報2●
カーネギー賞70周年、ケイト・グリーナウェイ賞50周年記念
オールタイムベスト・ノミネート作品発表

 2006年度で、カーネギー賞は70周年、ケイト・グリーナウェイ賞は50周年を迎える。
これを記念して、各賞それぞれ過去の受賞作品のなかでもっとも愛された作品が選ばれることとなった。4月20日に各賞のノミネート10作品ずつが発表されるとともに、一般読者の投票受け付けが開始された。結果は、今年度の受賞作品と同じ6月21日に発表される予定。
 カーネギー賞は、70年という歴史の中で90年代半ば以降に出版されたものが4作品もあった。一方、ケイト・グリーナウェイ賞は70年代、80年代の作品が6割を占めている。ちなみに、どちらの賞も邦訳がでていないのはそれぞれ1作品のみ。1998年に創刊した本誌は新刊をメインに紹介してきたため、レビューが掲載されたことがあるのはノミネート中4作品だったが、ノミネート作品のほとんどがやまねこ翻訳クラブで行われた読書会などで読まれ、話題にのぼった作品である。

【投票ページはこちら(カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞サイト内)】
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/celebration/top_tens.php


★カーネギー賞ノミネート作品(作家対象)
TOP 10 CARNEGIE MEDAL WINNERS

"Skellig" by David Almond (Hodder) 1998

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『肩胛骨は翼のなごり』デイヴィッド・アーモンド作/山田順子訳/東京創元社(2000)

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"Junk" by Melvin Burgess (Andersen Press) 1996

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『ダンデライオン』メルヴィン・バージェス作/池田真紀子訳/東京創元社(2000)

"Storm" by Kevin Crossley-Holland (Heinemann) 1985

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『あらし』ケビン・クロスレー・ホーランド作/島田香訳/ほるぷ出版(1990)

"A Gathering Light" by Jennifer Donnelly (Bloomsbury Children's Books) 2003
     ※米国版タイトル "A Northern Light"

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"The Owl Service" by Alan Garner (Collins) 1967

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『ふくろう模様の皿』アラン・ガーナー作/神宮輝夫訳/評論社(1972)

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"The Family From One End Street" by Eve Garnett (Muller) 1937

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『ふくろ小路一番地』イーヴ・ガーネット作/石井桃子訳/岩波書店(1957)

"The Borrowers" by Mary Norton (Dent) 1952

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『床下の小人たち』メアリー・ノートン作/林容吉訳/岩波書店(1956)

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"Tom's Midnight Garden" by Philippa Pearce (OUP) 1958

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『トムは真夜中の庭で』フィリパ・ピアス作/高杉一郎訳/岩波書店(1967)

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"Northern Lights" by Philip Pullman (Macmillan) 1995
     ※米国版タイトル "The Golden Compass"

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『黄金の羅針盤』フィリップ・プルマン作/大久保寛訳/新潮社(1999)

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"The Machine-Gunners" by Robert Westall (Macmillan) 1975

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『“機関銃要塞”の少年たち』ロバート・ウェストール作/越智道雄訳/評論社(1980)

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★ケイト・グリーナウェイ賞ノミネート作品(画家対象)
TOP 10 KATE GREENAWAY MEDAL WINNERS

"Each Peach Pear Plum" illustrations by Janet Ahlberg (Kestrel) 1978

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『もものきなしのきプラムのき』
  アラン・アールバーグ文/ジャネット・アールバーグ絵/佐藤凉子訳/評論社(1981)

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"Tim All Alone" by Edward Ardizzone (OUP) 1956

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『チムひとりぼっち』
   エドワード・アーディゾーニ文・絵/なかがわちひろ訳/福音館書店(2001)

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"Mr Magnolia" by Quentin Blake (Cape) 1980

『マグノリアおじさん』クェンティン・ブレイク文・絵/谷川俊太郎訳/佑学社 (1984)

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"Father Christmas" by Raymond Briggs (H Hamilton) 1973

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『さむがりやのサンタ』
   レイモンド・ブリッグス文・絵/すがはらひろくに訳/福音館書店(1978)

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"Gorilla" by Anthony Browne (Julia MacRae) 1983

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『すきですゴリラ』アント(ソ)ニー・ブラウン文・絵/山下明生訳/あかね書房(1985)

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"Borka: the Adventures of a Goose with No Feathers" by John Burningham (Cape) 1963

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『ボルカ はねなしガチョウのぼうけん』
   ジョン・バーニンガム文・絵/木島始訳/ほるぷ出版(1993)

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"I Will Not Ever Never Eat a Tomato" by Lauren Child (Orchard Books) 2000
     ※米国版タイトル "I Will Never Not Ever Eat a Tomato"

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『ぜったいたべないからね』ローレン・チャイルド文・絵/木坂涼訳/フレーベル館(2002)

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"Dogger" by Shirley Hughes (Bodley Head) 1977

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『ぼくのワンちゃん』シャリー・ヒューズ文・絵/あらいゆうこ訳/偕成社(1981)

"The Highwayman" illustrations by Charles Keeping (OUP) 1981

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"Alice in Wonderland" illustrations by Helen Oxenbury (Walker Books) 1999

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『ふしぎの国のアリス』
   ルイス・キャロル文/ヘレン・オクセンバリー絵/中村妙子訳/評論社(2000)

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【参考】
▽ "Skellig" のレビュー(「月刊児童文学翻訳」1999年7月号「注目の本」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07b.htm#a1skellig

▽ "Junk" のレビュー(「月刊児童文学翻訳」1998年11月号「注目の本」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1998/11.htm#miyaku
『ダンデライオン』のレビュー(やまねこ翻訳クラブレビュー集 今月のおすすめ)
http://www.yamaneko.org/dokusho/shohyo/osusume/2000/lion.htm

▽ "A Gathering Light"("A Northern Light") のレビュー
(「月刊児童文学翻訳」2004年2月号「注目の本」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2004/02b.htm#n_light

▽ "Northern Lights"("The Golden Compass") のレビュー
(やまねこ翻訳クラブ注目の未訳書6 フィリップ・プルマン)
http://www.yamaneko.org/dokusho/yosho/miyaku/1998/compass.htm
『黄金の羅針盤』のレビュー(やまねこ翻訳クラブレビュー集 今月のおすすめ)
http://www.yamaneko.org/dokusho/shohyo/osusume/2000/lyra.htm

▽ "I Will Not Ever Never Eat a Tomato" ("I Will Never Not Ever Eat a Tomato")のレビュー
(「月刊児童文学翻訳」2001年6月号「カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作レビュー」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2001/06b.htm#tomato

(横山和江)

 



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●注目の本(邦訳読物)●

―― 下町っ子のパワー全開! ピトゥスをスウェーデンに! ――

『ピトゥスの動物園』
サバスティア・スリバス作/宇野和美訳

あすなろ書房 定価1,365円(税込) 2006.12 191ページ ISBN 978-4751519028
"El zoo d'en Pitus" by Sebastia Sorribas
Editorial La Galera, 1966

 スペインはバルセロナの下町に住む、仲よし6人組を紹介しよう。リーダーでしっかり者のタネット、物づくりの天才フレミング、勉強家のジュリ、元気者のマネリトゥス、アイデアマンの豆タンク、そして、町じゅうの人気者ピトゥスだ。ところが、 7歳で最年少のピトゥスが、10万人に1人という難病にかかってしまった。スウェーデンに行かなければ治療ができず、それには大変なお金がかかる。下町の人々は福引大会やチャリティーコンサートを開いて費用を集めたが、目標額にはまだまだ遠い。
 そんなある日、タネットは仲間たちに、あき地に動物園をつくって入園料を集めようと提案する。5人が町じゅうの子どもたちに呼びかけて歩くと、集まった助っ人はなんと50人以上。神父さまの紹介で、動物学者プジャーダスさんの協力も得られることになった。さっそく班ごとに作業を開始したが、ポスター班はまるで幼稚園だし、会場班は不用品を使ったおりづくりに四苦八苦。そして動物班は――。
 神父さまはこの計画を聞いたとき、思わず「むちゃだ」と言ってしまいそうになったが、これはおとななら誰でも共感するだろう。子どもたちには、おりをつくることひとつとっても簡単ではないし、一生懸命なあまりお互いの気持ちがすれ違うこともある。しかし、そんな困難もなんのその。子どもたちは自力で問題を解決しながら、しだいに町じゅうの心をひとつにしていく。一方おとなたちは決して出すぎることなく、裏方としてしっかり支えている。おかげで子どもたちは、目標へ向かって全力を出しきることができた。その達成感はどれほど大きかったことだろう、と思ったとき、おとなのあるべき姿に改めて気づいた。最初から無理と決めつけたり、逆に、子どもたちの仕事を奪ったりしてはならないのだ。難しいことだが、おとなは手を抜かずに程よいバランスを保たなければいけない。
 訳者あとがきによると、原作は1999年に行われたある調査で、カタルーニャ地方の子どもたちから最も支持された作品のひとつになったそうだ。この物語を読んだ子どもたちは、わくわくどきどきしながら、登場人物と同じ喜びを味わうことができたに違いない。日本の子どもたちにも、そしておとなたちにもぜひ読んでほしい作品だ。

(赤間美和子)


【作】サバスティア・スリバス(Sebastia Sorribas)

1928年スペインのバルセロナ生まれ。本作は初めての作品で、1965年に第1回フォルク・イ・トーラス賞を受賞した。以来、小学校の教師をつとめながら作家活動を続け、内戦後のカタルーニャ児童文学を代表する作家となった。2006年には十数年ぶりに新作も発表している。

【訳】宇野和美(うの かずみ)

1960年大阪生まれ。出版社勤務を経て、スペイン児童文学の翻訳に携わる。1999年よりバルセロナ自治大学大学院に留学、修士課程修了。現在はイスパニカ通信講座講師もつとめている。主な訳書に『ベラスケスの十字の謎』(エリアセル・カンシーノ作/徳間書店)、『ぼくのミラクルねこネグロ』(オスバルド・ソリアーノ作/アリス館)などがある。

【参考】
▼Sebastia Sorribas のページ
       (カタルーニャ語作家協会のウェブサイト内、カタルーニャ語ほか)
http://www.escriptors.cat/autors/sorribasse/index.php

▽宇野和美訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/kuno.htm

▽本誌2000年9月号情報編「プロに訊く」
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/kuno.htm

【特殊文字】
「Sebastia」:最後の「a」の上にアクサン・グラーヴ(`)がつく

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●注目の本(未訳絵本)●

―― 切ない旅、だけど世界はこんなにも美しい! ――

『SMILE ――えがおをなくしたトラのおはなし』(仮題)
キャサリン・レイナー文・絵

"Augustus and his Smile" by Catherine Rayner
Little Tiger Press, 2006 ISBN 978-1845062835
29pp.

 トラのオーガスタスは悲しんでいる。「笑顔」をなくしてしまったからだ。そこで、トラらしくぐんと大きくのびをすると、なくした笑顔を探しにでかけた……。
 巻末の説明によれば、オーガスタスはネコ科最大の動物、シベリアトラである。どっしりとした重量感、しなやかな動き、美しい毛並みはまさに王者の風格。それでいて親しみがわくのは、ぽっちりとした小さな目と先っぽがくるんと丸まったしっぽのせいだろう。作者レイナーは、犬、猫、馬、モルモット、それに金魚と暮らしている。絵のモデルはペットたちが務めてくれることもあるそうだが、トラは動物園で観察したらしい。キャラクターをデザインするとき、レイナーはまず、鉛筆でその動物をさまざまな角度から描いてみる。それがひとつの命となって息づき、動きだし、やがて自らの物語を語りだすまで。
 では、オーガスタスの語ってくれた物語は? 彼は、自分の笑顔を探して、遠くに出る。くさむらをのぞき、高い木に登り、山々を越え、海にもぐり、砂漠を歩く。ページをめくるたび、豊かな色彩に目をみはった。木々の緑、夕闇せまる空の紫、青青と澄んだ海、黄金色の砂、色とりどりの鳥や魚……。鮮やかでありながら自然の温もりを感じさせる美しい色の世界が、ページの枠を越え、はてしなく広がっている。
 オーガスタス自身も実に美しい。背景のどんな色にもくっきり映える黒いしま模様は、アクリルインクをスポイトで流しているのだそうだ。オーガスタスを描くだけでも、ほかに茶色のボールペンと茶色の水彩絵の具、水彩の色鉛筆、白のアクリル絵の具が使われている。大胆かつ斬新な作風は、画材の選び方にも表れているようだ。いったいどうやって描いているのかと、ひとつひとつ想像してみるのも楽しい。
 絵の構成はいたってシンプル。だが、色の魔術が読み手の想像力を刺激するのに加え、主役オーガスタスの描かれ方が実に雄弁で、なにげない表情やしぐさから繊細な心の動きが自然と伝わってくる。そして、彼の長い旅路をともに歩いているような気がしてくるのだ。ほんの小さな探しものだが、その旅は、読み手を新鮮な驚きと温かな幸福感に満ちた広い世界へと連れていってくれる。

(杉本詠美)


【文・絵】Catherine Rayner(キャサリン・レイナー)

英国ヨークシャー生まれ、エディンバラ在住。本書がデビュー作。エディンバラ・カレッジ・オブ・アート在学中に、この作品のもとになった "Dreaming of Augustus" を制作。それが卒業制作展で出版社の目にとまり、一部手直しの上、翌年出版の運びとなった。次回作は子ウサギを主人公にした絵本で、同じく Little Tiger Press 社より出版の予定。

【参考】
▼作者インタビュー(BRAW:スコットランドの児童書ネットワーク内)
http://www.braw.org.uk/tabid/348/Default.aspx

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●世界の本棚(ドイツ語)●

―― 風薫る季節に読みたい一冊 ――

『五月三十五日』(仮題)
 イザベル・クライツ文・絵/エーリヒ・ケストナー原作
"Der 35. Mai, als comic" by Isabel Kreitz and Erich Kastner
Cecilie Dressler Verlag, 2006 ISBN 978-3791511610 (Germany)
100pp.

 世界的に有名な作家エーリヒ・ケストナーのお話が、ドイツでコミックとして登場した。ケストナー作品は、これまで映画化されたものも多いが、コミック化は今回が初めて。"Der 35. Mai" はケストナーが1931年に発表し、日本でも『五月三十五日』(高橋健二訳/岩波書店「ケストナー少年文学全集8」)や『スケートをはいた馬』(鈴木武樹訳/講談社「こどもの世界文学17」)などの邦訳で紹介されているので、なじみの読者も多いだろう。とてつもない空想でいっぱいのお話だ。
 5月35日、その日、コンラート少年はやりきれない気持ちだった。算数の点数がよすぎたために、優秀なやつには想像力がないと先生に見なされ、南洋をテーマに作文を書けと言われたのだ。午後、コンラートを迎えにきたリンゲルフートおじさんは、立派な作文を仕上げて先生を見返してやろうと、コンラートを励ます。そして2人は、サーカスの馬といっしょにたんすの中を通り抜け、いざ南洋へと出発する。ニワトリがいきなりハムエッグを産む〈なまけものの国〉や、大人が学校に通い子どもが先生をする〈さかさの国〉など、奇想天外な世界を通り抜けると、そこは赤道直下。鋼鉄でできた赤道の上を、スケートですべる馬に乗り、2人がたどり着いた南洋では、白人と黒人を親に持つ女の子に会う。その子の肌は、なんとチェス盤のような白と黒の市松模様になっていて……。
 冒頭には、多くのケストナー作品に挿絵を描いた画家ワルター・トリヤーへの献辞がある。丸みのある線とクラシカルで全体に品よく仕上がった絵は、トリヤーをほうふつとさせ、往年の読者なら、ノスタルジックな気分になる。懐かしさをほどよく感じる表紙は、既刊本と比べても違和感がなく、ケストナーファンなら、ぜひコレクションに加えたい一冊だ。コマ割りは、1ページあたり縦3段組、横2コマほどと大きく、イラストの展開は自然で無理がない。ペンと水彩絵の具を使ったオールカラー、B5判より一回り小さいサイズで、ハードカバーの装丁。コミックという視覚的な表現媒体は、新しい世代を本の世界に引き込むだろう。
 新緑の木陰や、ライラックやバラが咲く野でページをめくれば、コンラートたちの笑い声が聞こえてきて、まるで彼らと同時代に生きている感覚に襲われる。5月35日は、何が起こっても不思議ではない日。そんな日が本当にあるような気がしてくる。

(大隈容子)


 

【文・絵】Isabel Kreitz(イザベル・クライツ)

1967年ドイツ、ハンブルク生まれ。ハンブルクやニューヨークの大学で美術を学んだ後、イラストレーターの仕事に従事、現在までに多くのコミックを発表している。2002年ドイツ語圏のコミックを対象にした「マックスとモーリッツ賞」にノミネートされる。文学作品への取り組みも意欲的で、ウーヴェ・ティム作 "Die Entdeckung der Currywurst"(『カレーソーセージをめぐるレーナの物語』浅井晶子訳/河出書房新社)をコミックで発表している。

【参考】
▼イサベル・クライツ紹介ページ(ウィキペディア内、ドイツ語)
http://de.wikipedia.org/wiki/Isabel_Kreitz

▼イザベル・クライツ紹介ページ
     (カナダ・ゲーテ・インスティトゥート公式ウェブサイト内、ドイツ語)
http://www.goethe.de/ins/ca/lp/prj/grn/kue/kre/deindex.htm

【特殊文字】
「Kastner」:「a」の上にウムラウト(¨)がつく

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●賞速報●

★2007年オーストラリア児童図書賞候補作発表(受賞作の発表は8月の予定)
★2007年オランダ金・銀のキス賞受賞作発表
★2007年ローカス賞ファイナリスト発表(受賞作の発表は6月17日)
★2007年MWA賞(エドガー賞)受賞作発表
★2007年アガサ賞受賞作発表
★2007年エズラ・ジャック・キーツ賞発表
★2007年ブランフォード・ボウズ賞ショートリスト発表(受賞作の発表は6月28日)

海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」をご覧ください。

 

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●イベント速報●

★展示会情報

美術館「えき」KYOTO「リサとガスパール&ペネロペ展」
大丸ミュージアム札幌「あべ弘士の世界展――動物たちがまちにやってきた」
ちひろ美術館「ちひろとアジアの絵本画家たち」など
 

★セミナー・講演会情報

教文館 子どもの本のみせ ナルニア国「神宮輝夫氏講演会」など
 
 
 詳細やその他の展示会・セミナー・講演会情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、空席状況については各自ご確認願います。

(井原美穂/笹山裕子)



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●やまねこカフェ 海外レポート●第6回ドイツ(ドレスデン)

〜エーリヒ・ケストナー博物館 見学レポート〜

 ドイツの書店で児童書コーナーの定番というと、やはりエーリヒ・ケストナーの作品。彼は没後30数年たった今でも、ドイツの子どもたちに愛され続けている作家のひとりです。今回、そんなケストナーの生まれ故郷、ドレスデンへ行く機会を得て、市内にあるエーリヒ・ケストナー博物館(Erich Kastner Museum)を訪ねてきました。
 博物館があるのは、市中心部の北側。旧市街地区から北へ向かってエルベ川を渡り、ハウプト通りを北上するとアルベルト広場にぶつかります。この広場の西に隣接している3階建ての家が博物館です。ここはかつてケストナーの叔父の別荘だったところで、2000年のケストナー生誕101年の誕生日に博物館として開館しました。広場でバスを降りると、まず、わたしはその家の塀に座って広場を眺めている少年の銅像に気づきました。それは少年時代のケストナー。塀にはプレートがはめこまれていて、彼の自伝『わたしが子どもだったころ』(高橋健二訳/岩波書店)の一節「わたしは何よりも好んで庭のへいの上にうずくまって、アルベルト広場のにぎわいをながめた」が記されていました。この近所に住んでいたケストナーは、実際、しょっちゅうここへ遊びに来ていたようです。ありし日の姿をこんなふうにして残すなんて、いいですよね。
 塀をまわると、この建物の門がありました。でも、門にも建物にも何も表示はなく、あるのは歩道にちょこんと置かれた案内板だけ。博物館の入り口はこの家の玄関で、なんだか個人のお宅にお邪魔するような感じです。中に入ると、案内係の人が2、3人いました。そのうちのひとりが展示室の外の廊下で、ケストナーの生い立ちやドレスデンでの暮らしぶり、また展示方法について、壁に貼られているパネル写真などを示しながら流暢な英語で説明してくれました。係の方の話では、展示室には13の柱があり、各柱には色でジャンル分けされた引き出しがついていて、その中に資料が入っているとのこと。柱は可動式で、いつでも展示内容を替えられるようになっているのだそうです。
 説明を聞き終わって、さあ、いよいよ展示室へ。なるほど、たしかに細長い本棚のような柱があります。引き出しの色は6色あり、緑は子ども時代、赤は人道主義者・社会批判家としてのケストナー、黄は児童文学関係、青はメディアや演劇、白はビデオやテープなどのライブラリー、グレーは当博物館に関するもの、とカテゴライズされています。来館者はそれらの引き出しを開けて、中を自由に見ることができます。そこで早速、わたしも引き出しをいろいろ開けてみました。その中には手紙や写真、直筆の原稿、新聞記事など(コピーを含む)さまざまなものが入っています。ケストナーの宝箱をひとつずつ開けていっているみたいでわくわくします。でも、引き出しがとてもたくさんあって、すべては見られないと観念し、緑(子ども時代)と黄(児童文学関係)を中心に見ることにしました。資料はすべてドイツ語なので、電子辞書と首っ引きです。そんな中、ケストナーのギムナジウム(中高等学校)時代の成績表を発見! 非常に優秀な成績です。とくに物理、化学、生物が得意だったようです。でも、ギリシャ語はかなり苦手だった模様。他には『飛ぶ教室』や『エーミールと探偵たち』の映画台本、生誕100年の記念切手(『エーミールと探偵たち』の表紙の図柄)、自伝のゲラとおぼしきもの、そして日本語の翻訳書も6冊ほどありました。また、ショーケースにはケストナーが着用した背広や帽子、愛用したタイプライターも展示されています。ライブラリーの充実度もかなりのものです。展示室のとなりにはガラス張りのサンルームがあり、椅子に座って閲覧できます。こうやって引き出しを開けていくうちに、ケストナーがどういう人生を送ったのかが少しずつわかってきました。児童文学作家としてだけでなく、メディアや演劇の分野でも活躍し、ナチス政権時代には思想の弾圧を受けて辛い日々を送ったことを、わたしは今回初めて知りました。見学後、外に出て庭を歩いてみました。広い庭には緑がたくさんあって、とてもいい気持ちです。同行の夫に外観の写真撮影を頼み、わたしはケストナーのごとく、塀からしばし広場を眺めました。彼はここでどんなことを考えていたのでしょうね。
 ケストナーが少年時代までを過ごした3軒の家が、この広場から北に伸びる国王橋通りにあります。せっかくなのでそこまで行ってみることにしました。通りを歩いていくと、次第に華やかさが薄れ、ひなびた感じがしてきました。広場から一番近い38番地に3軒のうち最後に住んだ家が、その先の48番地に2番目に住んだ家が、さらにまた先の66番地に生家がありました。3軒とも5、6階建てのアパートで、生家の入り口にだけプレートがあり、「作家エーリヒ・ケストナーはこの家で生まれた」と記されていました。彼の自伝によれば、次第に暮らし向きがよくなっていって、住まいはだんだん広場に近づき、部屋の階も下に移っていったのだそうです。
 ドレスデンは第二次世界大戦で壊滅的な被害を受けた町ですが、東西ドイツ統一後、復興が進み、今世紀に入ってようやくかつての姿を取り戻しました。故郷ドレスデンを愛してやまなかったケストナーが、よみがえったこの町を見たら、どんなに喜んだことでしょう。この日はケストナーにたっぷり浸った一日となりました。

※『飛ぶ教室』は岩波書店(高橋健二訳、池田香代子訳)や光文社(丘沢静也訳)などから、また『エーミールと探偵たち』は岩波書店(高橋健二訳、池田香代子訳ほか)から複数の版が刊行されている。

(蒲池由佳)

【参考】
▼エーリヒ・ケストナー博物館公式ウェブサイト(ドイツ語、英語ほか)
http://www.erich-kaestner-museum.de/index_a.html

▽映画になった児童文学(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/gen/eiga/kesto.htm

★現地レポート フォト・ページ
   「ケストナー博物館と国王橋通りのアパート」 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2007/05_erich.htm

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●4月号「読者プレゼント」当選者発表!●

 4月15日発行の本誌「読者プレゼント」に、たくさんのご応募をいただきありがとうございました。厳正なる抽選の結果、下記の方が当選されました。

             ★☆★ さらんさん ★☆★

 おめでとうございます!
 作者のデイヴィッド・ヒルさんと翻訳者の田中亜希子さんのサイン入り『僕らの事情。』を、さらんさんにお送りしたところ、さっそくご感想をいただきましたので、ご本人に承諾いただいたものを下記に掲載いたします。

【さらんさんより】

『僕らの事情。』のサイン本、届きました!
 先月のメルマガでは、デイヴィッド・ヒルさん来日インタビューの記事を興味深く読ませていただき、ぜひ内容・翻訳ともに素晴らしいこの作品をもう一度じっくり読んでみたい気持ちになり、応募させていただきました。作者ご本人と憧れの先輩、両方のサインが入った貴重な本をいただくことができて、本当にありがとうございます。嬉しくて、おもわず原書も注文してしまいました(笑)。

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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!

このコーナーでは、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。
  • メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
  • タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
  • 掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
  • 質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。編集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。


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●編集後記●

やまねこがカーネギー賞読破マラソンを開催したのは、発足した明くる 年の1998年。カ・グ賞はニ・コ・プ賞とならんで偉大なテキストの山でした。そのふ たつの児童文学賞が今年は70年と50年のお祝いだそうです。Happy Anniversary!(お)

発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: 冬木恵子(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人:大原慈省/横山和江/井原美穂(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: 赤間美和子 大隈容子 蒲池由佳 かまだゆうこ 笹山裕子 杉本詠美 早川有加 冬木恵子 村上利佳
協 力: 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
ながさわくにお
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